(13)剛鋼対峙
無重力テストを終えてフラフラしている俺たちに、フェルディナンドさんが声をかけてきた。
「味気ない宇宙食にも飽きてきただろう?ヨーロッパの味ってやつを教えてやる。少しステーション内を回ってこい。その間に準備するからな。」
その余裕たっぷりな口調に、俺は心の中で突っ込んだ。いや、それ絶対自分が食べたいだけだろ。でも、少し期待している自分がいるのも事実だ。
「ヨーロッパの味って何だろうね?」
アヤカが苦笑いしながら呟く。パンとかパスタとか、そういうベタなイメージが浮かぶけど、正直日本食の方が恋しい。でも、せっかくだし試してみるのも悪くないか。
そんなことを考えながら通路を歩いていると、視界に現れたのはドイツ代表チームだった。金髪碧眼の男二人と、背の高い筋肉質な女性一人。その姿は彫刻みたいに整っていて堂々としているが、こっちを見下すような態度がありありと伝わってくる。
彼らは立ち止まり、まるで壁のように俺たちの行く手を塞いだ。金髪の男の一人が英語で話しかけてくる。
「Hey, you guys are from Japan, right? How are the preparations going?」
その目には挑発の色が浮かんでいる。俺の頭は一瞬フリーズした。――何なんだ、こいつら。この威圧感、完全に舐めてるな。
「えっと、ちょっと待ってください。」
とっさに答える俺を見て、男は苦笑いしながら翻訳機をオンにした。すぐにもう一人の男が鼻で笑う。
「ほら、翻訳機なしじゃ話せないんだろ。それが日本のレベルだ。」
――腹立つ。胸の奥が熱くなるのを感じたが、ここで怒ったら相手の思う壺だ。俺は深呼吸して冷静を装う。
「準備はどうなんだ?」
再び問いかけてくる男に、俺は短く答えた。「問題なく進んでいます。」
すると、男は鼻で笑って続ける。「順調だって?去年、俺たちはアメリカに負けた。だから今年はそのリベンジを果たすつもりで来たんだ。正直、日本が初戦だと聞いたときは拍子抜けしたよ。俺たちは強者と戦う準備をしてきたんだからな。」
――舐めやがって。
怒りで拳を握りしめる俺を横目に、女性が一歩前に出た。冷たい目でアヤカをじろじろと見て、不敵な笑みを浮かべる。
「その細い腕でムーンギアを動かすつもり?振り回されて潰されるだけじゃない?」
――ふざけんな。俺の中で怒りが一気に湧き上がる。けど、ここで噛みついたら負けだ。今は飲み込むしかない。
「筋肉があれば勝てる、それがムーンギアバトルなの?」
アヤカが静かに言い返した。その声には冷静さが宿っているけど、目は燃えている。「頭と技術で戦うのがあたしたちのスタイル。どっちが強いか、試してみたら?」
ピシャリと言い放つ彼女に、女性の表情が一瞬だけ引きつる。その瞬間、アヤカが明確に勝ったのを感じた。だが、金髪の男がすかさず冷笑を浮かべ、口を挟んできた。
「試すまでもない。アリーナで教えてやるさ。どちらが本物の強者かをな。」
その言葉を締めくくると、男はルナの方に目を向けて薄く笑った。「そこにいるのはルナヴァルド社の御令嬢じゃないか。スポンサー特権で、俺たちを不戦敗にするつもりなんじゃないのか?怖いねえ。」
――ルナを舐めるな。俺の胸に再び怒りの炎が燃え上がる。だが、それを飲み込んで拳を握りしめた。言葉じゃない。戦場で証明するんだ。俺たちの力を。
彼らが立ち去った背中を見送りながら、アヤカが静かに口を開いた。
「行こう。」
その声はまっすぐで、余計な感情を乗せていない。俺も無言で頷き、彼女の後を追った。前を向いて歩くアヤカの後ろ姿は、堂々としていて頼もしい。その背中は、もう勝負が始まっていることを示しているようだった。
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