9話 精霊なのに追放されたボク、万能だと言っても信じてもらえない
国王夫妻との面会を終え、帰宅した自室で――。
精神的に疲れたレイヴンは、ドサッとベットに倒れ込んだ。
『大丈夫かいレイヴン? ちょっと辛そうだったけど……』
「そうねメイプル、結構しんどいかも……」
心配するメイプルに、素直に弱音を吐くレイヴン。
「私、思ったより陛下と王妃様の事を心の拠り所にしていたみたい。ああして突き放されちゃって、何だか世界で一人ぼっちになった気分かも……」
『何言ってるんだよレイヴン! キミは一人ぼっちなんかじゃない、これまでボクがずっと傍にいただろ!』
「アンタこそ何言ってるの。私とメイプルの付き合いなんて昨日からの短い間柄でしょ?」
『違うよ、だから言ったじゃないか! レイヴンがボクをみえるようになったのが最近なだけで、ボクはキミの傍にずっといたんだ! キミが妃教育に懸命だった姿を、ずっと見守ってきたんだよ?』
「メイプル……」
メイプルの言葉に、胸が温かくなるレイヴン。
メイプルは胸を張って宣言する。
『ボクはこれからもレイヴンの傍にいる! ずっとキミの味方でいるからね?』
「そう……ありがとうメイプル」
少し顔を赤くしながらお礼を言うレイヴン。
「だったらメイプル、一つ聞いていいかな?」
『何だいレイヴン? 何でも聞いてよ』
「アンタ……私に一体何を隠してるの?」
『うっ……』
どうやらレイヴンは彼女の学校での失言を忘れていなかったようだ。
突然詰められ言葉に詰まるメイプル。
「アンタが私の前世を知ってる理由、まだ答えてもらってなかったよね?」
『そ、そうだっけ?』
「誰に聞いたの? それとも見てたの? 今度こそ答えなさい」
『え、えっと……』
「私の味方なんでしょ? 答えて」
『うー……わ、分かった、答えるよ。ボクがレイヴンの前世の事を知ってる理由は……』
ついにメイプルがその秘密を口にする。
『それはボクが精霊だからさ! 精霊特有の謎パワーで、どんな秘密も暴いちゃうぞっ!』
「……アホな事言ってると握りつぶすよ?」
可愛いポーズで誤魔化すメイプルに、本気トーンで脅すレイヴン。
「いいからメイプル、ホントの事を言いなさい!」
『ホ、ホントだもん! 精霊は何でも知ってるの! 万能なの! だからこれ以上聞いちゃダメなの! わぁああああああんっ! ダ~メ~な~の~っ!』
ついに駄々をこね始めたメイプルに、思わず青筋を立てるレイヴン。
(コイツ……ホントにやりたい放題ね。何もしゃべらないつもりなら、ここから追い出してやろうかな? それでメイプル主役の『精霊なのに追放されたボク、万能だと言っても信じてもらえない』ってタイトルの小説でも書いてみる?)
いよいよメイプル追放シナリオまで考え始めたレイヴン。
だが――。
――ボクはこれからもレイヴンの傍にいる! ずっとキミの味方でいるからね?
先ほどのメイプルの言葉が頭をよぎり、頬が赤らむのを感じて躊躇するレイヴン。
結局彼女は追放を言い渡す代わりに、仕方がないと大きなため息を吐いた。
「分かったよメイプル。納得したわけじゃないけど、とりあえず今は聞かないでおいてあげる」
『本当かい、レイヴン!』
「まぁメイプルなんて所詮は下っ端だろうし、言えない事ばかりでも仕方ないよね」
『し、下っ端じゃねーし! 何でも言えるし!』
「じゃあ正直に教えなさいよ」
『絶対言わねーし! そもそも何も隠してねーし!』
「はいはい、じゃあもういいよ。代わりに別の質問ね」
焦り散らかすメイプルの様子に、レイヴンは追及を諦め話題を変える。
「ねぇメイプル。ハズレスキルとはいえ私ってまだ聖女でしょ? 聖女って何か使命とかあったりするの?」
『使命?』
「だって過去の聖女や聖人は、貰ったスキルを使って世の中のために尽くしてきたって聞くよ? だったら私も聖女として世のため人のため、何かしなきゃいけない事があるんじゃないの?」
『ないない、転生者にそんなノルマなんて無いよ』
駄々っ子ムーブから一転、シニカルに肩をすくめてみせるメイプル。
『前にも言ったと思うけど、そもそも聖女なんて人間が勝手に言い出しただけなんだから、そんな肩書に縛られる必要は何もないさ』
「そうなんだ……じゃあ好きに生きていいんだね?」
『もちろんさ! でも……』
何かに気付いた様子のメイプルが質問する。
『そういえばレイヴンってさ、この先何かやりたいことってあるの?』
「やりたいこと?」
『だってキミ、これまで妃教育にしか打ち込んでこなかっただろ?』
「うっ……」
『この世界で生きた16年間、必要な知識とマナーを学ぶことばかりに費やしてきたじゃん。友達らしい友達はおらず、趣味といえば読書くらい。見事なまでのボッチ人生だったよね』
「ぐぬぬ……」
『そんなキミが婚約破棄されて、これまでの生き方はもう出来ない。人生がリセットされた今、これからどう生きていくつもりなの?』
「そ、それは……」
痛いところを指摘されたレイヴンは頭を悩ませる。
彼女はこれまで聖女として生きてきて、周囲も聖女として尊重してくれていたと感じていた。
「だけど……【嫌がらせ】なんてスキルを手に入れちゃった今、きっと世間の風当たりは強くなるよね?」
『すでに『嫌がらせの聖女』なんて呼ばれちゃってるしね。少なくともこれまでのような、聖女ブーストは期待できないんじゃない?』
「だよねぇ。ホント迷惑なスキルだよ」
思わず嘆息するレイヴン。
「スキル名の印象が悪すぎるし、効果も『効果的な嫌がらせ方法が分かる』だけって、ハズレスキルのもほどがあるよ」
『う~ん、そうかな? 思い返してみれば、意外と優秀なスキルだったんじゃない?』
レイヴンは辟易した様子だが、メイプルは【嫌がらせ】スキルをそう評価する。
『だってレイヴンったら、この【嫌がらせ】スキルを使って、相手の事をズバズバ言い当てちゃってたでしょ? アレは凄かったよ』
「それはまぁ確かに。使い方次第で『人物鑑定』のようなことができるからね」
レイヴンであれば、かつて学んだ心理学を応用することで、相手の事をさらに深く知ることができる。
泥棒猫のコーデリアや親バカの国王夫妻など、このスキルのお陰で人柄が分かり、助かったこともあった。
とはいえ……。
(所詮はハズレスキル、風評被害まで考えると、マイナスの方が大きいような気もするなぁ……)
スキルについてあれこれ考察していると、ぴょんぴょんと飛び跳ねながらメイプルが尋ねてくる。
『ねぇレイヴン。このスキルを使えば、どんな相手でも攻略可能じゃない?』
「攻略?」
『だって相手の事が分かるって『乙女ゲーの公式設定資料集を読み込んで、プレイ前から攻略対象の事を知り尽くしてるようなもの』でしょ?』
「……いやごめん、その例えは分からないよ」
メイプルのおかしな発言に、思わず額を抑えるレイヴン。
「あと何で精霊に前世のサブカル知識があるの? アンタ『言えない』とか言いつつ、実は隠す気ないでしょ?」
『ついでにこのスキルのお陰で、レイヴンの前世の記憶が蘇ったんだし、実はいいことづくめのスキルなのかもね』
「コ、コイツ、無視か? あー、でもそうかも?」
メイプルの一言から、レイヴンは想像を膨らませる。
もし【嫌がらせ】スキルじゃなく、普通にチートなスキルを授かっていたとしたら?
その場合、優秀な能力はあっても前世の記憶は戻ってない状態だ。
昔のレイヴンのままなら、あのポンコツ王子に婚約破棄で泣かされていただろう。
さらにその後はチートスキル持ちとして、いいようにこき使われていたのではないだろうか?
「だとしたら……うぅう、考えるだけでも嫌な気分になるよ」
もしもの世界を思い浮かべ身震いするレイヴン。
「そう考えると【嫌がらせ】スキルも、これでよかったと思えてきたかも」
『うんうん、前向きなのはいい事だよレイヴン』
メイプルは満足そうに頷くと、改めてレイヴンに尋ねる。
『それで、今後の方針は決まったの?』
「うーん、問題はそれなんだよねぇ」
ここにきてレイヴンは、先延ばしにしていた今後について、ようやく真剣に考え始めた。




