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35話 戦っている二人を見捨てて逃げましょう


「ああそうだ。お前の事は嫌っているし、憎んでいるとも」

「――っ!」


 その圧にたじろぎ、思わず一歩下がるレイヴン。

 ルシアンは彼女の様子を満足げに観察した後、今度はローランドに要請する。


「さぁ、義妹を渡してください、ローランド様」

「断る!」

「やれやれ、困りましたね。だったら……」


 ルシアンの様相が不穏なものへと変わる。


「死んでもらうしかないな」

「なっ!? お義兄さま!?」


 咎めるようなレイヴンの声。

 だがルシアンは意に介した様子もない。


「望まれない庶子の王子だ。むしろ他の王家の方々は、死んでくれた方が助かると思っているんじゃないか? 王位継承問題での憂いが無くなるのだから」

「な、なんて事を――!」


 仮にも王子であるローランドに対する暴言を聞き、思わず絶句するレイヴン。

 当のローランドは冷静に、相手の動向を伺っているようだ。

 レイヴンを背に庇いながら、いつ襲ってくるかもわからない相手との距離を計っている。

 ルシアンの方はもう語る事もないとばかりに、後ろの連中に命令を出した。


「さぁお前ら、殺ってしまえ!」


 その声に合わせ、冒険者くずれの集団の先頭にいた、ひときわ立派な体格の男が一歩前に出る。


「了解しました。ですが大将……本当に殺してしまっても構わないのですか?」


 どうやら彼が、冒険者くずれのリーダーのようだ。

 彼からの問いに、ルシアンは鼻で笑って返事を返す。


「ああ、構わん。二人とも殺って……いや、女の方は生かして捕らえろ。殺す前に自ら『偽物の聖女』だと認めさせてやる」

「分かりました。ちゃんと約束さえ守ってもらえるなら、アンタの命令を完遂しますよ」

「分かっている。行け!」


 その一言で、冒険者くずれの集団がついに動き出した。

 レイヴンとローランドを取り囲むように左右に広がっていく。

 そして――。


「かかれ、お前ら!」


 リーダーの一声で、一斉にローランドに襲い掛かった。

 素早く剣を抜き身構えるローランド。


「ロ、ローランド様――!」


 レイヴンの悲鳴に近い声と共に、立て続けに剣戟が響いた。

 左右から襲ってくる暴漢を、剣で受け止め、受け流す。

 何とか応戦を続けるローランドだが、時間が経つにつれ劣勢に立たされていく


(くっ、厄介だな)


 思わず弱音がこぼれるローランド。

 多勢に無勢で防戦一方の状況に加え、背後のレイヴンにも気を使わなければいけない。

 さらにローランドが攻めようとするタイミングで、魔術師が魔法を撃って牽制してくる。

 ただでさえ不利な状況で、相手にこうも連携されると、ローランドには打つ手がない。


(いったいどうすれば……)


 事態の打開方法を考えながら立ち回る。

 だが――。


(し、しまった――!)


 一瞬の油断。

 敵の剣を避けたと思った瞬間、その敵の体に重なるようにして、死角から魔法が飛んでくる。

 何とか体をひねって交わしたのだが、ローランドは大きく体勢を崩してしまった。

 そこへ別の敵の刃が迫る。


「ローランド様っ!」


 その光景に悲鳴を上げるレイヴン。

 同時に後悔が押し寄せる。


(私が巻き込んだから? やっぱり彼を頼らなければ良かったの?)


 剣を振り上げる敵。

 ローランドの反応が遅れた。

 そして今まさに剣が振り下ろされる――。


「嫌ぁあああああああああっ!」


 思わず目を閉じ絶叫するレイヴン。 

 その時――。


 ――パァンッ!


 乾いた音と共に、、敵の振り上げた剣へと雷が落ちた。


「あっ……がっ……」


 全身を痙攣させたかと思うと、そのまま崩れ落ちる男。


「なっ!?」

「何だ今のはっ!?」


 突然の落雷で仲間が倒された様子に、他の冒険者くずれの連中が足を止めた。

 そこへ路地から一人の少年が姿を現す。


「やれやれ、見てられないね」


 それは――先ほど怒って姿を消したノアだった。


「ノ、ノア様っ!」

「か、勘違いするなよレイヴン!」


 驚きの声を上げるレイヴンに、ノアは慌てて釘をさす。


「僕はお前を助けに来たんじゃない! ただ、そっちの王子様に馬鹿にされたまんまじゃ引き下がれないからな。ここで活躍して、力の差ってやつを見せてやる!」


 見事なツンを見せるノア。

 ようやく体勢を立て直したローランドが、呆れながら声をかける。


「ノア司祭、まさか助けに来てくれるとはね」

「フン、アンタだけじゃ力不足だからな。僕が見事な戦略というものを見せてやる。アンタはがむしゃらに剣だけ振ってろ」

「……まったく、君ってやつは」

「行くぞっ!」


 ローランドと声を掛け合うと、それぞれ敵に立ち向かう。

 ローランドが襲ってくる敵と直接切り結び、その隙にノアが魔法で敵を打ち取る。

 ノアの魔法が敵を牽制し数的不利を軽減し、魔法に気を取られた敵を見逃さずローランドが切り伏せる。

 即興のコンビネーションなのに見事な連携を見せる二人。


(す、凄い……二人とも、あんなに強いなんて……)


 危険な状況も忘れ、二人の戦う姿に思わず見惚れるレイヴン。


「お、おい、お前達! いったい何を手間取っている!? 相手はたった二人だぞ!」


 逆にルシアンは思い通りにいかない様子に声を荒げた。

 そして――ローランドとノアは、戦いの中で互いの実力を計りあう。


「なかなかやるね、ノア司祭。流石は魔法学科の天才と言ったところか?」

「アンタもそこそこって噂のクセに強いじゃないか、ローランド王子。ひょっとして授業じゃ手を抜いてるのか?」

「人には事情があるからね、詮索しないでくれると助かる」


 お互い背を預けながら、軽口をたたき合う二人。

 その見事な戦いぶりに、思わず目を奪われていたレイヴンだが、ふと我に返り邪念を払うよう頭を振る。


(か、感心してる場合じゃない! 二人に守られているだけなんて絶対にダメ! 今の私にできる事を――!)


 それで思いついたのは【嫌がらせ】スキルだ。

 レイヴンは迷わずルシアンに対してスキルを使った。


――――――――――――――――――――

ルシアン・ヴァンキッシュに最も効果的な嫌がらせを提案します。


今の彼にとって一番マズいのは、貴女に逃げられる事です。

ここで貴女を逃してしまえば、次のチャンスはもうありません。

なので彼の目的を阻止するためにも、ここは戦っている二人を見捨てて逃げましょう。

教会に引き返せばバーナード公爵家の私兵騎士団がいます。

彼らに保護を求めるのが一番安全で良い選択肢でしょう。

――――――――――――――――――――


「なっ!?」


 ウィンドウに書かれた内容に、思わず絶句するレイヴン。


(二人を見捨てて逃げ出せって? そんなこと出来るワケないじゃないっ!)


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