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鋼月の軌跡  作者: チョコレ
序章 廃鋼の叛逆機
20/190

(20)宿命継承

 月面都市ルナフロントの中心にそびえる執務室。


 その広大な空間は、冷ややかな静寂に包まれていた。壁一面のガラス窓越しに、青く輝く地球と荒涼とした月面が広がり、部屋全体が重厚な威圧感を放っている。 床には高精度のカーボン素材が敷かれ、一切の無駄を排した設計が施されていた。


 その中央。


 完璧に整理されたデスクに座るのは、ルシウス・ヴァルド。銀白の髪はきっちりと整えられ、その鋭い眼光は、ただそこにいるだけで空間を支配していた。


 デスクの脇に立つのは、ヴァイオレット・レンフィールド。黒と紫のスーツに身を包み、冷徹な眼差しでタブレットを操作する。その動作には一切の迷いがなく、まるで正確無比な機械のようだった。


 そして、彼女の冷静な声が静寂を切り裂く。


 「ルシウスCEO。行方不明となっていた御令嬢の所在が判明しました。」


 ルシウスはゆっくりと顔を上げた。

 一瞬だけ浮かんだ緊張が、顎に手を添える仕草でかき消される。


 「続けてくれ。」


 ヴァイオレットはタブレットを操作し、報告を続けた。


 「ルナフロントを離れた船は消息を絶っておりましたが、日本の和歌山地域でご令嬢の無事が確認されました。ムーンギアバトルで優勝した選手の付き添いとして映像に映っており、解析の結果、99.99999%の精度でご令嬢本人であることが判明しています。」


 ルシウスの目がわずかに細まる。

 その声は平静を装っていたが、内に秘めた安堵の色は隠しきれなかった。


 「無事だったか。」


 ヴァイオレットはその反応を一瞥しつつ、即座に続ける。


 「ただし、ご令嬢が持ち出した機体、ルミナスフローラは確認されておりません。

 付近の海域に沈んだ可能性が高いと推測されています。」


 ルシウスの眉が僅かに寄る。

 その鋭い瞳には、哀しみと未練の色が微かに浮かんでいた。


 「あれは…大切な機体だ。亡き妻の形見でもある。至急、海から引き揚げろ。ルナリウム装甲で再構築し、最新の兵装を加えて娘の元へ届けさせろ。ただし、ルナドライブにはリミッターを確実に設定した上でだ。」


 ヴァイオレットは即座に頷く。しかし、次の瞬間、疑問を含んだ表情を浮かべた。


 「届ける…とは?」


 「娘は私の元を抜け出し、亡き母の形見まで持ち出した。それは私への明確な意思表示だ。」


 ルシウスの口元には、わずかな微笑が浮かぶ。

 その言葉は、威厳とある種の寛容を兼ね備えていた。


 「いいだろう。その意思を尊重しよう。」


 ヴァイオレットは、彼の意図を探るように、冷静を装いながら問いかける。


 「つまり、ご令嬢がムーンギアバトルに出場されることを見守るというお考えですか?」


 「その通りだ。」


 ルシウスは椅子にもたれかかり、視線を遠く地球へ向けた。


 「ムーンギアバトルは、一対一で終わらず二対二へ、そして最終的には三対三へと進む。娘は必ず出場してくるだろう。ならば、どこまで登れるのか見届けるのも一興だ。そして、我が社の最新機体が勝ち進めば、それ自体がルナヴァルド社の技術力を全世界に示す証明となる。もっとも、我が社の地位は既に揺るぎないがな。」


 ヴァイオレットは軽く眉を上げる。

 彼の思考の一端を読み解いたように、冷徹に頷いた。


 「適切な準備を進めます。」


 「頼む。」


 ルシウスの声には確固たる意志が込められていた。

 彼の瞳は、これから訪れる戦場の未来を見据えて鋭く輝いていた。



 ──



 序章『廃鋼の叛逆機』閉幕


 次なる戦場は、神戸港


 白銀の女神が舞い降り、蒼き光をその身に宿す。



 ──

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@chocola_carlyle

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