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11話 SIDE:ギルバート・ヴァンキッシュ伯爵(毒親伯爵)

お話は前回で一区切り。

今回の回想を挟んで、次回から新展開に入ります。

ブクマや星評価がまだの方は、ぜひこのタイミングでよろしくお願いします。

……本当によろしくお願いしますm(_ _)m


(――コイツは使えるぞ!)


 領内で黒髪の赤子が生まれたと聞いたとき、ギルバート・ヴァンキッシュ伯爵がまず最初に思ったことだ。

 黒髪は精霊に愛された証で、16歳にスキルを受け取り聖女となる存在。


(コイツを利用すれば、ヴァンキッシュ伯爵領を再び栄えさせることもできるはず!)


 現在のヴァンキッシュ領は、景気の良かった先代の治世に比べて領地経営がかなり悪化していた。

 現伯爵であるギルバートの失政により人口流出や産業の停滞が進み、今も徐々に衰退の一途を辿っている。

 そんな状況に領民たちからは「先代泣かせ」「ごく潰し領主」などと呼ばれ馬鹿にされる始末。

 領地での悪い評判に耐えかねたギルバートは、部下に代理の領地運営を任せ、王都の屋敷で大半を過ごすようになっていた。


(見返してやる! 私を馬鹿にしたやつら全員! 領民共も、笑っている他の貴族連中も!)


 自分が無能であることを直視できず、嫌な事から逃げ出して見ないふりをする。

 それなのにプライドだけは高く、自己顕示欲を人一倍持っている。

 それがギルバートという男の本質だった。


(そしてあの女もだ! 私を見捨てて逃げた薄情者め!)


 ギルバートの妻は、領地経営が傾き始めてからさっさと伯爵家から逃げ出していた。

 夫を支える事もせず、離婚届を残しあっという間に実家へ戻ってしまっていたのだ。


(未来の聖女がいれば権力に食い込める! 黒髪が我が領地に生まれたのは僥倖だ! 引き取って我が娘として育て、ゆくゆくは王家に嫁がせてやるのだ!)


 そんな虚栄心、復讐心、劣等感から、黒髪の赤子を引き取ることにしたギルバート。

 母体である女性は不幸な事に――ギルバートにとっては幸いなことに――産後の肥立ちが悪く亡くなってしまったらしい。

 その夫である父親は、妻を失った悲しみ、独りで子育てする不安、伯爵からの圧力、そして多額のお金を積まれ、悩みながらも娘を養子に出すことに同意した。


 その赤子はレイヴンと名づけられ、ヴァンキッシュ家に引き取られる事となる。

 そして彼女がやってきた初日――。


「こ、この子が聖女様なのですか? 私の妹の……?」


 ベッドの赤子を覗き込みながら、頬を上気させている幼い少年。

 最近10歳になったばかりの息子ルシアンだ。

 無邪気に喜ぶ息子の様子にイラっとさせられる。


 ――パァンっ!


 そのイライラをぶつけるように、ルシアンの頬を叩いたギルバート。

 突然の事に呆然とする息子に向かって、尊大な態度で叱りつける。


「ルシアンよ、勘違いするな。確かに聖女かもしれないが、所詮は平民だ。貴族にとっては利用できる道具にすぎん。貴様はこのヴァンキッシュ家の長男だ。私の血を引く優秀な息子なら、たかが平民の娘にオタオタせず毅然としていろ」


 叩かれた頬を抑えながら、ルシアンは意気消沈した表情で「分かりました」と答える。

 その様子を見て、満足げに頷くギルバート。


(ルシアンは従順で扱いやすく育っているな。勉強も優秀なようだし、私の息子にふさわしい子供だ)


 そうして目線を赤子のレイヴンに移す。


(貴様も私にふさわしい義娘に育ててやるぞ、レイヴン。聖女として存分に私の役に立つがいい)


 そうしてギルバートによる義娘レイヴンの教育が始まった。


 貴族令嬢にふさわしい立ち振る舞いを――。

 未来の王妃にふさわしい知識を――。

 黒髪の聖女にふさわしい慈善活動を――。

 そして――平民にふさわしい、従順で弁えた態度を。


 ギルバートは自分の手駒にふさわしい義娘を育て上げていく。

 そして15年――。

 王太子との婚約も決まり、立派な傀儡として育ったレイヴンに大変満足していた。


(あと3年だ。レイヴンが学園を卒業すれば、そのまま結婚して王太子妃になる。そうすれば私の天下だ!)


 だがギルバートの予期せぬ事態が起こる。

 レイヴンの16歳の誕生日、聖女として与えられたスキルが問題だった。

 印象最悪な【嫌がらせ】というハズレスキル。

 世間では『嫌がらせの聖女』と呼ばれ始め、それまでの好印象がガラガラと崩れていく。

 義娘に期待し搾取する気でいたギルバートにとって最悪の状況だった。 


「【嫌がらせ】だと? 何だその性悪なスキルは!?」


 我慢ならずに義娘を怒鳴りつけるギルバート。


「お陰で社交界では貴様の事を『聖女ではなく悪女だろう』 なんて噂になっておるのだぞ! 笑いものになる聖女なぞ、これまでいなかっただろう! これでは貴様を育ててやった甲斐がない!」


 散々罵ってやったのだが、何故かレイヴンの反応が薄い。

 いつものレイヴンであれば、彼の剣幕に怯え、すぐに謝罪の言葉を口にしていただろう。

 だが今はどこか飄々とした様子で、ギルバートの言葉など軽く聞き流しているかのようだ。


「おいレイヴン、何をボーっとしている!? いい加減にしろこのクズが! 聖女とはいえ所詮は平民の出、下劣な血に似合うのは、下劣なスキルという事だな!」


 義娘の態度にますます怒りがこみ上げ、ヒートアップするギルバート。

 すると――


「申し訳ありません、お義父様。私が至らぬばかりに」


 ――ようやく謝罪を口にし、頭を下げたレイヴン。

 その様子にようやく溜飲を下げられるかと思ったギルバートだったが……。


「ですが……おかしいですわね?」


 そう言って小首を傾げた義娘から、とんでもない嫌味が語られた。


 曰く――。

 ――自分がハズレスキルを授かることになったのは、育った環境のせい。

 ――こんなパワハラが横行する家庭で育ったから【嫌がらせ】などという性悪なスキルを授かったんだ。


 義娘からそんな指摘をされて、カッと頭に血が上ったギルバート。

 殴りつけようとして思いとどまる。

 元平民の義娘とはいえ、それでも聖女に代わりはない。

 もし暴力を振るって問題になれば、利用するどころか逆に罰せられかねない。

 だがそんなギルバートの内心を読んだように、レイヴンは口元に手を当てクスリと笑う。


「なんともまぁ、小心なお義父様らしい嫌がらせですわ」


 ギルバートは頭が沸騰するかのような怒りを覚えた。

 ここまでの憎しみを抱いたのは、妻が逃げ出したとき以来だろう。

 だが――。


「で、出ていけレイヴン! 今すぐ目の前から消えろ!」


 レイヴンの言葉通り、小心者の彼にはそう言って追い出すのがせいぜいだった。

 レイヴンが退出し、一人残された部屋で――。


「くそっ! くそっ! くそっ――! 絶対に許さんぞレイヴン!」


 怒鳴りながら物に当たり散らかすギルバート。

 気が済むまで暴れた後、ようやく冷静さを取り戻してきた。


「い、いかん、落ち着け私……。今ここでレイヴンを懲らしめたところで、多少気が晴れるだけで私のピンチは変わらないだろう。それよりも今後のあ奴にまつわる動向を見なければ」


 義娘が【嫌がらせ】スキルを授かったことで、世間の評価がどう変わるのか?

 今まで通り聖女として敬われるならまだ利用価値はあるだろう。

 だが『嫌がらせの聖女』として蔑まれるようになるのなら、養父として巻き込まれることだけは避けたい。


 そう考えていたギルバートに、翌日とんでもない情報が飛び込んできた。

 聖女と王太子の婚約破棄――。

 レイヴンにとって明らかに逆風が吹き始めている。


「ま、マズいぞ。このままでは私まで評価を落としかねない。何かいい方法は……」 


 義娘を捨てる――そのことに躊躇いはない。

 だが捨てたとして、それからどうすればいい?

 領都に戻るか?

 だがそもそも評判が悪くて逃げだした場所だ。

 戻ったところで居心地の悪さは変わらない。


「――クソッ! いったい私はどうすれば……?」


 悩むギルバート。

 彼を今追い詰めているのは、過去の己の行動だ。

 彼がこの先どうなってしまうのか……今後の動向を見守ろう。


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