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12話 勘違いしないで、貴方が私の役に立ったことなんて一度もなかったわ


 婚約破棄という大きなイベントのあった翌日――。

 ふぁあ~っと大きなあくびをしつつ、レイヴンは通学路を歩く。


『眠そうだねレイヴン』

『いやぁ、今後のプランを考えるのが楽しすぎて、全然眠れなかったんだよね』


 どうやら昨夜のレイヴンは、あれからずっとノートに今後の計画を書き連ねていたようだ。

 眠い目を擦りながら彼女は校舎に向かって歩みを進める。

 と、そこへ――。


「やぁ、おはよう。レイヴンさん」


 一人の青年が声をかけてきた。

 彼を見た途端、レイヴンの顔が僅かに引き攣った。


「ご、ごきげんよう、ローランド殿下」

「あはは、相変わらず真面目だなぁ、レイヴンさん。私の事を『殿下』と呼ぶのはもう君くらいだよ」


 彼はローランド・エンバークラウン、この国の第二王子だ。

 兄であるクリフォードに容姿は似ているが、髪の色が金髪ではなく王族では珍しいダークブラウンをしている。


「それよりレイヴンさん、大丈夫かい? 兄上に婚約破棄を言い出されたとか……」

「え、ええ、そうですわね。ですがご心配には及びませんので」


 どこか余所余所しいレイヴンの態度に、傍から見ていたメイプルが首を傾げる。


『どうしたのレイヴン? ひょっとしてこの人嫌いだっけ?』

『いや、そういうわけじゃないけど……。何だかちょっと苦手意識が……』


 どうやら彼が苦手のようだ。

 だが相手の方は、特に気にした様子もなく話しかけてくる。


「本当に大丈夫かい? 私は心配してるんだ」

「だ、大丈夫です、問題ありません」

「それにしても、兄上も困ったものだね。突然婚約破棄を言い渡すなんて、いったい何を考えてるんだろう?」

「そ、そうですわね。全くあの方は何を考えていらっしゃるのか……」

「未来の王妃としてずっと努力してくれていた、何の落ち度もない君に対して、どんな理由があれ酷な事をしたものだ」

「お、お心遣いありがとうございますローランド様……」


 ローランドの気遣いの言葉を聞き、メイプルはさらに首を傾げる。


『いい人そうじゃんこの王子。レイヴンは何で彼が苦手なの?』

『それは……えっと……そういえば何でだろ?』

『そもそも以前はそんなに意識もしてなかったじゃないか。苦手になったのは……前世の記憶を取り戻してから?』

『た、確かにそうかも……どういう事?』


 自分の事なのに答えられないレイヴンは、改めてローランドについて考えてみる。


 ローランド・エンバークラウン第二王子――年齢は16歳でレイヴンとは同い年だ。

 王子とは言うものの王妃とは血がつながっておらず、母親は王城に勤めていた平民のメイドらしい。

 庶子のため王位継承権は持っていない、落胤の王子だ。

 金髪の多い王家には珍しいダークブラウンの髪が、彼の複雑な立場の象徴になっている。


(そういう複雑な事情があるのは知ってるけど……。彼とちゃんと会話したことなんてこれまで一度もなかったはず。すれ違いざまに挨拶を交わす程度の間柄で、嫌いになるほどの関係性は無いよね?)


 王家から冷遇されているローランドではあるが、聞く限りだと周囲の評判はいいようだ。

 兄であるクリフォードと違い、温和で親しみやすく、誰にでも親切だという噂話を聞く。

 そのためクラスメイトや使用人など、下の者からは随分と慕われているらしい。

 実際レイヴンが彼の姿を見かける時は、いつも周囲に人が集まってきているくらい人気のようだ。


(考えてみれば考えるほど、彼を嫌う理由なんて見つからない。なのにどうして軽く苦手意識があるんだろ?)


 理由を言語化できずに悩むレイヴン。

 そんな彼女の心境を露ほども知らず、気遣いの言葉を続けるローランド。


「ともかくレイヴンさん。私も端くれとはいえ王族の一員。兄が迷惑をかけたなら、君の役に立つことで、それを挽回したいと思っているんだ」

「ほ、本当にお気遣いなく。婚約破棄されてしまいましたが、わたくしとしては納得しておりますので」

「本当かい? 無理してない? 私で良ければ相談に乗るよ」

「いいえ、本当に大丈夫ですわ。そ、それでは……」


 会話を切り上げ、足早に立ち去ろうとするレイヴン。

 だが――。


「待って、レイヴン!」


 ローランドが彼女の腕を掴んで引き留める。


「ちょっ! 何をするんですか!?」

「あ、いや、済まない……。悪かった強引で」


 驚いたレイヴンが咎めると、ローランドは慌てて手を離す。

 だが気遣わしげな表情で、まだ言葉を続けるローランド。


「だけど……レイヴンさん、君は本当に大丈夫なのか? 私は君の事が心配なんだ」


 思ったよりグイグイ来るローランドに、思わず眉を顰めるレイヴン。


(この人……何のつもりなの? これまであいさつ程度の関係だったのに、急に私の心配なんて、何か魂胆があるのかな?)


 怪訝に感じたレイヴンは、彼が親切に接してくる背景を想像する。


(ローランド殿下は庶子だったよね。立場の弱い庶出の王子。だから婚約破棄された聖女を手に入れて、少しでも今の地位を向上させようと考えてるとか?)


 そう考えると今感じている苦手意識も、その感情に根差しているのかもしれないと推理できる。

 相手の利己的な考えを感じ取り、搾取されたくないという反抗心から生まれたと考えれば……。

 それなら納得できると、レイヴンは考えをめぐらす。


(よし、それを確かめるためにも――)


――――――――――――――――――――

ローランド・エンバークラウンに【嫌がらせ】を使用しますか?

はい いいえ

――――――――――――――――――――


 レイヴンはスキルを起動させ、迷わず『はい』を押した。


――――――――――――――――――――

ローランド・エンバークラウンに最も効果的な嫌がらせを提案します。

現在推奨する嫌がらせは2パターンあります。


①短期的な嫌がらせ。

心配してくれている彼の手を今すぐ払いのけましょう。

拒絶の際は、彼の良心を可能な限り踏みにじるよう心がけます。

「庶子の貴方に何ができるの?」など、相手の心的外傷を抉るセリフが効果的です。


②長期的な嫌がらせ

心配してくれている彼の手を取り、受け入れましょう。

彼は他人に頼られれば頼られるほど喜ぶ人間です。

とことん頼りまくって喜ばせ、我慢の限界までワガママを言ってあげましょう。

そして彼がギリギリ耐えきれなくなったところでこう言ってやるのです。

「勘違いしないで、貴方が私の役に立ったことなんて一度もなかったわ」と。

――――――――――――――――――――


(――なっ! 何なのこの嫌がらせ?)


 その内容を読んだレイヴンは思わず絶句する。

 提案された嫌がらせは、これまでの案の中でも一番性格が悪く、オーバーキルな方法だった。


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【あらすじ】

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