21話 SIDE:クリフォード王太子(ポンコツ王子)
【今回の再登場キャラ】
■クリフォード・エンバークラウン … エンバー王国の第一王子でレイヴンの元婚約者。
■セドリック&ロザリンド・エンバークラウン … エンバー王国の国王夫妻。
■ルシアン・ヴァンキッシュ … ヴァンキッシュ家の長男でレイヴンの義兄。父であるヴァンキッシュ伯爵の回想でちょっとだけ登場。
レイヴンへ婚約破棄を言い渡した翌日の事。
クリフォード王子は国王夫妻に謁見の間へ呼び出しを受けていた。
「クリフォードよ、お前には一週間の謹慎を言い渡す」
父親であるセドリック国王にそう告げられ、クリフォードは声を荒げる。
「なっ! ち、父上、どうして私が!?」
「聖女との婚約を勝手に破棄したのだ、罰があるのは当然だろう!」
「たかがそれだけで? 聖女という立場を得て調子に乗っている平民を、ちょっと懲らしめただけでしょう! 私は何も悪くない!」
それがクリフォードの本音だ。
どんな場面でも尊重されるべきは王太子である自分であり、周囲の人間は自分の思い通りに従ってしかるべき存在だと、彼は本気で考えている。
「そもそも聖女なんて、格式ばった伝統だけの存在! そんなものをいつまでも有難がっている方がおかしいんだ!」
「こ、この愚か者が……っ!」
伝統と精霊教を軽視した発言に、流石の国王も絶句する。
「いいから謹慎して反省していろ! 王太子の身分も一旦はく奪する!」
「そ、そんなバカな!」
王太子ではなくなる――。
自分を選ばれた人間だと考えるクリフォードにとって、それは耐えがたい屈辱だと感じられた。
「私を王太子から外してどうするつもりなのですか!? まさかあのローランドを――っ!」
その想像は、クリフォードをさらに不愉快にする。
半分は平民の血である弟が、自分の立場を奪うなどあってはならない。
「一旦と言っておるだろうが! まったく、我が子で王太子の資格があるのはお前しかおらん。だがこのままでは示しがつかんのだ、我慢しろ!」
「ぐぬぬ……どうして俺様がこんな屈辱を……!」
かつてない怒りを感じ、体の震えが収まらないクリフォード。
その様子を見かねた様子で、国王の隣にいたロザリンド王妃が息子に声をかける。
「クリフォード、私達も貴方が憎くてやっているわけではないの。だけど聖女との婚約破棄というのは、それほど大きな問題なのよ」
「は、母上、しかし……」
「これは貴方を守るためなの。お願いだからしばらくは自重して、おとなしくしておいてちょうだい。いずれほとぼりが冷めれば、また貴方を王太子に戻すから」
「くっ……わ、分かりました。言われた通りにします……」
母親にそうまで言われ、無理やり納得するしかなくなったクリフォード。
噴出しそうになる怒りを抑え、謁見の間を退出したのだった。
* * *
「くそっ! くそっ! くそっ!」
激憤冷めやらぬまま自室に戻ったクリフォードは、手当たり次第に物に当たる。
机の上の物をぶちまけ、棚から花瓶を落とし、本を手に取っては周囲に投げつけた。
「きゃあっ!」
「お、おやめ下さい殿下!」
飛んできた本に当たりそうになったメイドが悲鳴を上げ、他のメイドがクリフォードを制止する。
だが――。
「うるさいっ! 俺様に口答えするな!」
クリフォードは落ち着くどころかさらに興奮が増したようだ。
「おのれ、許さんぞレイヴン! どうにかしてアイツを懲らしめなきゃ気が済まん! 何か方法は……そうだ!」
何かを思いついた様子で、彼がメイドに命令する。
「おい誰か、ルシアンを呼んで来い!」
「は、はいぃいっ!」
怒鳴られ慌てて飛び出していくメイドたち。
そして十分後――。
「お呼びでしょうか、クリフォード殿下」
やってきたのは――痩躯でアッシュブロンドの、無表情で感情を読み取りにくい印象の青年。
どうやら彼が、クリフォードの言うルシアンという人物のようだ。
「おいルシアン! 何なんだお前の妹は!?」
「妹というと……レイヴンが何かしましたか?」
ルシアンと呼ばれた人物から、レイヴンの名前が出た。
妹――という発言通り、彼はレイヴンの義兄に当たる人物である。
フルネームはルシアン・ヴァンキッシュ――ヴァンキッシュ伯爵家の長男だ。
「アイツのせいで俺様は謹慎処分を受けたんだ! ふざけるな! 絶対に許さんぞ!」
「さようでしたか。それで……私に何をお望みでしょう?」
表情をピクリとも動かないまま、淡々と尋ねるルシアン。
対照的にドスドスと足を踏み鳴らし、怒りを隠さないクリフォード。
「決まってるだろう、アイツを何とかしろ!」
抑えきれない感情と共に、ついにレイヴンに対する報復の指示を出した。
とはいえその内容はまだ曖昧だ。
「何とか……とは?」
「何でもいい! 俺様が感じてる屈辱を、あの女にも味あわせないと気がすまん! どんな方法でもいいから俺様と同じ、いや、それ以上の罰を与えるんだ!」
ルシアンが詳細を尋ねるも、クリフォードは「何とかしろ」と繰り返すのみ。
「そうですか……でも、本当に構わないのですか? 仮にも義妹は聖女なのですが……」
いまだ何の感情も見せないルシアンが、事に及んだ際に発生する当然の心配を口にする。
「構わんといってるだろう、ルシアン!」
だがクリフォードは何も意に返さない様子。
「だいたいそれも気に食わんのだ! 黒い髪に生まれただけでちやほやされやがって! いいからやれ! 何でもいいからアイツを酷い目に合わせてやるんだ!」
「……初めてですね、殿下が直接害を与えるよう指示するなんて」
「何だ? 気に食わんとでもいうつもりか?」
自分に意見する気なら許さん!
そんな不遜な気持ちでルシアンを睨むクリフォード。
だが――
「――いえ、望むところです」
今まで無表情だった彼が、ニヤリと笑った。
口角をねっとりと歪ませたその笑顔は、陰湿な喜びに満ちているかのようで――。
「――――っ!」
流石のクリフォードも思わず息を呑む。
だが――それも一瞬の事。
気付けば元の無表情に戻り、恭しく頭を下げるルシアン。
「私にお任せくださいませ、必ずや妹に鉄槌を下してみせましょう」
「おっ、そ、そうか……」
先ほどの笑みが引っかかった様子のクリフォード。
だが――
「ま、まあいい。頼んだぞルシアン」
――結局あまり追及する事もなく、クリフォードは全てルシアンに丸投げする。
何処まで行っても自分本位で、深く考える事ができない人間のようだ。




