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27話 反抗期の子供の心理としてはよくあるもの


 窓に灯がともり始めた貴族街を、精霊のメイプルを連れたレイヴンが足早に歩く。


「うーん、どうしよう?」


 彼女の口から思わず不安の声が漏れた。

 これからの行動を思案するも、答えが出ないまま思考が堂々巡りしている。


「衛兵の詰所へ駆け込む? でも『義兄に殺されそうなんです!』なんて言っても信じてもらえないよね? じゃあ教会? でも聖女だってバレたらめんどくさそう……。でも他に逃げられる場所なんて……」

『ねぇレイヴン、どうしてそんな公共施設ばっかり挙げてるの?』


 彼女の横を並行して飛びながら、首を傾げるメイプル。


『目的地を考えるなら、もっと頼れそうなところがあるじゃん』


 思わぬ指摘に、レイヴンは目を瞬かせた。


「えっ? ど、何処に?」

『ローランド王子のところだよ。頼ってくれって言ってたでしょ?』

「そ、それは……」


 メイプルの言葉で、ローランドの顔が頭をよぎる。

 ――確かに彼は、レイヴンの力になりたいと言っていた。

 だが――やはり違うと首を振るレイヴン。


「や、やっぱり駄目だよ。人に迷惑かけるわけにはいかないし、自分で何とかしなきゃ……」

『何言ってるんだよ、レイヴン! こんな時に遠慮してる場合じゃないだろ!』

「え、遠慮とかじゃないよ。人に頼る前に、自分でやれる事はやらないと……」

『もーバカバカ! レイヴンはどうしていつもそうなんだよ!?』


 煮え切らないレイヴンに、メイプルは両手をブンブンと上下させながら憤りを見せる。


『何でも一人で解決しようとして! 誰にも相談しないなんて! このヘタレ! 臆病者!』

「な、何よ? ヘタレって……」


 ――簡単に人に頼る方が臆病なんじゃないのか?

 納得できずに眉を寄せるレイヴン。

 だが――。


『だってそうでしょ! キミは人に頼るのが怖いんだ! だから何でも一人で出来ると思ってる!』

「そ、それは……」


 言われてレイヴンは押し黙る。

 心理学を学んだことのある彼女には、自己分析でそういう一面があるという自覚はあった。


『違うなんて言わせないよ! だって、思い出してみてよ、キミの母親の事!』

「か、母さん……?」


 思いがけない人物が挙げられたことに戸惑うレイヴン。

 今の会話の流れで母親が出てくる事に、すぐには理解が及ばない。


『キミは母親の事を色々と言っていたけれど、結局は世話を焼かれるのが苦手だっただけじゃないのか? 自分一人で何でもできると思い込んで、母親に助けてもらわなくたって大丈夫だって駄々をこねて。キミってやつは、いつまで子供のままでいるんだよっ!?』


 そこまで言われてようやく、レイヴンはメイプルの言いたいことが分かった。

 メイプルの言う『自分で全部やりたい』なんて心情は、反抗期の子供の心理としてはよくあるもの。

 だが未だにその感情を引きずっていた事に、彼女は全く自覚がなかったのだ。


『お願いだよレイヴン、一人で何とかしようとしないで! 人に助けてもらおうよ! 頼ることは悪い事じゃないんだよ!』

「メ、メイプル。でも……」


 反論したい気持ちが湧きあがり、喉元から溢れそうになるレイヴン。

 相手の言う事を正しいと認めたら、自分のアイデンティティが壊れてしまうのではないか?

 そんな恐怖感が原因だ。

 だが、それがただの思い込み――自己防衛反応だという事も、ちゃんと彼女は理解していた。


「わ、分かった。メイプルがそこまで言うなら……」


 だからいったん言葉を飲み込み、メイプルに従う。

 二人はローランドの居場所へ向かった。


 * * *


 そうしてやってきたのは、レイヴンが通っているアーケイナム貴族学園だ


『ねぇレイヴン、どうして学校に?』

「ローランド様が生活してるのが学校の男子寮なんだよ」


 夜の不気味な学校を進み、外れの男子寮へ向かう二人。


『何で王子様が学校の寮に? お城じゃないの?』

「まぁ家庭環境が複雑みたいだしね……」


 やがて目的地に到着したのだが……。


「うぅ……実際ここまで来ちゃったけど……。い、いったいどうしたら……」


 なかなか門から寮の敷地中に入る勇気が出ない。

 レイヴンが入り口付近で立ち往生していると――。


「ねぇ君、男子寮の前で何をしているんだい?」


 不意に背後から声がかかり、彼女の肩を跳ね上げた。

 慌てて振り返った先にいたのは――。


「ロ、ローランド様!?」

「――って、レイヴン!? ど、どうしたんだいその恰好は?」

「こ、これはその……」


 どうやらローランドは、ブラウンのウィッグを付けたレイヴンを、誰か分からずに声をかけたようだ。


「女性が男子寮の前でうろついていると思ったら、まさか君だったなんて」

「うっ……お騒がせして申し訳なく……」


 小さくなり謝るレイヴンに、ローランドはけげんな顔をして見せた。


「こんな時間にそんな変装までして外出してるなんて……ひょっとして何かあったのかい?」

「そ、それは……」


 ここにきて迷うレイヴン。

 頭の上に乗ったメイプルが発破をかける。


『さぁレイヴン、言うんだ! 助けてくださいって!』

「――――っ!」


 そしてレイヴンはついに助けを――。


(――ダメッ! やっぱり言えない!)


 ――求められなかった。


「じ、実は先ほど襲ってきた暴漢たちの事が気になりまして……。ロ、ローランド様に効けば何かわかるのではないかと伺ったのです」


 代わりに思ってもない事を早口で言っちゃう彼女。


「あの暴漢たちの事? いや……残されてた魔術師を衛兵に引き渡してからの事は何も知らないな」

「そ、そうですか。分かりました、ありがとうございます。用事はそれだけですので、ではこれで」


 そうしてレイヴンは足早に立ち去ってしまう。


「あ、ちょっと、レイヴン?」


 残されたローランドは、唖然とした顔でその後ろ姿を見送るのだった。


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