(12)蒼宙試練
宇宙アリーナでの世界大会まで残り約半月。宇宙ステーションでの生活はまだ数日だが、すでに地球の常識が通用しない場所だと痛感していた。無限に広がる漆黒の宇宙、その中に浮かぶ巨大な施設。そしてリングの回転が生み出す擬似重力――この異質な環境が、嫌でも自分たちの覚悟を試しているようだった。
「これが、宇宙での生活か…。」
アヤカが窓の外を見ながら呟く。その声には驚きと興奮、そしてほんの少しの不安が混じっていた。俺は言葉を返さず、頷くだけだった。広場を行き交う他国の選手たち。どの顔も自信に満ちていて、その背中に装備された機体はどれも最新鋭。その光景を見ているだけで、この舞台のスケールに圧倒される。
「想像もつかないよな、こんな場所で試合するなんて。」
窓越しに地球を見下ろしながら漏らすと、アヤカがふっと笑い、俺の肩を軽く叩いた。
「大丈夫、大丈夫!あんたはやればできるタイプでしょ?」
軽い調子の言葉だったけど、その目は真剣だ。励まされているのはわかる。だけど、その期待が逆にプレッシャーになるのは内緒だ。
そして数日後、ついに機体のテストの日がやってきた。宇宙での挙動チェック――地上では冗談のように聞こえるだろうが、ここでは現実そのものだ。特設テストエリアに運び込まれた機体を前に、俺はコックピットへ乗り込む。
操縦桿を握った手にじわりと汗が滲む。無重力空間に出る緊張が鼓動を速め、喉を乾かせる。
「リュウト、準備はいいか?」
モニター越しに聞こえるフェルディナンドさんの声には、どこか楽しげな余裕があった。
「宇宙空間でのテストは甘くない。君がこの環境にどう対応するか、しっかり見せてもらうよ。」
彼の鋭い目がスクリーン越しに突き刺さる。まるで視線だけで試されているような感覚だった。
「…了解しました。」
覚悟を決め、操縦桿を軽く引く。ロードラストが滑らかに動き出すと、無重力特有の感覚が全身に広がる。その驚くほどスムーズで軽やかな動きに、むしろ安心感すら覚える。ロードラストが応えるたびに、俺との一体感が高まっていくのを感じた。
「いい動きだ、リュウト。初めてでこれなら文句なしだ。」
フェルディナンドさんの声にほっとしたのも束の間だった。
「だが、これから少し負荷をかける。宇宙の厳しさを忘れるなよ。」
その言葉と同時に、シミュレーション環境が切り替わり、仮想の障害物が次々と現れる。
「リュウト、冷静に。スラスターの微調整を優先だ。」
通信越しに助言が飛び込む。その指示に従いながら、加速、旋回、射撃を繰り返す。スラスターの微妙な操作が要求されるたび、ロードラストの青い装甲が漆黒の宇宙に映えて輝いた。まるでこの無限の空間が、機体を舞台の主役に据えたようだった。
「よし、ここまでだ。」
フェルディナンドさんの声でテストが終了する。操縦桿を離し、深く息を吐いた。コックピット内は汗で蒸し暑いが、全身を包む達成感がそれを忘れさせてくれる。
格納庫に戻ると、フェルディナンドさんが近づいてきた。その整った顔に浮かぶ微笑みは、どこか誇らしげだった。
「見事だった。だが、これで満足するな。この舞台では、油断が命取りになる。」
その言葉に、俺は力強く頷いた。ここからが本番だ。
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