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【完結】悪役令嬢たちのお休み処〜バッドエンドを回避した令嬢たちが、水曜だけ現代カフェでひっそり集まる話〜  作者: 禾乃衣


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12話 新たな聖女召喚と失踪した聖女

「唯奈さん! 大ニュースよ!」

 虹色の扉が開くやいなや、ティアがいつになく上機嫌な声を響かせた。

「異世界から聖女が召喚されたの!」

「私のところにも召喚されましたわ」

 エレシャも嬉しさを隠せないくらい口角が上がっている。

 二人は顔を見合わせる。

「これでようやく、あの買い占め公爵様をなんとかできそう」

「あの文官と第一王子の目を聖女に向けさせてみせますわ」

「(おおお、ついに本命ヒロインの登場! これでバグった愛の矛先が変わってみなさんにスローライフが戻るかも!)」

 唯奈も希望の光を感じて、勢いよく水出し煎茶を淹れようとしたその時。


「……私の世界では聖女が失踪してしまった……」

 エレシャとティアの後ろにいたナディルが不穏な空気を漂わせて立っていた。

「失踪!? ……と、とりあえずお席にどうぞ」

 三人が椅子に座る。

 エレシャとティアが心配そうな顔をしてナディルを見る。

「……失踪って、どういうことですの?」

 エレシャが控えめに問う。

「第二王子の陰謀で、私が暗殺者ギルドに殺されかけたことは話したな。 その第二王子が執心していた相手が聖女ミオナだ」

「(聖女ミオナって……誰もが心を奪われずにはいられない美貌と圧倒的な加護の力を兼ね備えたヒロインのはずじゃ!?)」

 困惑する唯奈をよそに、ナディルは深いため息をついた。

「実際、彼女とは言葉を交わしたことはなかったのだが、ある時聞いてしまったんだ。 『なぜナディル様を憎むのですか。 お願いですから暗殺なんてお辞めください』とな」

「その聖女はナディル様を陰で庇っていたのね」とティア。

「ああ。 しかし第二王子の陰謀がバレるやいなや、第二王子を唆したのは聖女ではないかと噂が立ってな」

「そんな……聖女は関係ないのでしょ?」とエレシャ。

「第二王子の聖女への執心ぶりは誰が見ても異常だったからな……ただの噂だが聖女はついに耐えかねて姿を消してしまったよ」

 唯奈が水出し煎茶をテーブルにそっと置く。

「捜索は? してるのですよね」とエレシャ。

「ああ。 王宮の騎士団が捜索している。 私も名乗りを上げたのだが……」

「断られたの?」とティア。

「いや、私が行くと言ったら副団長と新入りもついていくときかなくてな」

「(ありゃりゃ……そのお二方はどう見てもナディル様を護衛したいとしか……)」唯奈が心配する。

「私は言ったんだ。 半端な気構えで捜索に行くことは許さない。 不眠不休の強行軍になるかもしれないし私自身も最前線で動く、と。 彼らを突き放すつもりでな」

「(かっこいい〜〜〜。 さすが自警団を取りまとめる団長様!)」唯奈が目をキラキラさせる。

「そのお二人、素直に聞き入れましたの?」

「ああ。 背筋を伸ばして返事をしたよ」

「(そうだよね。 一国の聖女様が失踪しちゃったんだもん。 いつものようにナディル様にひっついて取り合ってる場合じゃないもんね)」唯奈がうんうんと頷く。


「私の話はここまでにしよう。 エレシャとティアの世界には聖女が召喚されたんだって?」ナディルが話題を切り替えた。

「そ、そうなの。 その聖女と公爵様をくっつけようと作戦を練ってるところよ」

「騎士団長とはくっつけなくていいのか?」

「えっ、ああ、うーん」

 目が泳いで焦っているティアにナディルは微笑んで言う。

「自分の気持ちに素直になれ」

 ナディルの言葉に肩をすくめて赤面するティア。

「(ティア様、私も陰ながら応援してますよ)」

 唯奈が心の中でティアの恋を応援する。


「エレシャは文官と第一王子の目を聖女に向けさせると言っていたな」

「ええ。 その聖女には申し訳ないですが、私のスローライフを守るためにお二方のお相手をしてもらいますわ」

「相変わらず容赦ないな」とクスッと笑うナディル。

「(私的には文官さんか第一王子様、どちらかとくっついてほしいなぁ〜……ってエレシャ様は微塵も望んでないんだよね)」

 ロマンスの気配すらないことにがっかりする唯奈の目の前を結城が通る。

 テーブルに運んだのはあんずのシロップ煮。


「まあ、もうそんな季節ですのね」

「初夏にぴったりな菓子だな」

「ツヤツヤで宝石みたい」

 三人共、黒文字楊枝を手にして口へ運ぶ。

「ん〜! 甘酸っぱくて美味しい!」

 先程まで赤面してたティアの顔が大好きなお菓子でキラキラする。

「……あの子にも食べてほしいな」

 ナディルが呟く。

「す、すまない。 また空気を暗くしてしまった」

「いいんですのよ。 ここは何でも話せる場所」

「そうよ。 私たち、もう仲間、というか戦友みたいなものでしょ?」

 エレシャとナディルの言葉に安心して「ありがとう」と言うナディル。

「よければ」結城が横から口を挟んだ。

「その聖女様が見つかったら持っていくといい。 また作るよ」

「いいのか?」

「もちろん。 甘酸っぱいものは涙の味を消すのにもちょうどいい。 聖女様を見つけたら、まずはこれを食べさせてしっかり泣かせてやるんだ。 その後のことはそれから考えればいいよ」

「……ありがとう」

 ナディルが今日一番の穏やかな顔で煎茶を飲んだ。

「(結城さん……たまにかっこよすぎてズルいんだよなぁ)」


 この日の和カフェ まおりは少ししんみりした空気を纏いつつも、どこか雨上がりのような清々しさに満ちていた。


 次の日。

 唯奈はバイトの休憩時間に公式サイトを見ていた。

 エレシャ、ナディル、ティアの世界の新キャラ情報が公開されており、眺めながら唯奈は「エレシャ様とナディル様には関係なさそう……ロマンスなんて関係なさそうだもんなぁ」と呟き、バイトに戻った。


 しかし、この新キャラが唯奈の待ち望んだロマンス展開を運んでこようとはこの時思いもしなかった。

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