(8)氷雪戦記
護送列車は新京都駅を出発し、新東京駅を経て北上を続けた。気づけば函館を過ぎ、次の目的地は旭川。鹿児島から北海道まで一本の線路で繋がるなんて、こうして列車に揺られていると、日本のスケールを改めて実感する。
窓の外は、次第に白銀の世界へと変わっていった。雪化粧をまとった広大な景色がどこまでも広がり、車窓を流れる一つひとつの風景が、まるで絵画のように美しく見えた。
旭川駅に降り立った瞬間、顔を刺すような冷たい風が吹きつけた。吐く息は白く立ち上り、一面の雪が音を吸い込むように静寂を作り出している。
「…すげぇ。」
足を踏み出すと、ズボッと深く埋まる。何とか足を引き抜こうとするが、思いのほか重くてうまくいかない。生まれて初めて体験する雪の深さに、思わず戸惑う。
そんな俺の横で、ルナは目を輝かせながら静かに空を見上げていた。
「これが雪…。」
彼女はそっと手を伸ばし、ひらひらと舞い降りる雪を受け止める。小さな結晶は彼女の手のひらで一瞬のうちに溶けてしまった。それでも、ルナは感動したように微笑む。
「ルナフロントでは、雪は降りません。理論として学んだことはありましたが、こんなにも美しく、そして儚いものだったなんて。」
その言葉に、俺もつられて手を伸ばしてみた。雪はすぐに溶けて消えていく。けれど、ルナの声にはどこか不思議な温もりがあった。
駅前には、大会主催者が手配した送迎用のトレーラーが待っていた。俺たちのロードラストもしっかりと荷台に積まれ、雪道をかき分けるようにして走り出す。目指すは、大雪山の麓にある大会公式の宿泊ホテル。
チェックインを済ませた後、俺が真っ先に向かったのは温泉だった。雪国で温泉なんて初めての体験。湯気が冷たい空気に溶けていく様子を眺めながら、ゆっくりと湯船に身を沈める。
「…っはぁ…雪の中で入る温泉って、こんなに気持ちいいのかよ…。」
じんわりと全身に染み渡る温もり。冷え切った体がじっくりと解けていくような感覚がたまらない。しばしの間、疲れがふわっと抜けていくのを感じる。
ルナとアヤカは二人部屋で過ごしているらしい。ルナは明日の動作テストのことを真剣に考えているんだろう――でも、アヤカのことだから、くだらない雑談でルナを笑わせてるかもしれない。なんだか簡単に想像できて、自然と頬が緩んだ。
ふと、湯船から立ち上る湯気をぼんやりと見つめる。
「明日からは雪の中か…。」
この土地の厳しさは、想像以上かもしれない。でも、俺たちの機体なら、きっと乗り越えられる――そう信じてるし、そう信じたい。
温泉のぬくもりに包まれながら、俺は静かに目を閉じた。
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