(32)鋼機暴走
「貴様あああああああああ!なんだその機体は!」
通信越しに響く怒声。完全にヒステリー寸前だ。その叫びが耳を刺すたび、俺の苛立ちも限界まで加速する。
「知らねえよ!!」
叫び返しながら、操縦桿を握る手に力が入る。汗で滑る指先が頼りない。でも、そんなの関係ねえ。
「マジで何がどうなってんのか分かんねえが――お前を止める!それだけだ!!」
ロードラストのチェーンソーアームが咆哮し、回転数をさらに上げる。火花が散り、ネザーファングの腹部から黒煙が吹き上がる。
このまま一気に撃破!と思った瞬間、予想外の事態が起きた。チェーンソーアームが敵機を貫き、機体ごと別方向へ猛スピードで突っ走る。
「おいおいおい、そっちは違うって!」
操縦桿を引っ張っても、ビクともしない。ロードラストは雪を蹴散らし、岩を飛び越え、木々を根元から薙ぎ倒して突き進む。俺はただこの暴れ馬に振り回されるだけ。
そして――突然の急旋回。
「うおおおおお!!」
強烈な遠心力で体がシートに叩きつけられる。息が詰まりそうな中、ロードラストがようやくネザーファングの方角を捉えた。
「貴様…!」
ネザーファングの肩部が光り、砲撃が放たれる。同時に右手のガトリングガンが火を吹き、無数の弾丸が空間を埋め尽くす。
「やばっ!」
反射的に左腕を前に突き出す。
次の瞬間、ロードラストのシールドが赤黒い光を放ち、砲撃も弾丸もすべてが弾き飛ばされた。
「なんだそれは!!」
テロリストの絶叫が響く。
その声には、焦りしか感じられない。
でも俺は、それに応える余裕すらない。
この機体、もう完全に俺の制御を超えてる。
ロードラストのチェーンソーアームが再び唸る。まるで自分の意思を持ったみたいに加速し、ネザーファングの脚部へ突っ込む。
「ぶった切れえええええ!!」
叫びながら操縦桿を押し込む。赤黒い光を纏った刃が、バターを切るみたいに装甲を裂く。金属の悲鳴が響き、操縦桿からその振動が伝わる。
巨体が崩れ落ち、ネザーファングが雪の上に沈む。
その様子を見て、思わず叫ぶ。
「よし、やった!」
でも、安心したのも束の間。
ディスプレイに赤い警告メッセージが次々と表示される。
"WARNING: LUNAR DRIVE FAILURE IMMINENT"
"ALERT: SYSTEM INSTABILITY DETECTED"
「おい、次はなんだよ!!」
必死に操縦を試みるが、ロードラストはまったく言うことを聞かない。それどころか、チェーンソーアームをさらに深くネザーファングの装甲へ食い込ませていく。火花が雪に散り、煙が舞い上がる。
「やりすぎだろ!止まれって!」
叫んでも無駄だった。ロードラストは破壊の化身と化し、ネザーファングを文字通り粉々にしようとしている。その時、ネザーファングの内部から、眩しい光が溢れ出した。
「な、なんだ!?!」
目を覆う間もなく、その光が、すべてを飲み込む。
「小僧おおおおおお!!!」
テロリストの絶叫が響いた瞬間――
轟音。
爆発。
爆風がロードラストを吹き飛ばす。
シートに押しつけられる体。
「ぐあっ!!!」
視界が白く染まり、耳鳴りが頭の中を支配する。
俺の意識は、深い闇へと引きずり込まれていった。
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