(4)不屈覚悟
「さて…ルミナスフローラの調整に取り掛からねばな。」
エリックがルナに向き直り、鋭い視線を向ける。その一言で、空気が一気に張り詰めた。俺も思わず背筋を伸ばす。
「修復され、最新のパーツが組み込まれたとはいえ、それは表面的な改良に過ぎない。」
ホログラムに映し出されたルミナスフローラの設計図を指し示しながら、エリックは続ける。
「この機体の基幹部は、君の母上の時代の設計を基にしている。つまり、現行の機体と比べれば、性能差は歴然だ。リミッターを解除せねば、限界を超えることはできない。」
「よろしくお願いします!」
ルナが深く頭を下げる。その瞳には、いつもの冷静さの奥に、強い決意が宿っていた。その姿を見て、俺は一瞬圧倒される。彼女は前へ進もうとしているのに、俺はどうだ?――そんな思いが頭をよぎった。
気づけば、口が勝手に動いていた。
「その…ルミナスフローラのリミッター解除で強くなるって言うなら、俺のロードラストも、ちょっとだけ強化できないのか?寒冷地仕様だけじゃ、全国大会はきついだろ。」
言った瞬間、自分でも無茶振りだなと思った。でも、一度言葉にしたら、もう引っ込めるわけにはいかない。
エリックは一瞬考え込むように目を閉じ、そしてすぐに目を開く。
「…悪いが、それはできない。」
静かだが、揺るぎない口調。その一言で、俺の期待はあっさりと砕かれた。
「なんでだよ?同じムーンギアなんだろ?出力を上げるくらいならできるんじゃないのか?」
食い下がる俺に、エリックは小さくため息をつく。
「ロードラストにはリミッター制御機構がない。出力を無理に上げれば、制御が追いつかず暴走状態に陥る。」
「…どれくらいのリスクがあるんだ?」
「簡単に言えば、指示を受け付けず勝手に動く。制御できなければ、ただの的になるだけだ。」
現実的すぎる答えに、言葉を失う。リミッター解除でパワーアップするどころか、一歩間違えれば暴走――そんなリスク、受け入れられるわけがない。
エリックは俺の沈黙を見て、少しだけ口調を和らげた。
「…だが、強くする方法がないわけではない。」
俺が顔を上げると、エリックはロードラストの設計図を指で示した。
「この機体の強みは、頑強さと耐久性だ。それを最大限に活かすことが、お前たちにできる最適な強化方法だ。」
アヤカがホログラムのデータを確認しながら、小さくうなる。
「つまり、リミッターを外すんじゃなくて、もともとの特性を最大限活かせってことね。」
「その通り。」
エリックが頷く。
俺は唇を噛みしめる。反論の余地はない。ロードラストは、俺とアヤカがゼロ――いや、マイナスから作り上げた機体だ。 そのポテンシャルを信じるしかない。
深呼吸して、拳を握りしめる。
「……わかったよ。」
自分に言い聞かせるように、静かに答えた。
「俺たちのやり方で、こいつをもっと強くする。」
エリックは薄く微笑み、頷いた。その目には、俺たちの未来に期待する光が確かに宿っていた。
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