39話 エピローグ
今回でストーリー最終回です!
目覚めると知らない天井だった――。
「おはよう、レイヴン!」
「……おはよう、メイプル」
朝から元気なメイプルに挨拶を返しながら、レイヴンはゆっくりとベットの上で上半身を起こす。
「えっと、確か……」
寝起きの頭を何とか働かせ、昨日の事を思い出すレイヴン。
義兄であるルシアンに襲われ、ローランドやノアたちに助けられた後の事。
ヴァンキッシュ家に戻るわけにはいかず、兵を出してくれたバーナード家に客人としてお世話になることになったレイヴン。
彼女が今いるこの豪華な部屋は、バーナード家の屋敷にある客室だ。
「そうだ、ソレイユ様にこの部屋を貸していただいたんだっけ」
今後はヴァンキッシュ家ではなく、当分はここで暮らしていくことになったのだ。
その事を思い出しながら、レイヴンはベッドから抜け出し、用意された服に着替える。
身支度をしているとドアをノックする音が聞こえ、一人の少女が客室へ入ってきた。
「レイヴン様、お目覚めになりましたか?」
やってきたのはバーナード公爵令嬢のソレイユだ。
昨日はレイヴンのために私兵騎士団まで出してくれて、最後には身柄まで引き受けてくれた恩人である。
「ソレイユ様。すみません、ご迷惑をおかけして……」
「まぁ、レイヴン様ったら、そうじゃないでしょ?」
プクっと頬を膨らませるソレイユ。
「お友達ですのに、水くさいですわ」
「え、えっと……」
言われて昨日の事を思い出すレイヴン。
『ごめんなさい』ではなく『ありがとう』。
それが助けてくれた相手に言うべき言葉だと学んだはずだ。
「――ありがとうございます、ソレイユ様」
「はい、レイヴン様。どういたしまして」
そして笑いあう二人。
絶体絶命の昨晩を乗り越えたレイヴンは、そんな穏やかな朝を迎える事が出来たのだった。
* * *
ソレイユに同伴して登校したレイヴン。
公爵家の豪華な馬車を降り、校門をくぐったところでローランドと出会った。
「やあレイヴン、おはよう」
「ローランド様、おはようございます」
「昨日は大変だったけど、もう大丈夫かい?」
「ええ、ローランド様のお陰ですわ」
「そうか、良かった」
他人の事で本当に嬉しそうに笑うローランド。
そんな笑顔に見惚れ、不意に昨日の彼の勇士も思い出し、レイヴンは頬が赤くなるのを感じる。
「それで報告なんだが、君の義兄さんの事だけれど――」
そうしてローランドから聞いた事の顛末――。
あの後、ルシアンは衛兵に引き渡され、衛兵団本部で事情聴取を受けているそうだ。
彼は憑き物が落ちたかのような表情で、素直に取り調べを受け白状しているらしい。
自供は昨日の一件だけではなく、これまでヴァンキッシュ家で長年続けられてきた聖女に対する虐待についても語っているそうで、これが公になれば伯爵家もただでは済まないだろう。
「ひょっとしたらヴァンキッシュ伯爵家はお取り潰しになるかもしれないな」
僅かに目を伏せ、レイヴンの今後を憂うローランド。
だがレイヴンの方は晴れ晴れとした表情を見せる。
「そうなったらわたくしは、レイヴン・ルモニエになるのでしょうか?」
「……それは?」
聞き慣れない苗字に首を傾げるローランド。
レイヴンが答える。
「わたくしがヴァンキッシュ家に引き取られる前の、平民の両親の苗字です。もっとも母親は私を生んですぐに亡くなって、父親は傷心でこの国を出たと聞いておりますが……」
「そうか……素敵な名前だね」
「ありがとうございます」
二人の間に良い雰囲気が流れる。
そんな二人の後ろで――。
「へぇえ、そんな事があったのですね、ソレイユ様!」
「そうなのよ、アネット」
ソレイユがいつの間にか現れた誰かと話している。
相手はアネット、ソレイユの幼馴染だ。
ソレイユから昨日の一件を聞いたアネットが、今度はレイヴンへと話しかけてきた、
「それにしても私だけ蚊帳の外だなんて、悲しいですよレイヴン様」
「ア、アネットさん?」
「本当に大変だったのですね、レイヴン様。それにしても……」
アネットの視線がレイヴンとローランドの間を行き来する。
「レイヴン様、随分とローランド様と仲良くなったようですね。ひょっとして……」
「ち、違うから! そ、そんなんじゃないから!」
アネットからニヤニヤと疑いの目で見られ、慌てて言い訳をするレイヴン。
と、そこへ――。
「ようレイヴン。元気そうだな」
そう言って次に現れたのは、昨日ローランドと共にレイヴンを救ってくれたノアだ。
「ノア様、おはようございます。昨日は本当にありがとうございました」
「フン、何度もお礼を言われるほどの事じゃないさ」
プイと横を向くノア。
相変わらずのツンツンした態度をほほえましく感じ、昨日の勇敢な姿とのギャップでまたもや頬を赤くするレイヴン。
そんな彼女をよそにノアは、ローランドの姿を視線に捉える。
「…………」
無言で睨み合う二人の間に、不穏な雰囲気が流れる。
先に口を開いたのはノアだ。
「それよりもローランド王子。何でお前がレイヴンと一緒にいるんだ?」
「昨日の顛末を報告しに来たんだ。それよりノア司祭、君こそなんでわざわざ会いに来たんだ?」
「別に。ちょっと気になって顔を見に来ただけだ」
「そうか……」
不意にローランドが微笑みを見せる。
「だったらもう用は済んだよね? もう帰ったら?」
「何だおい、お前!」
ローランドの目が笑っていない笑顔に、敵意をむき出しにするノア。
「ローランド王子、僕に喧嘩売ってるのか?」
「いやだなぁ、ノア司祭。気のせいだよ。じゃあさよなら」
「追い払おうとするな、このクソ王子!」
冷たくあしらうローランド。
ノアが地団駄を踏んで突っかかる。
「昨日僕が助けてやらなかったらヤバかったくせに!」
「それこそ頼んでないだろ、恩着せがましいな」
「一人じゃ何も出来なかったくせに、この貧弱王子!」
「何だとこの不良司祭!」
ぐぬぬぬぬ……と感情むき出しで睨み合う二人。
「ちょ、二人とも! 喧嘩しないで……!」
レイヴンが止めようとするも、聞く耳もない様子。
そんな二人を目を丸くして見つめるアネット。
「レ、レイヴン様を取り合って二人の男が争っている……。こ、これって……三角関係!?」
「ア、アネットさん?」
「ま、まさかレイヴン様がお二人とそういう関係だったなんて……私、ワクワクします!」
またしてもレイヴンの望まない方向へ思考が走り出したアネット。
「ち、違うから! そういうんじゃないから!」
レイヴンが慌てて止めようとするも彼女はもう止まらない。
「溺愛スパダリ逆ハーなんかもいいですけど、やっぱり恋愛と言えば三角関係ですよねぇ! しかも女1:男2は、昔からのエンタメ黄金比! 素晴らしいです、レイヴン様!」
「あーっ! 何でそうなっちゃうの!?」
思わず頭を抱えるレイヴン。
するとふわふわと周囲を飛んでいたメイプルが、嬉しそうに声をかけてくる。
「良かったね、レイヴン」
「な、何が? メイプル、この状況の何が良かったって言うの?」
「だって『取り戻せ青春、目指せキラキラ女子』なんでしょ? 夢が叶ったんじゃない?」
「そ、それは……」
改めて周囲を見回すレイヴン。
――ずっと優しく接してくれたローランド。
――ライバルとして認め合うツンデレなノア。
――初めて友達と言ってくれたソレイユ。
――変わっているけど友達想いなアネット。
みんな、今のレイヴンにとって大切な人たちだ。
「た、確かにそうかもしれない……かも?」
今の自分には、確かな幸せがあると感じられる――。
月並みだけれど、こんな日がずっと続けばいいと願うレイヴンであった。




