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13/15

13話 40歳にもなってまだ反抗期? だっさぁ~!


 提案された嫌がらせは、これまでの案の中でも一番エグくてオーバーキルな方法だった。


(完全に悪役令嬢ムーブじゃない! こんなことやったら私がざまぁ対象になっちゃうよ!)


 あまりの鬼畜な内容に戦々恐々となるレイヴン。


『どれどれ、どんな感じ?』


 そんなレイヴンの肩越しに、メイプルがスキルウィンドウを覗き込んだ。


『これは……なかなかエグい嫌がらせ方法だね。んーでも、これが嫌がらせになるってことは、この王子様ってすっごい人格者なんじゃない?』

『人格者……?』

『『他人に頼られれば頼られるほど喜ぶ人間』って書いてあるし、とっても善意の人だよきっと』


 言われてレイヴンは腑に落ちる。


(ああ、そうか。この人の雰囲気、母さんに似てるんだ)


 底抜けにお人好しで、いつも他人の事ばかり優先する母さん。

 私にも世話を焼いてきて「お節介だ」と怒ってもニコニコと笑顔だった母さん。

 私には真似のできない、理解できないくらい良い人だった母さん。

 だから……。


(だから何となく、彼が苦手になったんだ)


 不可解な苦手意識に、ようやく理解が及んだようだ。

 

「……どうしたんだいレイヴンさん。急に黙ってしまって?」


 自分の感情に気を取られ、黙り込んでしまっているレイヴンの顔を、心配そうに覗き込むローランド。


「やっぱり何か悩みがあるんじゃないのか? だったら試しに話してくれないかな? 私は君の力になりたいんだ」


 それが掛け値なしの善意であることは、もうレイヴンにも分かっている。

 厚意を向けられ戸惑うレイヴンに、横からメイプルが茶々を入れてくる。


『ねぇねぇレイヴン。この王子いい人みたいだし、もっと仲良くなっちゃえば?』

『は、はぁっ! な、何でよ!?』

『決まってるじゃん。『取り戻せ青春、目指せキラキラ女子』なんでしょ? その第一歩としてだよ。レイヴンも恋人が欲しいって言ってたし、優しくてイケメンとか優良物件だって』

『こ、恋人ぉ!? いや確かに欲しいとは言ったけどまだ心の準備が……』

『だったらまずは友達からでどう? それともまだ苦手?』

『そ、それは……』


 確かに彼のような善人であれば、ボッチのレイヴンの最初の友達としては最適な人物だろう。

 原因不明だった苦手意識も、正体がわかればどうという事はない。

 だが――。


(――やっぱりヤダ! 何かに負けた気がする!)


 ――なぜだか母親の顔が脳裏にチラついてしまう。

 想い出の母のドヤ顔に、どうしても素直になれないレイヴン。


「ねぇレイヴ――」

「――申し訳ありません、ローランド様!」


 ローランドの言葉を遮り、彼女は一方的に話す。


「ご助力の申し出はありがたいですが、わたくしには必要ありません。手助け無用ですわ。今のわたくしの目標は自立した女性。男性の助けが無くても生きていける、そんな強い女性を目指しておりますので。――それでは、失礼します」


 言いたいことを吐き捨てると、足早にその場を立ち去るレイヴン。

 後には呆然と見送るローランドだけが残されていた。


 * * *


 逃げ出したレイヴンは、近くにあった建物の裏手に駆け込んだ。

 物陰に隠れながら、走って乱れた息を整える。


『あのさぁレイヴン。いくら苦手な相手だからって、一目散に逃げ出すとかアレは無いわー……』

「う、うるさいなぁメイプル! アンタが彼と友達になれとか変な事言うから、テンパっちゃっただけでしょ!」


 呆れた様子のメイプルに、口を尖らせて反論するレイヴン。


「だいたいねメイプル。あーいうタイプは一度頼ったら最後、絶対めんどくさい事になるんだから! だから関わっちゃダメなの!」

『へぇ、そうなんだ?』

「そうそう、あの手の人間は、頼んでもないのに勝手に人の世話を焼いてきては、ドヤ顔でコッチを見てくるんだよ?」

『……ん? それがめんどくさい事なの?』


 メイプルが疑問を呈すると、レイヴンは焦った様子で語気を強める。


「そ、そりゃそうよ、メイプルは知らないだけ! お節介な人って自分がやりたくて世話を焼いてるくせに、なぜか『やってあげてる』って思ってるんだよね。だからこっちが『ありがとう』って言うまで満足してくれないの。勝手にお節介やいてきてるくせに、まったくあの人は!」

『えっと……『ありがとう』の一言で満足してくれるなら、そのくらい言えばいいんじゃない? それで機嫌よく面倒見てくれるんでしょ?』

「うっ、えっと……」


 メイプルからさらに正論で詰められ、思わず言葉に詰まるレイヴン。

 それでも彼女は何とか抗弁を試みる。


「で、でもあの人、コッチがお礼言うまでウザ絡みしてくるんだよ? 『何か私にいう事ないの?』って顔で、ずーっと付きまとってくるんだから。ほら、めんどくさいでしょ?」

『だからお礼言えば済む事じゃん。何でレイヴンは頑なにお礼を言わないの?』


 レイヴンの苦しい言い訳に、メイプルはジト目で疑問点を指摘する。


『てかレイヴン、さっきから言ってる『あの人』って誰? ローランド王子の事じゃないよね?』

「うぐっ、そ、それは……」

『他に誰か明確なモデルがいるよね? レイヴンは誰の事を想定して言ってるの?』

「えっと、その……」


 言い淀むレイヴンだったが、メイプルに押されてついに口を割る。


「……ウ、ウチの母さん……前世の」


 レイヴンの自白に、一拍、会話が止まった。

 少し思案の時間を置いてから、メイプルが改めてレイヴンに尋ねる。


『……ねぇレイヴン。ひょっとしてキミがあのローランド王子を苦手なのって、前世の母親に似てるから?』

「そ、それは……そうなのかも……分かんないけど」


 言い淀むレイヴンに、さらに切り込んで質問するメイプル。


『レイヴンって、ひょっとして前世で母親の事が嫌いだったの?』

「ち、違うよ! 嫌いなワケじゃないの。ただ……ちょっと世話焼きおばさん過ぎて、時々めんどくさいなーって思ってた程度で……」

『ん~、そっかぁ……』


 レイブンから聞いた内容を整理していき、メイプルにはひとつの現実が見えてきていた。


『確かレイブンは、前世では24歳まで生きてたんだっけ?』

「そ、そうよ」

『今世では16歳の誕生日を迎えたばかりで、足すと40年も生きてるんだよね?』

「だ、だから何よメイプル?」


 何を言われるのか不安そうなレイヴンに、メイプルは不都合な現実を突き付ける。


『40歳にもなってまだ反抗期? だっさぁ~!』

「ぬぁあああっ!」


 顔を真っ赤にして悲鳴をあげるレイヴン。

 そんな彼女の様子に、目標として掲げる『取り戻せ青春、目指せキラキラ女子』の実現は遠そうだと、メイプルはひっそり嘆息するのであった。


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