(36)鋼覇降臨
バスターディガー改が静かに動きを止めた瞬間、空間に漂う緊張が一気に重くなった。警告音が鳴り止んだ後の静寂が、まるで嵐の前のように張り詰めている。ディスプレイを見れば、一面に広がる赤いマーカー。さっきまで暴れ回っていた無人機の群れは影も形もなくなったが、まだ終わりじゃない。むしろこれからが本番だ。アリーナの外から、新たな波が押し寄せてくる。
そのとき、オープンチャンネルが開いた。聞き覚えのある声が、ノイズ混じりに響く。
「そちらの救援に向かいたいが、数が多すぎる…!」
ゼファーの声だ。普段は冷静な彼が、珍しく焦りを滲ませている。
「何とか切り抜けてくれ。ルナ、お前も無事でな…!」
無機質な通信音が途切れた。気づけば、無人機の群れはもう目の前だ。背筋に冷たいものが走る。ヤバい。このままじゃ本当にやられる。
「くそっ…」
操縦桿を握る手に力がこもる。今のままじゃダメだ。俺たちの機体はすでにボロボロで、防御なんて期待できない。唯一の突破口は――ロードラストのルナドライブを無理やり暴走させること。
「リュウトさん、私のルミナスフローラも…これだけの数が相手では…!」
ルナの声が僅かに震えている。いつも冷静な彼女が、今は戸惑っている。いや、そりゃそうだ。どう考えても絶望的な状況だ。けど――ここで諦めるわけにはいかない。
そのとき、無人機の群れがルナを優先して狙いを定めた。くそ、やっぱり――テロの狙いはルナヴァルド社。北海道でもルナとゼファーを狙っていたじゃないか。ここでも同じだ。
だが、その瞬間、目の前の景色が変わった。俺は目を疑った。ルナを取り囲んでいた無人機が、突如、次々と爆発する。しかも、一撃で――。
何が起こった?視界の先、宇宙の闇の中から、ゆっくりと姿を現す巨大な影。黒銀の装甲が月光を反射し、鋭く煌めく。通常のムーンギアとは比べ物にならないほどの威圧感。その機体が、まるで戦場の主のように、静かに降臨する。
「なんだ…あれ…」
ディスプレイに映る機体を凝視する。異質すぎる。その場にいた誰もが、無人機ですら、その存在にたじろいだように見えた。
「まさか、新しいテロリスト…?」
バスターディガー改のコックピットから、アヤカがかすれた声で呟く。
次の瞬間、通信チャンネルが唐突に開いた。
「私だ。」
低く、重厚な声。冷徹で、威厳に満ちた、圧倒的な存在感。その声を聞いた瞬間、ルナが息をのんだ。
「お、お父様…!?」
俺の頭の中でピースがはまる。まさか――ルナヴァルド社のCEO、ルシウス・ヴァルド。ルナとゼファーの父であり、ムーンギアバトルのメインスポンサー。
「父上!どうしてここに!」
ゼファーの声も動揺している。
「テロリストの狙いはルナヴァルド社。そして、その象徴たる私だ。ならば、私が出るまでのこと。」
静かに、だが確実に、その言葉が戦場に響く。
巨大な黒銀の機体がゆっくりと動き出す。その動きには迷いも、躊躇もない。ただそこにあるのは圧倒的な支配力。ルシウス・ヴァルドという男が、この戦場を手中に収めていることを、誰もが理解せざるを得なかった。
俺はその機体を見つめながら、喉が乾くのを感じていた。戦場の空気が変わる。無数の無人機でさえ、今この瞬間、ただの障害物に過ぎないと示される。
これは――戦いの幕が、また一つ上の次元へ進んだということなのかもしれない。
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