ヒヤリハット無線封鎖(前半・導入編)
今回は先日遭遇した、無線が通らない状況で判断を迫られた場面について事情をまとめてみました。
ケーススタディやチーム内のディスカッション題材にお使いいただけますと幸いです。
前編で事情説明と前半の活動、後編は前半での意思決定の後の結果をまとめます。
[用語の定義]
特に用法が安定しないものについてのみ補足する。
・林道:車が通れるが国道等の規格を満たさないもの。舗装の有無やゲートの有無については個別に説明必要。
・山道:手で木や岩を掴まなくても足のみで歩ける地形。ハンター以外(ハイカー等)も通る道だが勿論舗装されていないし車も通られない。
・★マーク:後編で無線相手先や後日譚等の補足情報を追記
・勢子:チーム猟の追い出し役。進行役も兼ねていてたくさん歩く。たいへん。
[参加者]
(今回の記事はA視点での記述に事後確認が取れた情報を付加したものである)
A:40代ハンター男性、出猟経験200回程度、猟犬あり、今回のまとめ役。このメンバーでの狩猟は10回程度だが、比較的負荷の低いが、捕獲や目撃の少ない回が続いている。
勢子の経験多数で荒れた地形も犬に付き合って歩いているためある程度慣れている。よくしゃべる。
Aの猟犬:ビーグル3歳。出猟経験10回程度、捕獲成功のアシスト実績なしだが目視したシカは何度か追っている。
B:40代ハンター男性、出猟経験100回程度、登山経験多。Cともども普段は別地域で活動しており、周辺事情は不案内。よくしゃべる。
C:30代ハンター男性、出猟経験30回程度。Bの弟分的に連れ出されノウハウを教わっている。やや口数が少ない。
[事前相談]
・初日、テント泊、二日目となるうちの初日である。
・地理院地図ベースで書き込みを行った当日の経路地図を共有した。
・ルート設定の意図(狩場の下見という目的に沿って特に見たい箇所、持ち帰って欲しい情報、危険個所)を質疑で確認した。
・標高は登山口が1,000メートルくらい。山頂が1,500メートルくらい。移動距離は
・ルートXは参道から多少それながら5km、Yはほぼ山道を使えて6.5km。Zは途中まで林道で自動車を使えるが、途中から山道もなしで全て手探りの3.5km。
・今回は移動距離も5キロ程度で日程に余裕があり、今後のチーム猟に使う山の下見として、歩きやすい場所を探しながら歩く。
・登山計画のコース定数は20程度と出ていた。( 一般的な登山者向き)
・実際は林道から逸れて探索も行うことから更に高いと思われるが、普段の猟と比較してやや大変、程度の共通認識だった。
・林道でむき出しの銃を登山客に通報された事例があるので登山客遭遇の可能性が高い主要な山道は避けられるなら避ける
・獣類も人間活動を避けるだろうから登山道から少し外れたコースを積極的に採用する
・矢先については特に登山道に注意する
・無線、Web地図、猟犬GPSアプリ関連は本番下見問わず活用する
・かなりの距離となるので所要時間はより短く、ルートはより歩きやすい方を採用する方針で行動する。
・下見後に全員が合流する地点は林道末端の車を駐車したポイントとなる見込み。
・集合地点で相談→各登山口で相談→それぞれ行動の段取りとする。
[集合地点での相談]
予定していた朝9時ごろ合流に成功し、以下の話題をチャットで話し合い共有していた。
・昨晩の相談結果を受け、より平易なルートを選択する、林道や山道から大きく逸れないことを合意した。★1
・定時連絡を最低2時間に一回は入れられるよう、LTEも無線も通じた時にはタイミング問わず連絡(ログ残し)を試みる。
・おそらく無線が山頂に到達しないと全員とは交信出来ない。山頂に着いたらすぐ連絡を入れること。
[ルートX登山口]
九時半ごろから10時ごろにかけて登山口周辺の状況を確認しながら準備と相談を行った。
なお、気温は零下一度程度だった。
・3人とも猟装に着替えた。
・無線機のチェックを行った。ややノイズが入るがAからAC、CからABも通っており、問題なしと判定した。★2
・ルートX開始位置付近に大量のシカ糞があり、熊糞もある。開始位置付近は比較的平坦で、これくらい平坦な範囲では登山道から離れて捜索して構わないこととした。
・本ルートが最も長くなる可能性が高く、多少のルート変更余地があるとため体力があり経験も十分なBが行くこととした。
・山頂でBとCが13時ごろ合流と仮設定し、難しい場合は引き返す等の対策を取ることとした。
[ルートY登山口]
・地図上は林道となっており、計画では車両通行可能だった箇所が閉鎖されていて自動車が使えない。★3
・自動車が使えない場合、下山でおそらく90分程度の追加時間とそのための体力が必要となる。
・CがルートY担当となる。
・ルートY登山口ではBとの交信は出来なかった。理由はおそらく斜面の影になっていたことで、全く感なしだった。★4
・A、Cで話し合った結果、自動車が下山に使えないことは無線が通じ次第CからBに知らせることとした。
・自動車でルートZの途中まで行くプランは崩れたが、Aは事前に決めた合流地点には徒歩で向かうこととした。
・以上の調整を受け、Aは山道もが無い箇所を数キロ歩くような捜索は断念することとして、林道沿いの山道の有無を見るところまでに留めることとして山道もない箇所は行かないこととした。
・また、自動車が使えないことで無線等が通じない時間が長くなることを確認した。変更後のルートZと合流後の林道で歩いて戻る距離は5kmとなった。
(なお、この自動車で下山するプランが消えたことによりコース乗数が3人とも30弱まで上がった)
十時過ぎにCがルートYに出発。十時半にAが自動車と共にルートX方面(ただし自動車無しのため短縮)を出発。
[ルートZ午前]
・基本的に舗装された林道を歩行しながら渡河地点と登攀可能地点を探していく。
・すぐ傍を流れる川は水流が多く流れが急でかなり水音が大きい。獲物にも感づかれにくいがトラブル時に救助を求める声も聞こえないと思われた。★5
・当初計画していたルートX(渡河後で尾根を一周する)について渡河を試みた。
・渡河に際して岩から岩に跳んだが、猟犬が滑り落ち、犬の下半身が水に浸かってしまう。
・渡河後、地図上の山道らしきルートの足場補強をしている石垣を確認し上り進めていくが舗装された林道から山道へ入って50mも行かないうちに道が判別不能になった。
・さらに50mほど進む過程で猟犬が複数回数メートル滑り落ちるが、何とか坂につかまって耐える。
・A本人も両手両足で岩や木を掴んでかろうじて進むが、もはや全く山道でもなく急斜面と岩場が続く。
・ここまでの過程で多少坂を上ったが、ネット回線もBとCに対する無線も全く入らなかった。
・滑落その他ケガや道迷い時に救助不可能になることが判明した。
・3か所程度のやや新しい木材で組んだ足場だけの橋もあったが、対岸の地形から上り下りすると日程及び安全を守れないと気付いたため、林道まで引き返した。★6
[ルートX・Z合流地点到着後]
・12時過ぎには合流予定地点である林道に到達。狩猟事故注意の看板が立っている。
・合流地点から100m程度前後に動けば山頂及び降りるルートからは電波の見通しが利くため通信を試みる。
・インターネットと電話は通じない。
・地図から読み取った情報よりも舗装された林道が山頂方向に長く続いており、狩場の下見という本来の目的と通信状況の改善を狙って30分程度進むことを決めた。
・往復計60分ほどの間にインターネットや電話は通じなかったが、3度ほど無線にノイズが入る。相手の発信内容は全く分からなかった。★7
[山頂合流予定時刻~待機]
・軽く周囲を見回って戻ると狩猟事故注意の看板が倒れていた。
・BとCが山頂で合流する見込みの13時になっても明確な形で通信は入らなかった。
・BとCの引き返しかを決断すべきタイミングだが連絡することは出来ない。
・Aが外界と誰かと連絡を取る手段:
手段1)おそらく山頂に出ればBとCいずれかに無線可能。もしかするとインターネットも使えるかもしれない。
手段2)車まで戻れば、運転も含めて必ず外部に連絡が可能。
※ただし、警察消防その他は登山口の駐車場まで1時間かけても着くか怪しい。結局徒歩になるのであれば体力のある状態で近くにいるAが合流地点から向かう方がマシ。
・Aに与えられた選択肢:
案1)車まで戻る。所要時間は1時間強。
案2)その場で一定の時間を決めて待機。
案3)無理矢理登頂。所要時間は1~2時間だが、その後合流地点に下り、更に来た道も折り返すことになる。
せっかくなので次のお話に進む前に、ご自分もこの状況に遭遇したらどうするか、またはこの状況を防ぐためにどうするか、考えてみてください。
無線は通じない、電話も通じない。山頂まで登れば通じるかもしれないけど山頂も数時間かかるかも。
そして、すでに13時で日没は16時半ごろ。
なかなか意見の分かれる状況だと思います。