16話 精霊様から【嫌がらせ】スキルを授かった、言わば嫌がらせのスペシャリスト!
(……へ? あれ? どゆこと?)
【嫌がらせ】スキルを使った思いもよらない結果に、目を丸くするレイヴン。
(黒い噂は? 悪役令嬢は? この内容だと、とてもじゃないけど悪い人には思えないんだけど……)
改めてソレイユ公爵令嬢を確認する。
ニヤニヤと嫌な目で眺めてくる連中の中心で、ニコニコと笑っているソレイユ公爵令嬢。
(んー? これってひょっとして……)
ある推測を立てたレイヴンは、ソレイユの周囲にいるクラスメイト達に【嫌がらせ】を使用する。
まずは公爵令嬢の右隣に立っている女生徒に――。
――――――――――――――――――――
ナタリー・モスウッドに最も効果的な嫌がらせを提案します。
彼女はこれまで公爵令嬢ソレイユの名前を使い、傍若無人なふるまいを行ってきました。
彼女の非道な行いは、世間では全てソレイユのせいだと思われています。
それが嘘だとバレる事が、彼女にとって最も致命的なスキャンダルとなるでしょう。
なのでぐうの音も出ないほどの証拠を揃えて逃げ道を無くし、なるべく大勢の前で暴露してやる事を推奨します。
具体的な方法としては――――
――――――――――――――――――――
結果を読んで納得するソレイユ。
(やっぱり。右隣に立っている彼女は『ソレイユ様の名を使ってやりたい放題したい』って考えてるみたいね。じゃあ他の人たちは……)
他のソレイユの取り巻きに対し、次々と【嫌がらせ】スキルを使ってみる。
(左の彼女は『家のためにバーナード家に取り入りたい』と思ってて、手前の彼女は『派閥のためソレイユを王妃に』と親から言われてて、奥の彼女は『公爵家の伝手で有利な商売を』もくろんでて……)
他の連中も友情じゃなく、それぞれ個人的な目的があって公爵令嬢の周囲にいる者ばかりのようだ。
呆れながら今度は目の前に立っているアネットに視線を戻す。
「な、何とか言ったらどうですか、レイヴン様?」
そう威嚇してくる彼女だが、その手はまだ震えていた。
(つまりこのアネットさんは、いいように使われているソレイユ様を助けたいという一心で、取り巻きの期待に応えるべく、彼女の代わりに矢面に立って私に立ち向かってるって事か……)
ソレイユに対する認識が変わったと同時に、アネットに対しても同情を覚えるレイヴン。
(つまり私がやるべきことは、【嫌がらせ】スキルが提示した通りの行動をすることじゃなくて――)
目を閉じ考えを巡らせる。
そして――。
「おーっほっほっほっほっ!」
――レイヴンは唐突に高笑いを始めた。
その唐突な行動に、目を丸くするアネット。
(――ここは相手を上回る悪役ムーブで、圧と勢いで勝利するべし! 今から私は悪役令嬢ですわ!)
周囲の人間も呆気にとられる中、アネットに向けて演説を始めるレイヴン。
「甘い、甘いですわね、アネット様! その程度でわたくしに嫌がらせをしているつもりなどと、片腹痛いですわ!」
「は? な、何ですって!」
「言っておきますがわたくしは、精霊様から【嫌がらせ】スキルを授かった、言わば嫌がらせのスペシャリスト! 貴女がどんな気持ちで行動しているかなど、わたくしにはまるっとお見通しですわよ!」
「そ、それはどういう……?」
「ほら、目が泳いでいますわ。ねぇアネットさん……」
アネットに顔を寄せ、耳元でささやく。
「貴女、誰かに無理やりやらされているんでしょ?」
「――っ!?」
動揺して言葉に詰まるアネットに、レイヴンはニヤリと笑ってみせる。
「ほらやっぱり、図星みたいね。そして貴女にこんなことをさせているのは……」
思わせぶりな態度で、彼女の後ろにいるソレイユに目をやるレイヴン。
その途端、アネットの顔色がサーッと青くなり、分かりやすく動揺し始めた。
「ち、違います! 私が勝手にやってるだけ! ソレイユ様は関係ない!」
アネットの抗弁を無視し、レイヴンはつかつかとソレイユに歩み寄っていく。
そんな彼女にビビったのか、モーゼの海割りのごとく左右へ退く取り巻きたち。
お陰でレイヴンは何の障害もなく、笑顔のソレイユの目の前までやって来た。
「哀れですわね、ソレイユ様」
「…………」
相手を見下ろし嘲笑するレイヴンと、それでも笑みは崩さないソレイユ。
「取り巻きの人間に利用され、周囲の意見に流されて、まるでお人形のようですわね」
「…………(ニコニコ)」
「貴女はそれでよろしいのですか? 本当にそのままでやっていけるとでも?」
「…………(ニコニコ)」
「忠告して差し上げましょう、ソレイユ様。そうやって優柔不断なまま流されて生きていると……」
「…………(ニコニコ)」
「本当に大切なものを守れませんわよ?」
「――――っ!」
初めてソレイユが動揺を見せる。
その様子に――。
「ようやくその薄ら笑いが消えましたわね、ソレイユ様」
――満足げに笑うレイヴン。
「ですが――まだ足りませんわ。貴女はもっと怒るべきなのです。怒りとは二次感情、その根底には別の感情が隠れている。自分にとって本当に大切なものが何なのか、怒ることで分かりますのよ?」
だがソレイユは目をそらし、レイヴンの言葉に耳を貸さない。
そんな彼女の態度に肩をすくめると、レイヴンは諦めたようにため息をつく。
「まぁいいですわ、好きになさいな」
そして踵を返すと、ソレイユに背を向け歩き出す。
「大切なものを失ってから後悔しないように、せいぜいお気を付けくださいませ。では、ごきげんよう」
心配そうな顔で様子を見ていたアネットの横を抜け、レイヴンはそのまま教室を出ていく。
教室に残されたのは、唖然とするクラスメイト達と、水を打ったような静けさだ。
そして教室の外では――。
(し、しまった! 完璧になりきり過ぎてすっごい悪役令嬢ムーブしちゃった!? しかもカッコつけて出てきたから、今さら教室に戻れないじゃん!)
――無情に嘆くレイヴンの姿があった。
無遅刻無欠席だった真面目な彼女だが、その日初めて授業をサボらざるを得なかったという。




