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鋼月の軌跡  作者: チョコレ
序章 廃鋼の叛逆機
12/190

(12)鋼機奮戦

 サイレンが鳴った瞬間、頭の中が真っ白になった。


 心臓が喉元まで跳ね上がり、全身が凍りつく。ロードラストのコックピットにいるはずなのに、自分の手足がどこか遠くに感じる。操縦桿を握る手は汗で滑りそうで、視線は目の前のディスプレイに釘付けになった。


 赤と黒のツートンカラー。巨大な翼を広げたマルドウィングが、アリーナの中央で異様な存在感を放っている。ライトを反射する派手すぎる装甲に、胸がギュッと締め付けられる。


 「やるしかねえ……」


 震える声で呟くものの、手の震えは止まらない。

 操縦桿を握り直そうとするが、不安が体を縛りつけている。

 操作をミスったらどうしよう——そんな考えが、頭を支配していた。


 ——その時、マルドウィングが動いた。


 翼を大きく広げ、金属表面がライトを反射する。

 視界が一瞬、白く染まる。


 息を呑むと同時に、慌てて操縦桿を引く。だが、タイミングがズレた。ロードラストはぎこちなく後退し、まるで初心者のような動きになった。


 「くそっ……!」


 情けない動きに、冷や汗が滲む。

 観客席から笑い声が聞こえた——気がした。

 顔が熱くなり、余計に焦りが募る。


 ——その隙を突くように、マルドウィングが槍を構え突進してきた。


 赤黒い影が、ディスプレイ越しにどんどん大きくなる。

 鼓動が激しくなり、喉が詰まるような感覚に襲われる。


 「どうする……どうする!」


 操縦桿を強く押し込む。

 ロードラストが横にスライドする。


 ——避けた。


 「……っ、あぶねぇ……!」


 槍が空を切り、マルドウィングが勢いよく通り過ぎる。

 その背中を見て、ようやく一息つけた。


 「動きが、思ったより単純だな……」


 自分でも驚くほど冷静な声が漏れる。

 さっきまでの緊張が、少しずつ溶けていくのを感じた。

 操縦桿を握る指先に、力が戻っていく。


 右腕のドリルスイッチに手を伸ばす。

 ボタンを押すと、重い振動がコックピット全体に伝わる。


 ——再び、マルドウィングが突進してくる。


 その動きは派手だが、どこかぎこちない。

 ロードラストを左右に滑らせながら、その動きをじっくり観察する。


 「いける……!」


 胸の奥から湧き上がる確信に、全身が反応する。

 エンジンが低く唸り、操縦桿を握る手に自然と力が入る。

 ロードラストの巨体が加速し、振動が全身に響く。


 赤と黒の装甲が迫る。

 ライトに反射する光が目を刺す。


 ——その瞬間、操縦桿を一気に倒した。


 ロードラストが鋭く左にスライドし、その勢いを活かして右腕を振り上げる。


 ドリルが唸りを上げ、加速する。

 マルドウィングの脚部に突き刺さる。


 「よし……!」


 金属が裂ける鈍い音が響く。

 ドリルの抵抗が一気に軽くなる。

 赤黒い装甲が剥がれ、破片がディスプレイの端で舞う。


 ——マルドウィングがぐらりと傾く。


 「まだだ!」


 操縦桿を握り直し、ドリルをさらに押し込む。

 激しい振動が手元に伝わり、脚部が完全に崩壊していく。

 巨体が大きくバランスを崩し、そのまま地面に倒れ込んだ。


 ——観客席から歓声が沸き上がる。


 ディスプレイには、行動不能となったマルドウィングの姿が映し出される。

 アリーナ全体が熱狂に包まれる中、アナウンスが響く。


 「マルドウィング、バトル続行不能と判断! 勝者、リュウト選手!」


 全身の緊張が解け、力が抜けていく。

 ロードラストのコックピットに静寂が戻り、俺は深く息をついた。


 「くっそ……こんな短時間でやられるなんて……!」


 通信越しに相手の悔しそうな声が響く。

 ディスプレイに映るその顔には、悔しさが滲んでいたが——

 その目には、次への挑戦の光が宿っていた。


 「次はもっと強くなってやる!」


 その言葉に、胸の奥が少し軽くなる。

 負けても諦めない姿に、どこか救われる気がした。


 ロードラストの操縦桿をそっと離し、観客の歓声に包まれる中、静かに呟く。


 「俺も、ロードラストも、もっと強くなる。」


 次への決意が、熱い灯のように胸に宿った。

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@chocola_carlyle

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