24話 他ならぬ君だから、私は力になりたいんだ
「お前達、いったい何者だ? どうして聖女を狙う?」
レイヴンを背にし、暴漢どもと対峙するローランド。
邪魔をされた彼らはますます色めき立つ。
「うるせぇ、邪魔すんな!」
「いいからコイツもやっちまえ!」
集団の先頭にいた輩が、いきなりローランドに殴りかかった。
「かかって来るなら仕方がない」
ローランドめがけて振り降ろされる拳。
その右腕を捌きながら、流れるような足取りで相手の右側へと体を滑り込ませる。
その瞬間――暴漢の体が頭を下にグルンと一回転し、背中から地面にたたきつけられた。
殴ってくる勢いを利用し、足を引っかけ前転させるという、まるで合気術のような立ち回りだ。
「がはっ!」
地面に激しく打ちつけられ、のたうち回る暴漢。
その華麗な立ち回りに、レイヴンも思わず見惚れてしまう。
(カ、カッコイイ……)
目の前で仲間が倒されたのを見て、他のゴロツキたちも躊躇し襲い掛かる足を止めた。
足元に転がる男を捨て置き、ローランドは残りの連中に対峙する。
「次は抜く。覚悟しろ」
鋭い一言と共に、彼の手が腰の刀に添えられた。
その途端、ローランドからジワっと殺気が溢れだし、当てられた暴漢たちが身震いをする。
「お、おい、コイツやべーんじゃ……」
「に、逃げた方がよくないか……?」
怖気づくゴロツキの集団。
だがその中から前に出てきた黒マントの男。
「えぇい、何をビビってんだ! 相手は一人、しかもたかが剣士だ! 私の魔法があれば負けるわけがない!」
そう言うと男は杖を取り出し、ローランドに向かって掲げる。
「炎の聖霊よ、我に力を!」
その瞬間、杖の先から炎が膨れ上がり、人の頭ほどの大きさの球となって発射された。
「あ、危ないローランド様!」
思わず悲鳴を上げるレイヴン。
だがローランドは正面から迫る火球に怯むことなく、鞘から剣を抜くと同時に斬りかかった。
――スパァンッ!
小気味よい音と共に火球が真っ二つに割れ、それぞれがあさっての方向へと飛んでいく。
「なっ!?」
己の魔法を切られ、驚愕のあまり身を固くする黒マントの男。
ローランドはその隙を見逃さず、瞬時に距離を詰めると男の懐に潜り込む。
そして反転させた剣の柄頭で、相手の鳩尾を下からかち上げた。
「がはっ!?」
衝撃で肺の空気がすべて押し出され、苦しげな声を上げた黒マントの男。
そのままもんどり打って、ローランドの足元へ倒れ込んだ。
(魔術師をあんな一瞬で……。ローランド様ってこんなに強いの?)
危機も忘れて目を奪われるレイヴン。
彼の強さに残された暴漢たちもすくみあがった。
「ひっ、ひぃいっ! 魔術師がやられた!」
「か、勝てるわけねぇ! 逃げろぉっ!」
一目散に逃げだす暴漢たち。
「ま、待て! 待ってくれぇ!」
最初に襲ってきた男も慌てて後を追う。
黒マントの魔術師だけは、気を失っていて取り残されてしまったようだ。
暴漢たちがいなくなったのを確認し、ローランドは剣を鞘に収めた。
「大丈夫だったかい、レイヴン嬢」
「た、助かりました。ローランド様」
ローランドが無事だったのを確認し、ホッと胸をなでおろすレイヴンだったが――。
「感心しないな、レイヴン嬢。女性の一人歩きなんて不用心だよ」
――彼からチクリと釘を刺されてしまった。
「す、すみません……」
「あ、いや、まぁ貴族街でこんな連中に出くわすとは思わないだろうから、仕方ない部分もあるだろうね」
素直に謝るレイヴンに、言い過ぎたとローランドは頬を掻く。
目線を倒れている黒マントの男に移すと、ローランドはおもむろに彼の体を起こし、肩に担ぎ上げた。
「コイツを衛兵の詰所へ突き出しに行く。悪いけどレイヴン嬢、一緒についてきてくれ」
「あ、はい」
そのまま歩き出したローランドを見て、レイヴンも慌てて後を追う。
「ところでレイヴン嬢。君はどうして一人でこんなところに?」
「えっと、友達のところからの帰りです。ソレイユ様のお茶会に参加してて……」
「へぇ、君は彼女と友達なのか」
そんな他愛もない話をしているうちに、近くにあった衛兵の詰所へとたどり着いた。
ローランドは暴漢を衛兵に引き渡すと、今度はレイヴンに向かって手招きをする。
「それじゃ行こうか」
「へ? 何処へ?」
「君の家だ。このまま送って行くよ」
「あ、ありがとうございます……」
ローランドの親切心によって、家まで送迎してもらえる事となったレイヴンだったが……。
(うぅ、き、気まずい……)
長めの帰路で会話が続かず、ついに無言で貴族街を歩く二人。
彼に謝らないと……と思っていたはずだが、いざとなると上手く言葉が出ないレイヴン。
「と、ところでローランド様……」
気まずさを誤魔化すように、何とか話題を絞り出す。
「ローランド様は、どうしてこんなところにいらしたんですか? 駆け付けていただいて助かりましたが……」
「ん? それは偶然……は無理があるか」
ローランドは一瞬取り繕う様子も見せたが、どうやら正直に話すことにしたようだ。
「実は……ずっと後を付けてたんだ」
「え……、えぇえっ!?」
その正直な告白に、レイヴンは思わず声を上げた。
「ま、まさか私をずっと……?」
「あ、いや違う! すまない、誤解させたようだ」
慌てて釈明するローランド。
「私が後を付けてきたのは、君じゃなくさっきの連中だよ」
「さっきのって……あの襲ってきたガラの悪い人達……?」
「ああ。貴族街に似つかわしくない連中だったものでね。何かあるんじゃないかと気になって追っていたんだ」
「な、なるほど! そ、そうだったんですね!」
真実を知り、レイヴンは顔が赤くなるのを自覚した。
(は、恥ずかしーっ! 勘違い恥ずかしーっ! 私だけ特別だなんて勘違いしちゃうところだったよ!)
恥ずかしさを払拭しようと、レイヴンは早口で話題を変える。
「さ、さすがローランド様! 人知れず皆のために行動できるなんて、上に立つ者の鑑ですわ!」
「そうかな? レイヴン嬢にそう言ってもらえると、私も嬉しいよ」
「はいもちろん! わたくしだけでなく皆も言っておりますわ、ローランド様は誰にでも優しいと」
「……誰にでも……かい?」
何気なく言ったレイヴンの一言に、引っかかりを覚えた様子のローランド。
レイヴンもそれに気付いたが、何故なのか理由までは分からない。
「え、ええ、そうです。わたくしもこうして助けていただきましたし、きっと他の皆さんにも同じでしょう? 本当にお優しい方だと思っておりますわ」
「……そうだね。私は誰にでも優しい。その自認はある」
表情に少し影を落としながら、ローランドが肯定する。
「でしょう? そうでしょうとも」
間違っていなかったと安心するレイヴン。
だが――
「だけど、レイヴン嬢。貴女は別だ」
「……へ?」
――真剣な目で訴えてくるローランドに、間の抜けた応答をしてしまったレイヴン。
そんなレイヴンを気にもせず、さらにローランドが言い募る。
「誰にでも優しくしているわけじゃない。貴女だから優しくしたいんだ」
「え、えっと……それはどういう……?」
「君が困っているならいつでも助ける。何千、何万人の中からでも貴女を選んで駆け付ける」
「あ、あの……」
距離を詰めてくるローランドに、レイヴンの脳はパンク寸前だ
「だからレイヴン、私を頼ってくれ。一人で大丈夫だと思わないでくれ。君を助けさせてくれ」
「え? え? え?」
それでも己の想いを語るローランド。
「レイヴン、他ならぬ君だから、私は力になりたいんだ」
「えぇえええええ――――っ!?」
その言葉の破壊力に、ついに脳の許容量を超えてしまうレイヴンだった。




