37話 まさか二人が強くなったのは、私が応援したから?
(な、何だコイツは!? どうして突然強くなりやがった?)
今までとは明らかに違うローランドの強さに、戸惑いながら体勢を立て直す敵のリーダー。
(ロ、ローランド様強い! で、でもどうして急に……?)
見ていただけのレイヴンも困惑が隠せない。
(お、俺が負ける? ふざけるな!)
あり得ない状況に、リーダーは慌てて部下に声をかける。
「お、おいお前ら! いつまで一人に時間かかってる! さっさと終わらせてコッチを手伝え!」
「は、はい親分!」
ノアを取り囲んでいた連中が、リーダーに急かされ攻撃の手を早める。
「くっ!」
大勢と戦ってきたノアの方も、流石に魔力が限界に近い。
「ノ、ノア様っ!」
彼の危機に声を上げるレイヴン。
(な、何とか助けないと! だったらコッチにも【嫌がらせ】で――!)
今度はノアを攻撃している連中の中の、昼間の襲撃のときにもいた魔術師にターゲットを定める。
浮かび上がったウィンドウの『はい』のボタンを押して【嫌がらせ】を起動した。
だが――。
――ドゴォンッ!
「ぐぁっ!」
ターゲットの魔術師が放った炎の魔法。
ノアは直撃は避けたものの、地面に着弾した爆風に巻き込まれてしまった。
よろめくノアの隙をついて、一斉に襲い掛かる冒険者くずれ達。
(ダメ、間に合わない――!)
表示を確認している暇もない。
レイヴンはただ大きな声で呼びかける。
「ノア様っ! 頑張って――っ!」
その瞬間――。
「負けてたまるかぁ――っ!」
咆哮と共にノアの放った雷の魔法が、巨大な柱となって周囲の敵を巻き込む。
――バリバリバリッ!
「ぎゃああああああああっ!」
ノアを取り囲んでいた連中が、一瞬で感電しまとめて崩れ落ちた。
「……へ? あれ?」
その異様な光景に、魔法を放ったノア自身も戸惑っている。
(な、なに今の滅茶苦茶な魔法は? あんな強力なの、初めて見たんだけど!?)
困惑するレイヴンが、改めてスキルウィンドウを確認する。
――――――――――――――――――――
バイロ・ダートに最も効果的な嫌がらせを提案します。
彼もまたかつては冒険者であったが、ひとつの過ちでその資格を失ってしまっています。
その事を非常に悔いており、何としても冒険者に戻りたいと考えています。
今回の仕事を引き受けたのも、その報酬が冒険者資格の再取得があったからです。
なので彼の復帰の野望を阻止することが最も効果的な嫌がらせになります。
そのためにはノア司祭に、この戦いを勝ってもらわないといけません。
全力でノア司祭を応援しましょう。
――――――――――――――――――――
(まただ……コッチにも『応援しましょう』って書いてる。まさかこれって……)
――ローランドが急に強くなった事。
――ノアのとんでもなく強力な魔法。
(まさか二人が強くなったのは、私が応援したから? これって【嫌がらせ】スキルの効果なんじゃ……?)
【嫌がらせ】スキルは、ただターゲットに効果的な嫌がらせ方法が分かる、それだけのスキルだと思っていた。
だが、もしかしたらもっと凄い力があったのだとしたら?
例えば提案した嫌がらせを行うために、必要な能力まで授けてくれるような。
そのような隠れた力を秘めた、チートなスキルだったのではないか?
そんな疑問がレイヴンの脳裏に浮かぶ。
「な、何をやってる貴様ら! しっかりしろ! 戦え! 約束が叶わなくていいのか!? お前達、冒険者に戻りたくないのか!?」
冒険者くずれ連中のまさかの劣勢に、背後に控えていたルシアンが声を荒げた。
その言葉に引っかかりを覚えるレイヴン。
(約束? そういえば【嫌がらせ】の解説文にも『冒険者資格の再取得』ってあったっけ? あれって……)
その一方、敵のリーダーはまだ諦めていないようだ。
「お前ら、しっかりしろ! 立って戦え!」
倒れた仲間を必死に鼓舞する。
その態度にローランドは警戒を解かずに身構える。
「……まだやるつもりか?」
「当然だ! 俺たちは何が何でも冒険者に戻らなきゃいけないんだよ!」
必死になるリーダーの言葉。
それを聞いたレイヴンは確信する。
(やっぱりそうだ。だったら――!)
「おやめなさい、ゲール・バートン!」
敵のリーダーに向かって呼びかけるレイヴン。
「なっ!? どうして俺の名前を――?」
それは当然【嫌がらせ】スキルで知ったのだが、それを教えてやる必要もない。
代わりに相手に対して質問をぶつける。
「貴方は本当に、この仕事でその『冒険者資格の再取得』が叶えられると思ってるのですか?」
「な、何だと?」
戸惑うリーダーにレイヴンが疑問を呈す。
「そもそも冒険者資格は国家ではなく冒険者ギルド協会の管轄。私達貴族でもそれに手を出すことはできませんよ」
「それは……いやだが、今回の仕事は王太子の連名の依頼だった。王家がバックにいるのなら、そのくらいの融通は効くだろう?」
「王太子の? 本当に? 騙されているのでは?」
「……いや、それはない。仕事の前に王太子の署名が入った命令書を見ている。王家の紋も押印されていたし、間違いないはずだ」
そのセリフに、場の視線がルシアンに集まる。
二人の会話を聞いていた彼が慌てて口を挟んできた。
「そ、そうだレイヴン! 適当な事を言うな! これはクリフォード王太子の正式な命令だぞ! 見ろこれを!」
そして取り出した一枚の紙。
「ほらここにクリフォード王太子の署名があるだろう!」
どうやらそれが、クリフォードからの命令書のようだ。
レイヴンは眉を顰める。
「……いいえ、やはりおかしいですわね。だって――」
そして――決定的な矛盾を指摘する。
「現在この国に王太子はいない。なぜならクリフォード殿下は先日、その資格を失っているはずですから」
「な、何だと! 本当かそれは!?」
「ええもちろん。もし彼の名の署名があるとすれば、それは『クリフォード王太子』ではなく『クリフォード第一王子』で無ければおかしい。つまりその命令書は偽物です」
偽物だというレイヴンの言葉に、動揺を隠せないリーダーがルシアンに詰め寄る。
「お、おい大将、どういう事なんだいったい!?」
「バ、バカ者が! そんなニセ聖女の戯言など信じるな! これはクリフォード王太子からの命令で間違いない! 実際私が目の前で書いてもらったのだからな!」
まだ本物だと言い張るルシアン。
だが――。
「――いや、そんなはずはない」
第二王子であるローランドが口を挟む。
「兄上であるクリフォードは王太子の身分を取り消されている。それが事実であることは、第二王子であるこのローランドが保障しよう」
さらにノアも追従する。
「聖王庁の司祭である僕も証言しよう。今のクリフォード第一王子は王太子ではない。現在この国の王太子は空席だ」
そして――レイヴンが事実を告げる。
「この事実がある以上、もしクリフォード殿下が本当に書かれていたとしても、その効力は全くありませんよ。だって身分を騙った偽りの署名ですもの」
「な、なんて事だ……」
わなわなと体を震わせ愕然とした様子のリーダー。
「俺の仲間は全員、冒険者資格を奪われ、それを取り返したいと願っている者たちばかり。その気持ちを利用されたという事か……」
「そうなりますね。そのことが分かって、まだ貴方たちに戦う理由がありますか?」
「……いや、無いな。悪いがこれで手を引かせてもらう」
敵のリーダーの決断に、ルシアンが声を荒げる。
「な、何だとお前ら! ふざけるな!」
「ふざけてんのはテメェだろ、俺たちを騙しやがって!」
リーダーはルシアンを一睨みすると、部下たちに声をかけていった。
無事だった者が倒れた者を担ぎ、順にその場を立ち去っていく。
「ともかく俺たちはこれで手を引く。前金は俺たちを騙した詫び料としてもらっておいてやるよ。じゃあな」
「バ、バカな! 戻れ貴様ら! 逃げずに戦え!」
ルシアンが呼び止めるのも聞かず、冒険者くずれの集団はその場から撤退していった。
『やったよ、レイヴン! 連中が帰ってく!』
「そうねメイプル、助かったみたい」
周りをピョンピョンと飛び回るメイプルと共に、助かったことを喜ぶレイヴン。
と、そこへ――。
「――クソッ! どうしてこうなる!?」
ルシアンの嘆く声が通りに響いた。
「私が正しいはずなのに! 正しい事をしているはずなのに! どうして上手くいかないんだ!」




