表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/46

エピローグ:雨上がりの交差点

あの日、夕立ちのオフィスからの帰り、駅の改札で角田さんと別れてから、私の世界は一度、完全に音を失った。

角田さんは変わらず会社にいて、時折、大迫さんと冗談を言い合って笑っている。でも、私はもう、彼のデスクにコーヒーを運ぶことはない。彼の「風呂に入っていない」という牽制球さえ、今思えば、私を傷つけないための精一杯の、そして彼女への誠実な「壁」だったのだと痛いほど分かるから。


都留野さんからは、結局、一度も連絡は来なかった。

角田さんの口から彼女の名前を聞いた時、私は自分がどれほど傲慢だったかを思い知らされた。彼女を追い詰め、居場所を奪った私が、彼女の恋人と結ばれようとしていたなんて。

「繋がらない」のは、物理的な距離のせいじゃない。私自身が、彼女との絆を断ち切ってしまった報いだったのだ。



九月に入り、あれほど猛威を振るった暑さも、夕暮れ時には少しだけ秋の気配を帯びるようになった。

退勤後、私はいつものカフェに向かう。

「いらっしゃい」

マスターの穏やかな声が、ささくれ立った心を少しだけ撫でてくれる。

「今日は、少し顔色が明るいですね」

「……そうですか? 酷い失恋をしたばかりなんですけど」

「それは災難でしたね。でも、何かを一つ手放した人の顔ですよ」

マスターが出してくれた苦いコーヒーを啜りながら、私は窓の外を眺める。


結局、私は「社内恋愛だけは金輪際すまい」という誓いを、一番残酷な形で守ることになった。

でも、不思議と後悔はしていなかった。

なりふり構わず誰かを好きになったあの数週間の熱量だけは、嘘じゃなかったから。

「ごちそうさま」

店を出ると、アスファルトには打ち水の名残が光っていた。


角田さんと都留野さんが、今、どこでどんな言葉を交わしているのか、私には知る由もない。

私はただ、自分の足元を確かめるように、夜の街へと歩き出す。

次に誰かと繋がることがあるのなら。その時は、誰かを傷つけることのない、真っ直ぐな道の上で出会いたい。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ