(30)雪闘巨影
ネザーファングの巨大な影を睨みつける。あの重装甲の機体は、雪山の静けさと美しさをぶち壊す異質な存在だ。戦場の冷たさは気温のせいじゃない。あいつが放つ圧倒的な威圧感が、周囲の温度をさらに下げているようだった。
「行くぞ!」
俺はロードラストのショルダーカノンを構え、砲撃を放つ。
轟音。
雪煙が舞い上がり、砲弾がネザーファングの装甲を直撃する。
しかし、奴は微動だにしない。
「どんだけ硬いんだよ、こいつ…要塞かよ…。」
「リュウトさん、援護してください!」
通信越しにルナの声が響く。
ルミナスフローラが青白い光を纏い、熱振動ブレードを構えて突進。
「アヤカ、今だ!側面を取れ!」
俺の叫びと同時に、アヤカのバスターディガーが大きく回り込み、ランスクレーンを突き出す。狙いはネザーファングの脚部。
「これでどうよっ!」
アヤカの叫びと共に、ランスクレーンが奴の脚部に食い込む。
「無駄だ。」
冷徹な声が通信越しに響いた瞬間、ネザーファングが体をひねる。絡みつくバスターディガーを、無造作に振り払った。
アヤカの機体が雪に沈む。
「アヤカ、大丈夫か!?」
ディスプレイ越しにバスターディガーが姿勢を立て直すのが見えた。
「まだまだいけるっての!」
アヤカの強がる声。
少しだけ、ほっとする。
だが、油断はできない。
その間にも、ルナのルミナスフローラが、接近戦を仕掛けていた。熱振動ブレードが唸りを上げ、ネザーファングの肩部装甲を狙う。しかし、奴の装甲は異常に硬い。ブレードを押し込んでも、傷一つつかない。
「くっ……!」
ルナが悔しそうに呻く。
「なら、これだ!」
チェーンソーアーム、起動。
奴の脇腹を狙う。歯車のような刃が、装甲に食い込む――その瞬間。
奴が反応した。
「しまっ――!」
振り上げられた巨大な腕が、ロードラストを襲う。間一髪でかわしたものの、急旋回で機体がバランスを崩す。その隙に、ネザーファングの砲口が俺を捉えた。
「危ない!」
アヤカのバスターディガーが猛スピードで突っ込む。
ロードラストを横に押し飛ばした――同時に。
轟音。
ネザーファングの砲撃が、アヤカの機体を直撃。黄色いパーツが吹き飛ぶ。バスターディガーは、そのまま雪に沈んだ。
「アヤカ!」
叫ぶ。だが、応える声は、ない。ディスプレイに映るバスターディガーのランプが、次々と消えていく。黄色い機体が、完全に沈黙した。
「くそっ…アヤカ!応答してくれ!」
返ってくるのは、ノイズだけ。
胸が、ぎゅっと締め付けられる。
「残るは…ルナヴァルドの小娘だけか。」
冷たい声が、通信越しに突き刺さる。
その言葉が、俺の焦りに火をつけた。
「くそっ…動け!動けよ!」
必死に操縦桿を引く。だが、ロードラストは動かない。それどころか、モニターに、赤い警告が次々と浮かび上がる。
"WARNING: LUNAR DRIVE UNSTABLE
"ALERT: OUTPUT NEAR LIMIT"
"EMERGENCY: FAILSAFE OVERRIDDEN"
「なんだこれ…!」
画面を睨みつける。
何が起きているのか、全くわからない。
ただ、ヤバい。
それだけは、本能でわかる。
警告音が鳴り響く。
さらに赤いメッセージが追加されていく。
"CRITICAL: ENERGY CORE DESTABILIZED"
"OVERRIDE: EMERGENCY POWER SHIFT"
「マジでどうなってんだよ!」
機体全体が、激しく振動する。
操縦桿から伝わる感触が、異常だ。
まるで、生き物が暴れ出しているような。
そんな嫌な予感が、全身を駆け巡る。
"DANGER: OUTPUT EXCEEDING LIMITS"
"OVERRIDE: DRIVE EMERGENCY MODE"
エネルギーメーターが振り切れる。
ディスプレイ上の針や数字が暴れ回る。
ロードラスト全体が、脈打つように震えた。
まるで――
何かが、目覚めたかのように。
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