(11)挑戦創造
「それでは、ムーンギアバトル全国大会、これより開幕いたします!」
甲高い女性の声がアリーナに響く。関西大会のノリノリ司会とは正反対、スーツ姿のクールな進行役に切り替わっている。これなら余計な煽りもなく集中できそうだ――そう思ったのも束の間、次のアナウンスで心臓が止まりそうになった。
「皆様、本大会にはスポンサー枠として、ルナヴァルド社の次期CEO候補として名高いゼファー・ヴァルド様が出場されております。ただいまより、開幕のご挨拶をいただきます。」
スクリーンに映し出されたのは、銀髪の男。
ルナの兄、ゼファー・ヴァルド。
銀色のパイロットスーツに金色の装飾が輝き、スポットライトを浴びながら堂々とステージに立つ姿は、正直、絵になりすぎていて腹立たしい。
「皆さん、本日ここにお集まりいただき、深く感謝申し上げます。」
落ち着き払った重厚な声がアリーナ全体に響く。妙に説得力があるから腹立つ。
いや、なんだこれ、圧がすごい。
「この全国大会は、単なる競技の場ではありません。ここに集うすべての挑戦者が、技術の粋を尽くし、未来の可能性を示す場なのです。」
ゼファーの視線が会場全体をゆっくりと巡る。
その目――ただの挨拶じゃない。まるで何かを見透かしているような気さえする。
「全国大会からは二対二から三対三へ。そして、武器も二つから三つへ。それは単なるルール変更ではありません。仲間と共に戦う力、技術の革新と創造力、そして機器の調和――これらが揃わなければ、月という未踏のフロンティアを切り拓くことはできないのです。」
まるでムーンギアバトルが世界の命運を握っているみたいな言い方だ。観客席がざわつく中、俺はなんとも言えない焦燥感に襲われていた。この舞台が、ただの試合じゃない――そんな雰囲気が、言葉の端々から伝わってくる。
「私はスポンサー枠として参戦していますが、これは私が特別であることを意味しません。この舞台で、私自身の技術と覚悟を試し、未来への夢を証明する場だと考えています。」
その言葉に拍手が巻き起こる。
いや、ちょっと待て、観客完全に味方じゃん。俺たち、これに勝たなきゃいけないのか? マジで?
「挑戦者たちよ、全力を尽くし、仲間を信じ、技術を磨き上げ、持てるすべてをここに注ぎ込んでください。そして共に――世界を、宇宙を、月を、そして新たな未来を切り拓こうではありませんか!」
演説が終わると、一瞬の静寂の後に割れんばかりの歓声と拍手。スクリーンの中のゼファーは静かに微笑み、余裕たっぷりにステージを後にする。
…ちょっと待て、どんだけ完璧なんだよ、あの人。
ふと隣を見ると、ルナが小さく震えていた。
「お兄様…」
その声は、普段の冷静なルナからは想像もつかないほど弱々しかった。
俺の胸の奥に、得体の知れない焦りが広がる。ゼファーが何を考えているのか、ルナがどうしてこんなに動揺しているのか、全然わからない。でも一つだけ確かなのは、俺たちはこの男を相手に戦うということだ。
「…さぁ、勝って問い詰めてやりましょう!」
アヤカが隣で拳を握りしめ、元気よく言う。その顔には一切の迷いがない。
「そうだな。」
俺も拳を握り返す。全力でぶつかるしかない。ゼファーが何を目指しているのか、それを知るためにも、まずは勝つんだ。
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