(3)月地融合
すべてが順調に進む――なんて、甘い幻想だった。
寒冷地仕様への改修は、高専生たちや彼らと繋がりのある中小企業の協力を得ながら進めていた。だが、オンラインだけのやり取りでは限界がある。そして何より、ルナドライブと重機の組み合わせが、想像以上に難題だった。
「ルナドライブの特性をもっと深く知らないと、これ以上は無理ね…」
アヤカが吐き捨てるように言った瞬間、作業場の扉がギィッと音を立てて開いた。
「…誰だ?」
反射的に視線を向けると、そこには――あの亡命者、エリックが立っていた。
場の空気が一瞬で張り詰める。
「タイミング良すぎるわね、エリックさん。」
アヤカは一瞬驚いたが、すぐにニヤリと笑って来意を悟ったようだった。
エリックが無言で一歩踏み出し、その冷静な声が作業場の温度を下げるように響く。
「ルミナスフローラのリミッター解除のために来てみたが…寒冷地仕様の自作ムーンギアだと?こんな無茶なプロジェクト、ルナヴァルド社ですら前例がないな。」
「そりゃそうだろ…」
心の中でツッコミを入れるが、場の流れに圧されて何も言えなかった。
エリックは小さくため息をつくと、静かに言葉を続ける。
「だが――だからこそ、私が来た意味がある。 私の知識と経験を活かせば、どんな壁でも乗り越えられる。」
その言葉に、アヤカの目がキラリと輝く。
「力を貸してくれるってこと?だったら話が早い!」
「ただし、覚悟しておけ。これまでの常識を覆すような改修が待っている。」
アヤカは一瞬腕を組み、考える素振りを見せた後、ニヤリと笑った。
「いいじゃない。地球と月の技術が合わさったら、どんなすごいものができるのか試してみようじゃない。」
その瞬間から、スペースポートの作業場は戦場と化した。
「クローラーのスパイク部分、もっと強化して!基盤はこっちに設置するから、溶接は慎重にね!」
アヤカの声が響き渡ると、作業員たちが一斉に動き出す。そのスピード感に圧倒されつつも、俺も工具を手に取らざるを得なかった。
エリックも冷静に的確な指示を飛ばす。
「冷却液の循環速度を少し落とせ。その方がルナドライブのエネルギーが安定する。」
「了解。でも、そういうのはもっと早く言ってよね!」
アヤカは軽口を叩きながらも、手を止めない。その集中力、いつもながら半端じゃない。
周囲の作業員たちも、この異色の改造プロジェクトにどこか興奮しているようだった。地球と月の技術が交わる――その言葉の響きが、俺たちに目に見えない力を与えている気がした。
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