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鋼月の軌跡  作者: チョコレ
第二章 双月の覚醒機
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(9)雪夜決意

 冷たい風が雪とともに吹き抜け、湯気の中へと溶けて消えていく。屋上にある露天風呂は、白銀の世界と夜空に包まれた特別な空間だった。背後には雪をまとった連峰が連なり、湯面に落ちる雪片が柔らかな波紋を描いては消えていく。


「はぁ~、これぞ至福ってやつだね!」

 アヤカは湯船の縁に腕をかけ、満面の笑みで息を吐いた。湯の熱が全身をほぐし、時折頬をかすめる雪の冷たさが心地よい。


 その隣で、ルナは湯に静かに身を沈めながら、舞い降りる雪を見上げていた。

「月では…こんな風景、見たことがありませんでした。」

 指先をそっと湯の表面に滑らせ、揺れる湯気を眺める。その横顔には、どこか幻想を見ているような柔らかい表情が浮かんでいた。


「でしょ? これが日本の冬の醍醐味! 温泉と雪、この組み合わせ、最強じゃない?」

 アヤカは湯を手で軽くすくい、楽しげに笑う。

「こんな贅沢、月じゃ絶対味わえないでしょ!」


「そうですね。」

 ルナは小さく頷き、アヤカの明るい笑顔につられるように、そっと微笑みを返した。


 ふとアヤカが湯船の縁に寄りかかり、真剣な表情で口を開いた。

「ねえ、ルナちゃん。」


「はい?」

 ルナが振り返ると、アヤカの瞳にはほんの少しの真剣さが宿っていた。


「お兄さんに会ったら、どうするつもり?」


 その言葉に、ルナの表情が一瞬で硬くなる。肩がわずかに震え、視線は湯面へと落ちた。静かに降り積もる雪の音だけが、静寂の中に響いている。


「…正直に言うと、まだ分かりません。」

 ルナの声は小さいが、確かに響いていた。

「兄は私にとって、ずっと憧れの存在でした。完璧で、父の期待にも応えていて…。私が出場しているから日本の大会に来たのは分かるんです。でも、何を考えているのか、それが全く分からなくて…。」


 アヤカはじっと話を聞きながら、湯船に腕をかけ、ふっと息をついた。

「直接聞いてみればいいじゃん。」

 軽い調子の一言だったが、その声には不思議と安心感が込められていた。


 ルナは手のひらに落ちた雪の結晶をじっと見つめる。

「…そうですね。でも、もし兄が私に失望していたら? 何かを責められるとしたら…と思うと、怖いです。」


 アヤカは数秒考えたあと、にやりと笑みを浮かべた。

「怖がるのは別にいいよ。でもさ、ここまで来て逃げるとか、絶対ナシだからね。」

 片目をつむり、挑発するような口調ながら、その言葉には確かな温かさがあった。

「大丈夫、私とリュウトがいるんだから! 兄ちゃんが何か言ってきたら、私が一発ガツンと説教してやるから!」


 その言葉に、ルナの硬かった表情が少し緩む。頬に淡い笑みが浮かんだ。

「ふふっ、アヤカさんらしいですね。本当に…ありがとうございます。」


 アヤカは湯の中で軽く伸びをし、再びリラックスした表情に戻ると、湯船の縁をぽんっと叩いた。

「よーし、明日からは動作テストだね! お兄さんとの対決も気になるけど、まずは自分たちの機体を完璧に仕上げるのが先でしょ!」


 ルナも肩の力を抜き、降り積もる雪を感じながら頷く。

「はい。全力で準備します。」


 静かに舞う雪と湯気が一つになる中、二人の声だけが柔らかく響いていた。心の奥にあった不安が、湯のぬくもりとともに少しずつ溶けていくようだった。

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@chocola_carlyle

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