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18話 君の【嫌がらせ】スキルも、近い未来にきっと役立つ時が来るはず!


 少し時を戻して――。

 レイヴンが盛大な悪役令嬢ムーブをかまし、教室から出てきた後の事。


「やっちゃった……。なりきり悪役令嬢でドヤり散らかしちゃった……。は、恥ずかしすぎて、もう教室に戻れないよぉ……」


 校庭にあるベンチに腰掛け、イジイジといじけているレイヴン。


『あーあ、新たな黒歴史を刻んじゃったね。レイヴンったらご愁傷様』

「うっさいメイプル! ああ、何でも完璧にやろうとしてしまう自分が憎い!」

『『取り戻せ青春、目指せキラキラ女子』じゃなかったの? 青春どころかこのままじゃさらなるボッチまっしぐらだよ?』

「何でこんなことに……あーもーやだぁ……」


 先ほどの教室でのやらかしを思い返し、レイヴンは羞恥で頭を抱えてしまう。

 そこへ突然――。


「やぁ。見つけたよ聖女様」


 ――レイヴンに声をかけてきた者がいた。

 褐色の肌に銀髪の活発そうな少年。

 特徴的な肌の色は、彼がこの国の人間ではない事を現している。


「ノア・ルクレール司祭……」


 レイヴンが彼の名前を呼ぶ。

 ノアと呼ばれたその少年は、もったいぶった足取りで目の前までやってきた。


「我がライバルであるレイヴンがどうしてこんなところに? 何か落ち込んでいる様子だったが……?」


 彼は何故かレイヴンをライバルと呼ぶ。

 理由はこの二人――ノアとレイヴンが、同じ学年の共通学科で毎回1・2位を争っている成績優秀者だからだ。


「ひょっとして婚約破棄の件で落ち込んでいるのか? それとも【嫌がらせ】スキルで頭を悩ませているのかな?」

「えっと……まぁ、そんなところで……。と、ところでノア様はどうしてここへ?」

「それはレイヴン、君を探していたからさ」


 どうやら彼がここに来た目的はレイヴンだったらしい。


「婚約破棄の話を聞いてから、君と話すタイミングを計っていたんだ。聖女に選ばれ、聖女として努力し、共通学科ではいつも僕と1・2を争うほど優秀な君に、僕からひとつ提案があるんだよ」

「て、提案ですか……?」


 何のつもりだろうとレイヴンが警戒していると――。


「レイヴンは僕の国、クレール教国へ亡命する気はないか?」


 ――彼の口から思いがけないセリフが飛び出してきた。


 ここで少し説明しておくと……。

 ノアは留学生で、彼の母国であるクレール教国は、精霊教の発祥地で中心地でもある宗教国家だ。

 国の主体となる聖王庁は、聖王をはじめとした精霊教の神官によって運営がなされている。

 ちなみにノアは現聖王の息子であり、立場としてはクリフォード王子と同じ。

 彼個人としてもすでに聖王庁の司祭という位階に任命されているのだという。


「ぼ、亡命……ですか?」


 唐突な提案に戸惑うレイヴンに、堂々とした態度で主張するノア。


「だってあり得ないと思わないか? 聖女と婚約破棄するなんて、精霊に対する冒涜だ。いや、聖女というだけではない、君ほど優秀な人間を簡単に見切ってしまうなんてあり得ないことだと考える。そんな愚かな国に君を預けておくのは、精霊教の本営であるクレール教国の司祭として見過ごすことはできない」

「あーいや……」


 精霊教の神職としての立場から、ノアは亡命する理由を力説する。

 その勢いに若干引いてしまったレイヴン。


「でもまぁハズレスキルですし、王家が嫌がるのも仕方ないかなーとは思ってますので……」

「それだよ! その考え方がそもそもおかしい!」


 何とか自虐で乗り切ろうとするが、ノアは身を乗り出して力説しはじめた。


「精霊が与えてくれるスキルにハズレなどというものは無い! これまでの聖女や聖人は、すべからく有用なスキルを持って生まれてきている」


 不作の時代には【豊作】スキルを――。

 戦争の時代には【癒し】スキルを――。

 流行り病が蔓延した時代には【浄化】スキルを――。

 魔物が大量発生した時代には【結界】スキルを――。

 ノア曰く――そうやって過去の聖女や聖人には、その時代にとって必要なスキルをそれぞれ授けられてきたという。


「――だったら君の【嫌がらせ】スキルも、近い未来にきっと役立つ時が来るはず! 僕はそう考えているんだよ」

「は、はぁ……」


 ノアの主張に半信半疑のレイヴン。


『そ、そうなのメイプル?』

『さぁ? 精霊王さまの考える事だからね、ボクは知らな~い』


 メイプルに尋ねるも、どうやら無駄だったよう。

 ノアの主張はまだ続く。


「そんな事を理解しようともせず、勝手な判断で使えない聖女だと切り捨てる。僕に言わせればこの国は終わってるよ。だから……君は君の価値を理解してくれる、クレール教国に来るべきだ」

「そ、それは……」


 亡命すべきとの結論に、レイヴンは頭を悩ませる。


(クレール教国への亡命……確かにアリと言えばアリなんだよね。だってこのエンバー王国じゃ完全に『嫌がらせの聖女』扱いだし、家では義父と冷戦状態だし、学校じゃさっき黒歴史を打ち立てちゃったばかりだし……)


 どれだけ思い返しても、この国に対する思い入れは見つからない。

 本気で亡命を考えてみてもいいかもしれないと、レイヴンは考えはじめた。


『どうするのレイヴン? ホントに亡命しちゃうの?」

『う~ん、悪くは無いんだけど……でもなぁ……』


 亡命の話に乗るとしたときの、懸念点を述べるレイヴン。


『そもそもこのノア様が、どこまで信用できるかが分からないんだよね』

『そうなの? 言ってる事はレイヴンに有利で納得できる内容だと思うけど……』

『言ってる内容はね。だけど彼の態度が、今までと違い過ぎるんだよ』


 先ほどノアも言っていたとおり、ノアとレイヴンは共通学科で常に1・2位を争う関係だった。

 レイヴンとしてもライバルがいた方が張り合いがあって、彼の存在は勉学の励みにもなっていた。


『だけど……成績発表の時に見せるいつもの態度が、今とは全然違うんだよねぇ』

『何かされたっけ? ボクの記憶には無いんだけど……?』

『直接何かされたり、言われたことはなかったよ。でも――』


 レイヴンは学期ごとの成績発表の事を思い出す――。


 成績順位は毎度掲示板に張られ、生徒たちはそこへ集まって自分の順位を確認するのだが……。

 毎度毎度レイヴンは、順位を見る前から自分の成績が分かっていた。

 それはいつも先に掲示板の前にいるノアのお陰だ。


 レイヴンが勝ったときのノアは、恨めしそうに睨みつけてくる。

 レイヴンが負けたときのノアは、凄いニヤケ顔でドヤってくる。


 その態度を見れば、自分の成績は一目瞭然だったのだ。


『成績発表は毎回そんな感じで、彼の印象はとにかく『負けず嫌いだな~コイツ』って感じだったんだよね』

『あー、言われてみればそうだったなぁ』

『いつも私を目の敵にしていた彼が、急に私を気にかけ助けようとしてくるなんて、何か別の魂胆があるんじゃないかって思っちゃうんだよ。素直に信じらてないっていうか……』

『なるほどねぇ。ん-、だったら……』


 納得した様子のメイプルが提案する。


『例のアレ、やっちゃうしか無いんじゃない?』

『やっちゃうって……ああ、そうね』


 察したレイヴンは【嫌がらせ】スキルをノアに使用する。


――――――――――――――――――――

ノア・ルクレールに最も効果的な嫌がらせを提案します。


彼の所属する聖王庁は、出世する上で実績と支持が重要な実力主義的な組織。

そんな社会で成功を望む彼は、どうやら手柄を上げる事に執着しているようです。

聖女である貴女に声をかけたのも、味方に引き入れ自分の功績にしたいと考えての事でしょう。

なので――逆に彼を利用するだけ利用して、いずれ捨ててやりましょう。

彼の味方のフリをして、効果的なタイミングで裏切ってやるのです。

寝返る先にレグルス・オブシディアンと呼ばれる司祭を選ぶとより効果的。

理由はノアが絶対に負けたくないと思っている人間だからです。

――――――――――――――――――――


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