40話 閑話:エンディング後のそれぞれ
遅くなりましたが、最後の閑話を投稿します。
■SIDE:ヴァンキッシュ伯爵(毒親)
場所はヴァンキッシュ伯爵嶺。
その領都に建つ、ヴァンキッシュ伯爵の屋敷では……。
「なっ!? ヴァンキッシュ伯爵家が無くなるだと!?」
自室で届けられた国書を開き、思わず唸るギルバート・バンキッシュ伯爵。
「降爵ではなく奪爵!? 私が平民に!? どうしてこんな!?」
思いもよらぬ内容に、慌てて続きを読んでいく。
そこには聖女を害しようとした罪により、長男のルシアンが捕らえられたと書かれていた。
「ルシアンが全て喋っただと!? 何をしてくれたんだあのバカ息子は!」
ルシアンが取り調べで語った内容――義娘のレイヴンを言いなりに育てるため、ヴァンキッシュ家総出で虐待に近い待遇を続けていたという事実。
そのためルシアンだけでなく、ヴァンキッシュ家そのものが罪に問われてしまったようだ。
「くそっ! 王都に戻って何とか申し開きを――」
事態を何とか打開しようと、ギルバートが行動を起こそうとしたその時――。
――ガシャアンッ!
突然部屋の窓ガラスがはじけ飛んだ。
床に転がるこぶし大の石。どうやらこれが投げ込まれたらしい。
筒抜けになった窓から、外の怒号が聞こえてくる。
「出てこい伯爵!」
「俺たちを苦しめた元凶め!」
「もう貴族じゃないんだろ、やっちまえ!」
ギルバートが割れた窓から外を覗くと、館の周りには大勢の群衆が集まっていた。
どうやらヴァンキッシュ家の爵位没収を聞きつけた領民が、これまでの圧政に対する不満をぶつけに押し寄せて来たようだ。
「ぐぅっ! こ、この愚民共めが……!」
思わぬ事態に歯噛みするギルバート。
そこへ――。
「ご領主様」
いつの間にか自室の扉が開いており、一人の男が部屋の中へ入ってきていた。
彼は代官――ギルバートが王都で生活している間、名代としてこの地の管理を任されていた人物だ。
「お、おお、代官! あ奴ら暴徒共を何とかしろ!」
ギルバートは焦った様子で彼に命令を下す。
だがそれに応えず、静かに語りだす代官。
「ご領主様……わたくしは領主様の命令で、この領地の管理を任されて来ました」
「ん? ああ、そうだな」
「領民にとってはわたくしも、領主様と同じく虐げた側の人間だと思われています」
「……? おいお前、いったい何を言っている?」
「つまりですね……」
代官の目が怪しく光る。
「わたくしが生き延びるには、群衆に貴方を差し出して溜飲を下げさせる以外にないのですよ」
その途端、ドカドカと足音を響かせながら、兵士たちが部屋の中へとなだれ込んできた。
彼らはギルバートの姿を見つけると、一斉に取り押さえにかかる。
「な、何だ貴様ら!? やめろ! 私に触るな!」
ギルバートは必死に抵抗するもなす術がない。
「や、やめんか! 私を誰だと思っている!?」
「元伯爵で、今はただの平民でしょう」
冷たく言い放つ代官に、怒りをあらわにするギルバート。
「だ、代官、貴様――っ!」
「さぁ、民衆の前に引きずり出すのです!」
代官の合図で、兵士たちがギルバートを連行する。
「や、やめろぉおおおおおっ!」
こうして――。
これまでの罪がすべて暴かれ、平民落ちとなってしまった元伯爵。
領民の前に引きずり出された彼が、その後どうなったのか……それは語るまでもないだろう。
■SIDE:クリフォード第一王子(元婚約者)
場所は変わって王都。
城の王の間では、国王夫妻が息子のクリフォードを呼び出していた。
「なっ!? 一ヶ月の投獄だって!?」
父である国王からの通告に、クリフォードは驚愕の声を上げた。
「ど、どういうことですか父上!」
「どうもこうもない、クリフォード。お前が聖女を害するよう、兄のルシアン・ヴァンキッシュに命じた事は分かっておる。お前のサインした命令書も残っておるからな、言い訳はできんぞ」
疲れ切った顔で淡々と告げる国王。
確信を付くその言葉に、クリフォードの顔が大きく歪む。
「そ、それは……」
「罪の大半はヴァンキッシュ家に被せた。だがお前も無傷というわけにはいかない。だからこその一ヶ月の収監なのだ。むしろそれだけで済んで良かったと思うがいい」
「で、ですが……」
高いプライドから投獄だけは避けたいと、何とか説得する言葉を探すクリフォード。
だが――。
「聞き分けなさい、クリフォード」
今度は王妃から釘を刺される。
「収監と言っても貴族牢。実質的には謹慎の延長のようなものです。今までのように部屋の外に出すことはできませんが、生活に不自由は無いでしょう。貴女の考えのない行動の結果です、一ヶ月くらい我慢しなさい」
「は、母上まで……」
父母の両方から突き放され、クリフォードは絶望の表情を浮かべた。
「ほ、本当に私を牢屋へ入れるつもりですか?」
「……連れていけ」
「お待ちください、父上! 父上――っ!」
控えていた兵士に引きずられ、王の間を出るクリフォード。
行先は貴族牢――とはいえ当然牢獄だ。
刑期の一か月間外に出る事は出来ず、後悔しながら過ごすこととなるだろう。
そして服役したという事実は、王子である彼の経歴に一生ついて回る事となる。
「くそっ! 許さん! 許さんぞレイヴンっ!」
クリフォードは己の行動を棚に上げ、レイヴンへ憎しみを募らせる。
どうやら彼は反省する事が出来ないようだ。
これでは出所しても、きっとまた同じ失敗を繰り返すことになるだろう。
■SIDE:コーデリア男爵令嬢(泥棒猫)
一方、アーケイナム貴族学園では――。
「王子を寝取り、聖女を害そうとした悪女よ」
「よくまだ平気で登校できているものだわ」
ヒソヒソと囁かれる陰口。
レイブンとクリフォードの婚約破棄以降、その原因の一端となったコーデリアは、周囲から非難の目で見られるようになっていた。
(ああ、私ってば何て可哀そうなんだろう)
だが彼女は反省しない。
悲劇のヒロインに浸り、現実を見ようとしない。
(でも大丈夫、クリフォード様が戻ってくればきっと……)
クリフォードが一週間の謹慎を終え、明日にでも学園に戻ってくる。
そうすればきっと元通りになるはずだと、カノジョは信じて疑わなかった。
だが――彼女は思いもよらない噂を耳にする。
「クリフォード様が投獄されたって!」
クラスメイトがそう話しているのを聞いてしまったのだ。
「一ヶ月の服役だっけ? まさか王子が投獄されるなんてなぁ」
「そう言っても謹慎の延長みたいなものでしょ?」
「共犯のヴァンキッシュ家が取り潰しになったのを考えたら軽い刑だよね」
「まぁ国王様は息子に甘いから……」
頼みの綱だった王子が戻らない事を知り、愕然とするコーデリア。
「そ、そんな……クリフォード様……」
思わず嘆くコーデリアだったが……彼女はまだ知らない。
クリフォードにとってコーデリアは、レイヴンに対する当てつけの存在でしかない事を。
彼が学園に戻れば、その現実と向き合わなければならなくなる。
だが、それまでの一ヶ月はまだ悲劇のヒロインでいられる――そんな猶予ができた事を、彼女は喜ぶべきなのかもしれない。
■SIDE:???
この世のどことも言えない、真っ白で何もない、世界の狭間のような空間。
そこに――姿は見えないが、大小二つの気配があった。
今は小さな気配が大きな気配へ語り続けているようだ。
「――というわけで、レイヴンは無事に危機を脱出できましたよ。精霊王様」
「報告ありがとう、メイプル」
小さな気配の話がようやく終わり、大きな気配がお礼を述べる。
「これからもあの子をよろしくね、メイプル」
「分かってますよ、精霊王様。しかし……今回はホントにヤバかったですよ。これも精霊王様の計算どおりなんですか?」
「まさか。でもレイヴンの力は世界にとって必要なもの。このくらいの危機は乗り越えてもらわないと」
「うーん……何だか厳しくないですか? 仮にもレイヴンは貴女の娘なのに……」
「娘……そうね…………」
小さな気配の言葉に、大きな気配は言葉を詰まらせた。
「レイヴン……いいえ、楓。私のかわいい子」
声色に慈しみが溢れる。
「貴方にはこれから厳しい試練が待ち受けているでしょう。それでも……私は貴方を信じて見守っていますよ」
―――――――――――――――――――――――――
これで完結です。
伏線全ての回収は出来ませんでしたが、綺麗な打ち切りエンドには辿り着けたかと思います。
最終回までお付き合いいただいた皆様、本当にありがとうございました。
最後に下にある☆評価だけでもポチっていただけると作者が大変喜びます。
☆1でもいいので、正直な点数をよろしくお願いします。




