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36話 このまま逃げるくらいなら死んだほうがマシだよ!


(二人を見捨てて逃げ出せって? そんなこと出来るワケないじゃないっ!)


 スキルには到底受け入れられない案を出され、打開策を見いだせないレイヴン。

 一方ルシアンもしびれを切らした様子で、地団駄を踏みながら配下に怒鳴りつける。


「おい、いい加減にしろ! 相手は二人、しかもまだ子供だぞ! いつまでかかってるんだ!」

「……いや、大将」


 ルシアンの隣で戦況を見守っていた冒険者くずれのリーダーが、顎に手をやりながら鋭い視線を二人に向ける。


「アイツらただのガキじゃありませんよ。冒険者ならB級でもおかしくはない強さだ」

「褒めてる場合か! いいから何とかしろ!」

「はいはい、分かりましたよ」


 リーダーは軽い調子で請け負うと、剣をゆっくりと抜きながら戦闘中のフィールドへ足を踏み入れる。


「おいお前ら、ざまぁねぇな」

「す、すみません……」

「まぁいい、お前ら聞け!」


 周りの部下全員に聞こえるよう、リーダーが大声を張り上げた。


「俺が剣士の方を相手してやる! だから魔術師の方はお前ら全員で何とかしろ!」

「は、はいっ!」


 号令に合わせ、部下たちは一斉にノアの方へと向かう。

 ローランドはノアの援護に向かおうとするが、その行く手にリーダーが立ちふさがった。


「おっと、お前の相手は俺だぜ」

「…………」


 無言で剣を構えるローランド。

 再び戦闘が始まった。

 展開は一転し、苦境に立たされるローランドとノア。


「くっ!」


 リーダーからの激しい攻撃に、じりじりと押され焦りを滲ませるローランド。


「やるな、お前。学生にしては相当な腕前だ。だがな――」


 対してリーダーは余裕の表情だ。


「俺は元A級冒険者だ! 最強の冒険者だったんだよ!」


 獰猛な笑みでそう叫ぶと、再びローランドに襲い掛かった。

 そんなリーダーからの猛攻に、ローランドは防戦一方。


 一方ノアも大勢の敵に囲まれ苦戦しているようだ。


(くそっ! こんな乱戦じゃ出し惜しみしてる余裕はないぞ!)


 雷の魔法を拳にまとう戦闘スタイルは消耗が激しく、ノアの体力と魔力がどんどんと削られていく。


「ノア様! ローランド様!」


 明らかに苦戦を強いられている二人に、なすすべ無く見守るしかないレイヴン。

 そんな彼女の耳元で、メイプルがコッソリとつぶやく。


『……レイヴン、逃げよう!』

「なっ! 何言ってるのメイプル!」

『だってもうそれしかないよ! 大丈夫、急いで引き返して援軍を連れて戻ってくれば間に合うから!』

「そ、それは……」


 確かにメイプルの言う通り、論理的に考えればこの場から逃げて助けを呼ぶ方が正解なのかもしれない。

 【嫌がらせ】スキルも逃げろと言っていたし、実際ここに残ったところで、レイヴンに何ができるというのか。

 だが――。


「――やっぱりダメ! 私が二人を巻き込んだんだ! このまま逃げるくらいなら死んだほうがマシだよ!」

『レ、レイヴン――!』


 レイヴンに提案を蹴られ、声を荒げたメイプル。

 留まると決めた以上、何かできる事を探そうと、レイヴンは考えを巡らせる。


(もう一度考えるんだ。今の私にできる事――!)


 悩んでみるが、思いつくのはひとつだけ。


(そうだ、やっぱり【嫌がらせ】スキルしかない。だったら――)


 先ほど義兄のルシアンに向かってスキルを使ったが、今回はターゲットを冒険者くずれのリーダーに変える。


――――――――――――――――――――

ゲイル・バートンに最も効果的な嫌がらせを提案します。


彼はかつてA級冒険者だった事に、高いプライドを持っています。

今回の任務を受けたのも、冒険者資格の再取得を約束されたからです。

なのでまずは彼のプライドをへし折り、復帰の野望を阻止してやりましょう。

そのためにはまず、ローランド王子に勝ってもらわなければなりません。

全力でローランド王子を応援しましょう。

――――――――――――――――――――


「な、なにこれ?」


 【嫌がらせ】スキルの結果に再び困惑するレイヴン。


(そりゃ戦いに勝てれば嫌がらせになるだろうけど……。ローランド様を応援しましょうって、そんなので勝てたら苦労しないよ?)


 レイヴンは意味が分からずに頭を抱える。

 そうしている間にも、ローランドたちの戦いは続いていた。


 ――ギィインッ!


 リーダーの重い一撃を、何とか食い止めるローランド。


「っ! くっ!」


 食いしばった歯の隙間から思わず息が漏れる。

 余裕のないローランドとは違い、敵のリーダーはまだ余力を残しているようだ。


 楽しげに笑いながら鍔迫り合う剣に力を籠めるリーダー。

 ローランドが必死に押し返し、触れ合った刃がギチギチと音を立てる。


「くっくっ、よく耐えるな。だが――」


 不意にリーダーが力を抜き、ローランドの剣を受け流す。

 込めていた力が抵抗を失い、その勢いで体勢を崩すローランド。


「――ここまでだ、ガキが!」


 スキのできたローランドの脇腹をリーダーが蹴り上げた。


「がはっ!」


 その衝撃で体をくの字に折るローランド。 

 苦悶の表情でその場に崩れ落ちる。


「ああっ! ローランド様!」


 切り裂くようなレイヴンの悲鳴。 

 リーダーの剣が高く掲げられる。


「くたばれ!」


 ローランドめがけ、今まさに剣が振り降ろされる寸前――。


(――ダメッ!)


 喉が裂けんばかりに叫ぶレイヴン。


「ローランド様、負けないで――っ!」


 その瞬間――!


 ローランドの体から痛みが消えた。

 腹の底から力が湧き上がってくる感覚――。


 ――ガキィイインッ!



 振り降ろされた剣を受け止めるローランド。

 先ほどまで重く感じていた一撃が、今は片腕で掲げた剣だけで防げるほど軽く感じる。


「なっ!? ど、どういう事だ!?」


 あり得ない事態に驚く敵のリーダー。

 だが、まだ驚くべき状況は続く。


 ――ギィンッ!


「うぉっ!?」


 片腕で振るったローランドの剣が、リーダーの剣をいとも簡単に弾き飛ばしてしまったのだ。


「こ、これは――?」


 それをやったローランド自身も、戸惑いが隠せない。

 ただ分かるのは――。


(体に魔力が満ちている――)


 ――そのせいで自分の力が増幅されているという事だ。


「て、てめぇっ!」


 再び切り付けてくる敵のリーダー。

 ローランドは素早いステップで悠々と躱す。


(――脚力)


「くっ、このっ!」


 リーダーが空ぶった剣を切り返してくる。

 その斬撃を今度は躱さず受け止めるローランド。


(――筋力)


「何で急にっ!?」


 力負けしていると判断したリーダーが、今度は手数で押してくる。

 だがローランドはその攻撃を全て見切り、軽々と剣で撃ち落とした。


(――動体視力)


「く、くそぉっ! どうなってやがる!?」


 戸惑いを露わにするリーダー。

 ローランドは冷静に自分の力を分析する。 


(充実した魔力のお陰で、全ての能力が向上している。これなら――)


 軽く腰を落とし剣を構え、ローランドは攻撃に転ずる。


「しゅっ!」


 短い息とともに剣を振るうローランド。


 ――キィンッ!


「ぐぁっ!」


 相手は反応するのが精いっぱいだったようだ。

 ローランドの斬撃はギリギリ防がれたものの、打ち合った剣を軽々と弾き飛ばすほどの一撃だった。


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