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15/21

15話 ここから頑張ってみんなと仲良くなれるの? 無理くない?


 教室に向かう廊下の途中、レイヴンの耳にすれ違う生徒たちの会話が聞こえてきた。


「普通に登校してきましたわ」

「落ち込んでいる様子はありませんわね」

「いったいどう接すればいいのでしょう?」

「『嫌がらせの聖女』なんてアンビバレント過ぎですわ」


 どうやら婚約破棄以降、周囲の人たちは距離感を計りかねているようだ。

 とはいえレイヴンにしてみれば、そもそも遠巻きにされているのがデフォだったので、状況はあまり変わっていない。


(これまでは立派な聖女でいる事に必死で、それ以外の事をおろそかにしてきたからなぁ)


 今の寂しい現状に、レイヴンはこれまでの自分を反省する。


(『取り戻せ青春! 目指せキラキラ女子!』っていう目標のためにも、今後は周りの人間ともっと打ち解けないとね!)


 仲の良い人を増やし、もっと青春を謳歌しようと、レイヴンは決意も新たにする。

 教室に到着し、彼女が中に入ると、クラスメイトから一斉に注目が集まった。

 席に着く彼女の耳に、またしても周囲の声が聞こえてきた。


「来ましたわ、『嫌がらせの聖女』」

「そんな恥ずかしい別名で呼ばれて、よく堂々として居られるものですわ」

「殿下に婚約破棄されて当然でしょう」

「未来の王妃にふさわしい方はもっと他にいるでしょうに」


 教室に入る前まで聞こえていた噂話とは違い、同じクラスメイト達の反応は、明らかにレイヴンに対し悪意を持っていた。


(え、ちょっと待って。クラス内の状況が、学校全体の雰囲気より深刻だよ? 逆風すぎでしょ? ここから頑張ってみんなと仲良くなれるの? 無理くない?)


 予想以上の反発に冷や汗を流すレイヴン。

 そこへ陰口を話していた集団の中から、一人の女生徒がつかつかとレイヴンの元へやってきた。


「ねぇレイヴン様。教えてもらえませんかぁ? 【嫌がらせ】なんてハズレスキルなんて貰っちゃって、今どんな気分ですぅ?」


 頬の横に片手を添えて見下すような態度で煽ってくる、眼鏡とオリーブブラウン色の髪が特徴のクラスメイト。

 レイヴンの記憶によると――名前はアネット。グランヴィル子爵家の令嬢だ


「だいたい聖女なのに【嫌がらせ】っておかしいでしょ? それって本当に聖女なんですの? 悪女じゃなくて? そんな方がクラスメイトだなんて、どんな嫌がらせをされるのか……おお、怖い怖い」


 ――だったら何で煽ってくるの? と不思議に思うレイヴン。


(【嫌がらせ】が怖いなら突っかかってこなければいいのに、何が目的なんだろう、この人は?)


 彼女に【嫌がらせ】を使ってみようかと思案する。

 だがその前に、ふとアネットの手が目に入った。

 よく見ると彼女の手はきつく握られ、僅かに震えているようだ。


(この人……緊張してる? ひょっとして嫌々やらされてるのかな?)


 改めて彼女の顔を伺うと、興奮してきた様子でアネット嬢の発言がどんどんエスカレートしていく。


「そもそも平民の癖に、聖女だからって優遇され過ぎだったのよ! 婚約破棄だって当然よ、貴方が将来の王妃だという方がおかしかったの! 王后陛下にふさわしい人は他にいるもの!」


 それを聞き「なるほど」と納得するレイヴン。

 つまり彼女はその『ふさわしい人』の代わりに、これだけレイヴンを煽って来ているのだろう。

 ならば先にハッキリさせなければいけないのが、彼女を操っている黒幕の正体だ。


「ごきげんよう、アネット様。それで、ひとつお聞きしてもよろしくて?」

「何かしら?」

「わたくしではない、王妃にふさわしい人というのはどなたですの?」

「決まってるでしょう? 王族の次に身分の高い、バーナード公爵家のソレイユ様よ!」


 やっぱり……とレイヴンは彼女の後ろにいる集団へと目を向ける。

 先ほどまでヒソヒソと嫌味を言っていた連中の中に、ひときわ目立つ容姿の女生徒がいた。

 豊かな金髪にゴージャスな装いで、いつも微笑みを絶やさない美女――彼女こそがバーナード公爵家の令嬢ソレイユだ。

 その笑顔とは裏腹に、黒い噂の絶えない女生徒。

 曰く――。


 ――公爵家という権力を振りかざし、女生徒の頂点に立つ悪役令嬢。

 ――いつも大勢の取り巻きに囲まれており、彼女らを手足のように操って女王様気取り。

 ――気に入らない者には容赦せず、彼女に逆らって酷い目に合った生徒は数知れず。


 ――など、数々の不穏な噂が流れている人物だ。


(噂通りの悪役令嬢。他人を動かしてこんな問題を引き起こしている黒幕は、やっぱり彼女だって事ね)


 これまでは聖女という事で、レイヴンは彼女のターゲットになってはいなかった。

 だけどハズレスキルのせいで落ち目の今、ついに彼女も悪役令嬢に目を付けられてしまったのだろう。

 目の前のアネットが私に噛みついてるのは、きっとその後ろにいるバーナード公爵令嬢の命令。

 今の状況をそう推測するレイヴン。


 だとしたら【嫌がらせ】はアネットに対してではなく、その後ろにいるソレイユ嬢に。

 正しい標的が誰かを定めるレイヴン。


(さぁ、黒い噂の悪役令嬢さん。貴女がどんな人間か見せてもらいましょうか)


 ――そして悪役令嬢に向けて【嫌がらせ】を使用した。


――――――――――――――――――――

ソレイユ・バーナードに最も効果的な嫌がらせを提案します。


まず前提として、彼女はとても臆病な人間です。

特に孤独が恐ろしく、常に誰かと一緒にいないと不安になってしまいます。

ですが公爵令嬢という立場上、寄ってくるのは権力になびき利用しようとする者ばかり。

そんな取り巻きの中で、唯一信頼しているのがアネット・グランヴィルです。

アネットが心の支えであり、アネットがいなくなると彼女は終わります。

なので直接ソレイユ本人を攻めるより、アネットを攻撃する方が効果的でしょう。

そのためここからはアネットを再起不能にする方法を提示します。

まずは――――

――――――――――――――――――――


(……へ? あれ? どゆこと?)


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