25話 鈍感系主人公なんてさぁ、創作の中ならともかく、現実にいたら鬱陶しいだけだよ?
【今回の再登場キャラ】
■ルシアン・ヴァンキッシュ … ヴァンキッシュ家の長男でレイヴンの義兄。ヴァンキッシュ伯爵とクリフォード王子の回想で少しだけ登場。
それからの事は何も覚えていない。
ローランドに自宅まで送ってもらって、それで……気付けばレイヴンは家の前まで来ていた。
「それじゃレイヴン、私はこれで失礼するよ」
「あ……はい……」
帰っていくローランドを、ポーっとした頭で見送るレイヴン。
『おーいレイヴン、大丈夫かい?』
「……ねぇメイプル。どう思う?」
『何が?』
「さっきローランド様が言ってたこと……。私の力になりたいって……」
『そりゃまぁ……』
メイプルはレイヴンの顔の目前まで迫ると、キリッとした表情を作りこう口にした。
『控えめに言って告白だよね?』
「こっ!?」
思わぬ言葉に一瞬にして顔が真っ赤になったレイヴン。
激しく首を横に振り、あり得ないと全力で否定する。
「いやいや! ないない! そんなんじゃないからきっと!」
『だったら何なの? かなりあからさまな態度だったと思うんだけどなぁ』
「だってほら、ローランド様って誰にでも優しい人なんだよ? 私だけ特別だなんて、そんなことあり得ないって!」
視線を宙に泳がせながら、必死に他の原因を探すレイヴン。
「うん、きっとそう! 困ってる私のために、ちょっと大げさに言っちゃっただけね!」
『え~、それ、本気で言ってるの?』
「と、当然でしょ! むしろそれ以外に考えられないから!」
『……いやぁ、良くないなぁ。そういうの、良くないよレイヴン』
頑なに認めようとしないレイヴンの態度に、口を尖らせ反省を促すメイプル。
『相手の好意に気付かない鈍感系主人公なんてさぁ、創作の中ならともかく、現実にいたら鬱陶しいだけだよ?』
「誰が鈍感系だって!?」
心外だとばかりにレイヴンは頬を膨らませる。
「言っとくけど私は、勘違いしないように自分に自分で釘を刺してるの! 鈍感系どころか敏感でしょ! センシティブでしょ!」
『うーん、ダメだこりゃ』
いつまでも認めないレイヴンに、ついにメイプルも匙を投げた。
『どうやらレイヴンは、人の好意を素直に受け入れられないみたいだね。きっと今まで一人で頑張り過ぎたせいで、誰かに助けてもらうってことが下手過ぎるんだな』
「……何か言った、メイプル?」
『いーえ、何にも』
聞き洩らしたレイヴンを誤魔化しながら、聞こえないボリュームでさらにボヤくメイプル。
『恋とか青春とか言ってる前に、この性格を矯正しないとダメだなぁ、これは……』
二人はそんな言い合いを続けながら、自宅の門をくぐり屋敷のドアを開ける。
「ただいまぁ~……なんてね」
軽口っぽく帰宅の挨拶をしながら、レイヴンが玄関ホールに足を踏み入れると、そこにいた数名の使用人たちが蜘蛛の子を散らすように去っていく。
「相変わらずね、この家は」
『いまだに伯爵がレイヴンを避けてるからね、今日も外泊かな?』
「きっとね。あと近々王都から領都に引っ越すかもだって」
『うわぁ、娘が嫌いだからってそこまでする? 主がそんなだから、使用人たちも右に倣えって感じなんだね』
あのスキル授与の日に義父と喧嘩して以来、この屋敷ではずっと居ないものとして扱われているレイヴン。
完全なネグレクトだが、それでも食事だけはきちんと用意してくれているあたり、聖女虐待として問題にはなりたくはないのだろう。
「まぁ、そっちの方が私も気楽だけどね」
玄関ホールを横切り、自室へ向かうレイヴン。
と、そこへ――。
「おかえり、レイヴン」
不意に声が掛かり、ビクッと肩を跳ねるレイヴン。
慌てて見上げると、ホール正面の階段の先に声の主が立っていた。
「お、お義兄さま! ど、どうしてここに?」
待ち受けていたのは義理の兄のルシアンだ。
彼はいつもの、何を考えているのか分からない無表情で、こちらを見下ろしていた。
「どうしてって、ここは私の家じゃないか。居るのがそんなにおかしいかな?」
そう言いながら階段を下り、レイヴンの前で足を止める彼。
「い、いえ、そういう事では……。お義兄さまこそ、お帰りなさいませ」
義兄に向かって頭を下げつつ、レイヴンの頭には疑問が浮かぶ。
8つ年上の彼は儀典官として王城勤めをしており、城内にある寄宿舎に住んでいるため屋敷にはめったに帰ってこない。
この時間に彼が家にいるのは非常に珍しい状況だ。
「ああ、ところでレイヴン。今日の外出は何事も無かったか?」
「? ええ、楽しく過ごせましたが……?」
不意の質問に、レイヴンは疑問符を含ませながら返答する。
ルシアンは感情を見せない能面のまま、彼女の様子を舐めまわすように観察し――
「ふーん、そうか。お茶会が楽しかったのならそれでいい」
――不意に興味を失ったように目をそらした。
レイヴンが彼の不可解な態度に戸惑っていると、姿を現したメイプルが耳元でコッソリ話しかけてくる。
『ね、ねぇレイヴン。今の、何かおかしくなかった?』
『おかしいって、何が?』
『だって……どうしてルシアンが知ってるのさ? レイヴンがお茶会に行ってたこと』
『……え? あれ? そういえば……』
長らく顔を合わせていない義兄が、レイヴンの今日の行動を知っているはずがない。
不審に思った彼女は、目の前のルシアンに【嫌がらせ】スキルを使う。
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ルシアン・ヴァンキッシュに最も効果的な嫌がらせを提案します。
――危険です!
彼は貴女を疎んでおり、現在その排除を目論んで行動しています。
実は今日襲ってきた暴漢も、彼が雇い貴族街に招き入れた連中です。
命の危険もある状態ですので、今は一刻も早く彼から距離を取り、安全を確保しましょう。
彼に対する嫌がらせを考えるのはそれからです。
現状では彼の目論見を外し、貴女が幸せになることが、一番の嫌がらせになるでしょう。
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(な――っ!? 何なのコレ!?)
スキルの結果に、思わず目を見開くレイヴン。
現れたスキルウィンドウに書かれていたのは、これまでにない警告の内容だった。
『ヤ、ヤバいよレイヴン! これ、早く逃げないと!』
『わ、分かった。とにかく一旦自室に――』
メイプルとうなずき合ったレイヴンは急いで行動に移す。
「お、お義兄さま、それでは失礼します」
そう言って頭を下げると、そそくさと義兄の前から立ち去った。
その様子を見送るルシアンは、相変わらずの無表情で――いや、一瞬だけ口角がグニャリと歪み、酷薄な笑みを作るのであった。




