夏休みの避暑地で
翌年の夏の暑さはそれは酷いものだった。朝の出勤時から照りつける陽射しの強いこと、満員電車内の混雑は地獄のようで、駅から数分の会社まで辿り着くと、バッグから扇子を取り出しバタバタと上から下まで扇ぎまくった。
「暑いわね~」と、都留野さんの後に入社した高橋さんが、声をかけてきた。高橋さんは一応は、私の後輩だが、システム会社歴が長いため、最初から、私にタメ口をきき、私たちは何となく、お昼休みを伴にする仲になった。
「こんなに暑いと、何処かへ避暑に行きたくなるわね。」と、私は、例えばのつもりで言ったのだが、高橋さんが、「ねぇ、有休使って、一緒に行かない?そうね、軽井沢とかは?」
軽井沢は、私にとって、初めて訪れる地だった。
避暑地という割には、それほど涼しくもなく感じたが、時折そよぐ風は心地良く感じられた。
高橋さんと、街並みを散策していると、いつの間にか現れたのが、高橋さんの彼氏。で、びっくり仰天した。
「た、高橋さん、あれ、聞いてなかったけど、彼氏さんもご一緒だったのね。」
「ごめんね、木内さん、言ってなくて。そうなの。途中から、別行動になってもいいかなぁ?」
と、手を合わせる。
「うん。いいわよ。一人でぶらぶらしてみる。お二人で、ごゆっくりね。」
なんだかちょっとほっとしたわ、と、とりあえず、かなり歩いたから、カフェに入ってみた。
注文を取りに来たのは、笑顔が爽やかな、ボーイの制服がビシッと似合う麗しいイケメンの青年だ。
私は、彼があまりにも綺麗な顔立ちだったから、思わず、大胆にも、開口一番、聞いてしまった。
「どこかで見たような。テレビに出てる方ですか?」
「いや、違いますよ。よく言われますが、まだ、テレビには出ていません。でも、俳優業をやってます。まだ勉強中なんで、バイトで食いつないでますけどね。」
まぁ、なんだか、ドラマチックな出会い。ほんとに、テレビドラマや映画のワンシーンみたいだわ。
私たちは、揃って、ミスチルのファンであることがわかった。
「リョウくん、若いのに、渋い趣味なのね」
好きな曲のフレーズを一つ二つ交わしただけで、避暑地の魔法にかかったのか、私はこの時、不覚にも、出会ったばかりのこの青年と、連絡先を交換してしまったのである。




