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30歳童貞聖騎士おじさんVSドスケベロリサキュバス  作者: 御園蟹太郎
第一章 ロリサキュバスと出会うまで
8/71

その巨人は意思を持つ

それから馬車で走ること二日ほど。前方に巨大な山脈が見えてきた。


「あれがドロイア山脈……」


「そのようだな。魔力が明らかに濃くなっている」



ヴォルカニクス達は人々を外見よりも魔力で判断したりもできるらしく、魔力の濃淡が目で見てわかるとの事だ。

「人間の顔はどれも同じに見える。魔力色で判断している」とも言っていた。俺も竜人族の区別が付かないので、

なんとなく言わんとする事はわかる。



「ふむ……ふもとにはあえてつけず、早めに下りて徒歩で向かうか」


「馬車の方が早くないか?」


「いや、じきにわかる」



とりあえず、上官の言う事は絶対らしいので、

荷物を背負って馬車を降りる。探索は全員が向かうわけではなく、一部は馬車に残って警戒をする。

食料なども残し、もし探索隊が合図として発火符を使用したら、そこに行って救出、撤退をするという運びだ。


今回はヴォルカニクスがおり、一応すごい強いらしい俺もいるので、本来なら撤退はなく、

基本的には余裕であるはずなのだが、念には念。これがヴォルカニクスが十傑たる所以なのだろうなと感じてしまう。




「……来るぞッ!剣を構えろ!」


「え!?」



まだふもとには到着していない。しかし眼前には狂犬の魔物……いや、あれはゾンビ!?

体中から臓物を撒き散らしながら走ってくる魔物は、流石に気分が悪くなる。


なるほど、馬車でここまで来ていたら、サラマンダーに噛み付かれていた恐れがあるって事か。

流石という他ないな。



「ひるむな来訪者ッ!あれは序の口だ!」



すばやく切り伏せ、何かを掴み取るヴォルカニクス。


「……それは?」


「これか?『魔核』と呼ばれるものだ」


「魔核」


「ああ、我々魔族の体を構成する中心部。これがある限り、何度でも体は再生できる。

逆にこれを奪われてしまうと、その瞬間に絶命するのだ」



へえー……つまり、魔族は腕とか切り落とされても、魔核が無事なら平気って事か。



「この様に、私の魔力で封をしてやる。するともうこの魔核は単なる魔力の塊だな」



そう言うと、魔結晶用の皮袋に魔核を放り込む。

そして袋を見つめ、にやりと笑う。


「……純度が高い。これは良い探索になりそうだな」




――――



ふもとに到着すると、既に傭兵?のような人々がおり、魔物と交戦していた。

詰め所で言っていたゾンビ・モンスターや狂犬(ウルフ種というらしい)の他、

草木が意思を持ってるような奴と、


……何あれ。…………影?影に目ついてる……?



「影モノか。なるべくやりあいたくないな」


「影モノ?」


「ああ。人間達だと……確か、ゴースト、と呼ぶのだったか?微精霊達が魔力を食って凶暴化したものだ。

強敵ではないが、特殊な呪術を使ってくる上、剣での攻撃がかわされやすいので好きではない」


「なるほど……」



すると、ゴーストから多数の影が伸び、交戦中の傭兵達に絡みつく。



「うわっ!?何だあれ!?」


「あれこそが影モノの呪術だ。ああなったらまずいな。人間に脱出は難しいだろう」



「……ッ!」


「来訪者?」



思わず走り出す。


わかっている。いちいち人を助けて回っていたら、いずれ自分が危険に晒される事。


今回の主目的からも外れる事。しかし――――



「だあああありゃあああっ!!!」



下手クソな剣の一撃は、確かにゴーストの中心部を捉えた。

確実な手ごたえ。捕らわれていた人間が開放される。



「イギュッ!!」



声とも音とも区別付かないような鳴き声を出し、拡散する。

足元に落ちた小さな石ころ……これが、魔核か。



「あっ……ありがとう……!助かった!」



息も絶え絶えの傭兵は、明らかに熟練のそれで、

鍛えられた肉体は鎧の上からでもわかった。

パーティは全体的にバランスが良さそうだったが、それでもなお苦戦していたようだ。



俺は各々が交戦中の魔物に向き直り、剣を構える。



「ずあっ!!!」



バズッ!という鈍い音がし、狂犬の横っ腹に剣の一撃が入る。

ヴォルカニクスのように一撃で切り伏せられはしないが、これで十分なダメージが入った様だ。



「誰だか知らんが助かる!」



そういうと前衛の剣士らしき人物が、狂犬の顔に剣をつきたてる。


ちなみに、この狂犬、ウルフとかマッドウルフとよばれる魔物は、俺達と同じくらい大きい。

最初に相対したときはチビりそうになってしまった。



見たところ前衛3後衛2、治癒が一人、遠距離攻撃と味方への防護魔法が一人、

前衛は剣士が二人、槍使いが一人という構成で、バランスがよく、各々一人一人のレベルが高い。

やはり魔結晶探索に来る程度なので、そうそうの使い手なのだろう。


しかしそんな彼らでさえ、無尽蔵に沸いてくる魔物達にはかなり苦労しているようで、

特に前衛の剣士は先ほどの呪いのせいか、かなり動きが鈍くなっていた。




「ピギギッ!!!」



完全に死角となっていた後ろから、ゴーストの呪術が俺に襲い掛かる。

しかし、加護のおかげでやすやす弾く事ができたため、拘束には至らなかった。

ただ、一瞬拘束されると思い、体を翻したそこを狙われたのか、狂犬が2体、人間型のゾンビが1体、踊り出てきた。


体のバランスを崩しかけていた所にこの猛追はまずい。防御を固めようとした瞬間、カチン、という金属音、

そして血しぶきが俺の眼前で舞った。



「あまりゆっくりしている時間はない。行くぞ」



ヴォルカニクスだ。あの一瞬で3体を切り捨てたらしい。

やはりこいつは、格が違う。



「竜人族……!!」


「新手か!」



パーティの警戒がよりいっそう強くなる。

満身創痍の彼らからすれば、ここでの竜人族たちとの交戦は絶対絶命。緊張感が走ったが――――



「落ち着いてください!彼らはちょっと今、魔結晶探しに着てまして、

ここが産地だと聞いたのではるばる遠くから着てるんですよ……!!」



傭兵達と竜人族の間に割って話す。すると――――



「ああ、そうなんですか。人間と一緒に行動するなんて珍しいですね……」


「お互い頑張りましょう。先ほどは助けて頂いてありがとうございます」



緊張の糸は一気に緩んだ。

ヴォルカニクス達もここで時間をつぶす必要はないし、傭兵達も正直戦いたくはない。

その上、先ほど俺に命を救ってもらった所なので、すぐに信用してくれた。



その瞬間、ヴォルカニクスはハッとした表情で俺を見て、俺もまた、何か不思議な感覚を覚えた。



もしかして、今、俺……「戦争の火種を消した」のではないだろうか?

いや、まさかこんな小さな事で?


ただ、今俺がいなければ、ここでの一触即発は避けられず、

おそらくヴォルカニクス達が人間を殲滅して終わっていたのではないだろうか。


想像は想像、実際どうなっていたかはわからないが、何となく気分が良くなった。



ヴォルカニクス達の参戦から、一瞬で魔物の殲滅に終了したため、

俺達は先に来ていた傭兵達からアドバイスをもらっていた。



「ここから真っ直ぐ進めば、徐々に中心部に近づいていくんだけど……気をつけたほうがいい。

このふもとでこれだけの魔物量だ、中心部はおそらくもっと多く、もっと強い奴らがいる」


「先ほど助けていただいたお礼に……どうぞ」


「これは?」



コンパスだ。一つの方向。今は中心部の方面を指している。



「まあ、中心部に行けばいいだけなので不要なのかもしれないんですけど……これは、

強い魔力を指し示す方位針です」



なるほど。この方向に突き進めば、魔力が湧き出ている源まで行けるわけか。



「ありがとうございます」


「我々は魔結晶も多少、回収できたので一度撤退します。ご武運を」



そう言うと傭兵達は町の方へと引き返していった。なんでも、一日に数度、馬車による定期便がでているらしい。

納得の商売だ。本当に効率化されてるなあの町。



「ここはまだ入り口近辺のはずだがな……」



先ほど切り伏せた魔物達の魔核を回収しつつ、ヴォルカニクスが呟く。



「ギギッ、こいつは聞いてたよりヤベェ山ですなあ!ボス!」



いつも能天気なはずのガルズも、今回ばかりは顔が引き締まっている様に見えた。

そこまで危険なのか、ここは。



「『天災』に出遭わなければいいが……」



ぼそり、と呟くその姿は、まるで普通の人間の様で。

百戦錬磨の豪傑とは思えぬ振る舞いだった。




―――――



「ボス!こっちにも大きいのがありましたよ!!」



大はしゃぎで結晶塊を持ってくるガルズ。竜人族のこぶし大程のそれは、なかなか美しい形をしており、

何より、放つ魔力が強すぎて、俺にもやんわり光が見えるレベルだった。



「でかしたぞガルズ」



順調に魔結晶の回収は続いていた。

これだけ有名な結晶の産地ともなれば、狩りつくされているような気もしたが、それは杞憂だった。


ちなみに、ここの魔結晶尽きないのは、もちろん山から湧き出てくる魔力の源がある事も一つだが、

魔力の塊である人間がここに来て死ぬことで、魔結晶の種みたいなものができるらしい。

かなり複雑な気分ではあるが……まあ理解はできる。



「じゃあ次の探索地へ……」



そう言ってコンパスを取り出すと、一つの方向へしっかりと針が向いていた。



「こっちだな、足元に気をつけて……」



探索を継続しようとした時、コンパスが大きく揺れる。



「ん?」



バチィン!という大きな音と共に、「コンパスの針がはじけ飛ぶ」




「…………は?」



「構えろ、来訪者」



明らかに嫌な予感がする。


しかし、周囲に魔物はいない。


剣を手に取り構える……。




「来訪者ッ!!!!『壁を殴れ!!!』」




「は!? う……オラッ!!!」



ボゴン!と大きな音がして「壁に穴があく」

そして俺の手は痛くない―――――



「痛くない、つまり……!」



「そうだッ!!全隊戦闘陣形!敵は真横の……『壁』だ!!」





さっきまで壁と思っていたものが動きだす―――――



そう、俺はこのモンスターを知っている。



ゲームではあまりにありふれていて、ザコ敵としても扱われる「石の巨人」




ゴーレムだ。





「GWAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAANN!!!!!」





地響き―――― ゴーレムのそれは、明らかに俺達に向けられた敵意。



そして、あまりの強大さに、俺は立ちつくすことしかできなかった。

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