(24)蒼翼疾風
タイガーマークが沈黙し、戦場に一瞬の静寂が訪れた。けれど、それは束の間の休息に過ぎない。次の瞬間、空気が張り詰めた。ドイツ代表の中距離型機体「アークトライデント」がゆっくりと動き出し、エネルギーキャパシターが赤い光を放ちながらチャージを開始する。その光の強さが、次の一撃の威力を物語っていた。
「次は、あれですね…」
通信越しに聞こえたルナの声は、いつも通り冷静だった。でも、その奥には闘志が燃えているのが伝わる。ディスプレイ越しに映る彼女の瞳には、一切の迷いがなかった。
「ルナ、下がれ!」
俺は思わず叫んだ。でも、ルミナスフローラは微動だにしない。
「大丈夫です、リュウトさん。ここは私が引き受けます。」
ルナの声ははっきりとしていた。その確信に満ちた言葉に、俺の中に渦巻いていた不安が、少しずつ霧散していくのを感じる。
「お前か…」
オープンチャンネル越しに、ドイツ代表の通信が入った。冷笑交じりの声が響く。
「ルナフロント最強と評されたゼファーの機体と戦ったというのは…だが、恐るに足らない。リミッター解除だと?出力を一時的に引き上げるだけの手法で、何ができる?」
その挑発に応えるように、アークトライデントが赤い光を纏ったビームを放った。空間を裂くような閃光がルナを狙う。
「仰る通りかもしれません。」
ルナの声は静かだった。次の瞬間、ルミナスフローラのスラスターが唸りを上げる。閃光が迫る――けれど、ルナの機体はまるで光そのものになったように横へと跳び去り、ビームは虚空を切り裂いた。
「確かに、リミッター解除は諸刃の剣です。短期決戦を強いられる不安定な手法――百も承知です。でも…」
通信越しのルナの声が、鋭さを増す。
「あなたは、本当に私を狙い撃つことができるのですか?」
「な、何を言っている…?」
ドイツ代表の声がわずかに震えた。
「リミッター、解除。」
ルナが静かに告げた瞬間、宇宙そのものが波打ったような錯覚を覚えた。ルミナスフローラの背部から、青白い光の翼が展開される。その輝きは暗闇を切り裂き、戦場の空気を変えた。
「オーロラウィング、展開。」
ルナが言葉を発すると同時に、ルミナスフローラが残像を伴いながら高速で移動を開始した。その軌跡が、まるで幾何学的な模様を描いていく。
「な、なんだこれは……?!」
ドイツ代表の驚愕の声が通信越しに響く。センサーが攪乱され、ルミナスフローラがまるで何機にも分裂したかのように錯覚させる。その数は二体、三体…いや、それ以上。もはや本体を見極めることなど不可能に思えた。
「くそっ!センサーが狂っているのか!」
焦燥に満ちた叫びが響く。アークトライデントは必死にビームを乱射するが、そのすべてが虚しく光の残像を切り裂くだけだった。
ルミナスフローラはさらに速度を上げ、旋回しながら敵機の周囲を取り囲む。すべての動きが、敵の死角を突く完璧なものだった。俺はその光景を見て息を呑んだ。
「宇宙の無重力環境だからこそ、この機体の真価が発揮されます。」
通信越しに聞こえるルナの声は、まるで勝利を確信しているかのように落ち着いていた。
「どれが本物だ!?どれだ!?」
ドイツ代表の叫びが響く。その混乱を見逃すルナではなかった。
ルミナスフローラが一気に加速し、アークトライデントの背後に回り込む。その軌道にはもはや迷いの欠片もない。
「終わらせます。」
その言葉が、静寂を切り裂く合図だった。
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