(27)曇空邂逅
御影とフェルディナンドさんとの打ち合わせを終え、整備施設から宿泊施設へ向かう途中、ふと窓越しに宇宙の景色を見た。地球の青と違って、どこまでも続く暗闇。それなのに、ステーション内の照明はやけに鈍い灰色をしていた。まるで曇り空みたいで、なんだか気分まで沈みそうになる。雨が降るわけでもないのに、宇宙でこんな天気を再現する意味あるのか? そんなことを考えながら無機質な通路を進んでいると、ふと目の前に人影が現れた。
整った姿勢、冷ややかな雰囲気、そして瞳に宿る探求心。それだけで圧倒されそうになる。解説者のセレナ・ラグランジュが、俺の前に立っていた。
「ロードラスト・ヴァルクス…あの機体、いったい何なのかしら?」
静かだけど、鋭さを帯びた声。問いかけというより、核心を突くような言い方だった。答えを知っていて、あえて確かめるために聞いている――そんな感じがした。
「何って…俺がジャンクから蘇らせた機体ですよ」
自然に足が止まる。だが、セレナの瞳は微動だにせず、俺を射抜くように見つめてくる。まるで心の奥まで覗かれているような気がして、無意識に背筋が伸びた。
「他の皆様は気付いていなかったようですが…ロードラストのルナドライブは、通常のものとは根本的に異なるように見えます。ルナリウムが引き起こすエネルギー振動も、何か違う」
心臓が一瞬跳ねた。でも、それを悟られないように、できるだけ軽い調子で返す。
「さすが、月からいらっしゃった方ですね」
冗談めかしたつもりだったが、セレナの視線は少しも緩まなかった。
「ルナドライブはルナヴァルド社が秘匿する完全ブラックボックスの構造。独自改造はまず不可能。それをどう扱ったのか…まさか、ルナドライブを二基搭載?」
俺の背中にじわりと汗が滲む。でも、動揺を悟られたら負けだ。軽く笑いながら、適当に流す。
「ツインドライブなんて無理ですよ。そんな技術を持ってたら、ドイツ戦でもっと楽に勝ててたはずですよね?」
そう言うと、セレナはわずかに首を振った。
「それもそうね。複数のルナドライブを制御できるとは思えない。でも…あの機体の挙動は、軍事改造機とも違う。あなたたち、何を隠しているのかしら?」
言葉は穏やかだけど、疑念は消えない。彼女は真実を探ろうとしている。これ以上問い詰められたら、言葉に詰まりそうになったその瞬間、背後から明るい声が響いた。
「おーい、リュウト! 早くしないと置いてくよ!」
アヤカだ。その声に救われた気がした。俺はセレナに軽く頭を下げる。
「俺たちには隠すことなんてありませんよ。まあ…ロードラストがただの機体じゃないのは認めますけどね」
冗談めかして言い残し、振り返らずに歩き出す。背後にセレナの視線を感じたが、それ以上、振り返る気にはなれなかった。
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