↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
9/14

2-3

――レヴァンス山道、アーゴン森林――


 昼食をとり終えた一行は再び馬車に乗り、深い緑が広がるアーゴン森林に入る。


 馬車の隙間から見えるのは鬱蒼とした木々ばかりだった。


 馬車の中はマッシュに変わりマリーが乗っている。


 ノアのおかげで空気が柔らかく、年が近いのか話が弾んでいる。


「マリーさんとレイナさん、お料理上手でした……師匠の野営って大体は保存食か、獲ってきたお肉やお魚をそのまま焼くだけなので、特に工夫にしないんですよ」


「ノア、余計な事は言わなくていいよ?」


 自分の弟子の何たる失礼な事か。


 話を聞いていたマリーは噴き出して、レイナも顔に手を当てて身体を小さく震わせる。


「ふふ、仲がよろしいのですね……私が料理が得意なだけですし、本来はそんな感じだと思いますよ?」


 レイナの言ってる事は、概ね正しい。

 野営でまともに調理している冒険者など中々いない。


 自分の家すら持たない者も多い連中だ。

 冒険者に、まともな生活能力は期待できないと言い聞かせる。


「宿屋の厨房を借りたり出来れば、もっといいのが出来ます」


「もっとすごいの!? 食べてみたいですぅ……」


 期待に満ちた表情のノアが満面の笑顔で頬を抑え蕩ける。

 それを見てレイナもマリーも顔を緩めて、暖かい時間が過ぎる。


 しかし突如として、外から女の叫び声が聞こえてくる。


「…て!ジャ……賊団が、ち……て!」


 甲高い叫び声は馬車内からは聞こえづらく、冒険者達は馬車を降りる。


「落ち着てください。本当なら、私たちが匿いますから」


 アルトとマッシュが既に降り、女性の身柄を案じていた。


 女性はボロボロの麻の服を着用しており、素足で立っていた。

 いくつかの殴り跡や切り傷など、乱暴にされた形跡がある。

 髪まで伸びた赤い髪は乱れ、身体は震えていた。


「あ、シオンさん……この人、ジャックス盗賊団にやられたらしいんすよ……マリー、回復頼めるか?」


「はい、ただいま向かいますぅ!」


 マリーが女性に駆け寄り、女性を馬車を背もたれにして回復魔法の準備を始める。


 アルトやマッシュは警戒を強めレイナも魔力探知の魔術を広げる。



 そんな中、シオンは妙な違和感を感じた。


 被害を受けたはずの女性は、ジャックス盗賊団にやられたと言う割には妙に元気そうだ。


 肩で息をしているのも演技臭く、緊張から安堵にかけてくる逃げ切れた感が無い。


 むしろシオンが女性から感じたのは――獲物を捕らえた狩人と言った感じだった。


 シオンは女性が動きそうなのを見極め、回復魔術に集中していたマリーを掴んで、怪しい女から引き離す。


「へっ?きゃぁ!?」


 予感は的中した。


 女性は太腿から隠しナイフを取り出して、マリーを切り裂こうとした。

 ナイフは寸での所で空を切り、マリーに当たる事は無かった。


「ほらね、やっぱり……よくやる手口だよ、ジャックス盗賊団……!」


 女性はしくじった表情の後、苛立ちを隠せない舌打ちをする。

 それを合図に茂みや木の上、来た道から次々と黒いバンダナを巻き武器を持った無法者が飛び出してくる。


 恐らく、レイナの魔術探知を発動する前から待ち伏せていたのだろう。


「な、なんだこいつら!?」


「か、囲まれました……!」


「ひ、ひぃぃぃ……!」


 馬車を追い詰める様に、盗賊団に囲まる。


 こちらと同じ様にマッシュ達も囲まれ、武器を突き付けられていた。


 シオンはすぐさま見渡し、人数を確認する。


 盗賊団の数は囮の女を合わせて、目に入るだけで十八人はいる。

 恐らく射手がまだ隠れていると考えれば、二十人は超える数いるだろう。


 シオンにとってこれは予想外だった。


 この程度の馬車強盗に対し二十人近く動員する事など、本来なら異常だった。


 いくら大陸最大規模の盗賊団とは言え、貴族の屋敷を襲撃する作戦の類と同じ人員を割くのは奇妙だった。


 目の前で囲まれている若い冒険者達の身を案じ、こちらはこちらで商人達を守る事にする。


「おいテメェ!さっきはそのガキ殺せそうだったのに余計な真似してくれたなぁ?お前も死んどくかぁ?おぉん!?」


 囮役の女が睨みを利かせてシオンを恫喝する。

 先ほどの弱々しさが嘘の様に、目を見開き青筋を立てている。


 マリーを回復役と見極め、真っ先に手をかけようとする。

 優秀な判断能力と演技や化粧で相手を欺こうとし、策を自ら前に出て実行するあたり、この女は下っ端では無さそうだ。


「えっと、ごめん? いや、それも違うけど……あんたがこいつらをまとめてる人? 出来たら見逃して欲しいんだけど、駄目?」


 無駄な交渉と分かっていながら盗賊団に諦める様に促す。

 囲んでいた盗賊団はこいつマジか?と言わんばかりの困惑した表情を見せる。


 一方で怒りに満ちた女は違った。

 さらに怒りに満ちた表情を浮かべ顔を紅くした後、沸点の限界を迎えたのか、力みが無くなり真顔に戻る。


「……そうかそうか、死にたいらしいな?腑抜けた事言いやがって……このマーニ様が根性入れてやるよ……覚悟しな!」


 言い放つや否や、マーニと言った女は持っていた短剣を突き付けてきた。


 商人を落ち着かせようと、余裕を取った態度はマーニの琴線に触れたらしい。

 逆に商人や御者を怖がらせる結果となった。


 本当に余計な事をするべきではない。

 昨日の件と言い、自分も成長しないなと思わず内心で呆れる。


「おいお前らぁ! 皆とっ捕まえな! 特に女は売れば金になるからね!」


 下種な号令を聞き、団員たちはやる気に満ち溢れる。


「クソ共が……! お前らが、俺の村を……!」


 マッシュが冷静さを欠き、携えてた剣を構える。


「村だぁ? 何言ってんだこいつ?」


「とぼけるな! 一昨年、お前らが焼き払ったアンバル村の事だ!」


 マッシュの咆哮に近い訴えが響き渡る。


 周りの団員が何の話だと騒めく中、マーニが思い出したように笑う。


「くは、くくく……ふは、ははははは! あの村か! 知ってるぜ、虫の所だろ? 無駄に貯えがよかったからな。虫と一緒に焼き払っちまったぜ!」


 マーニはマッシュを煽る様に挑発する。

 どうやらマーニは実行犯の一員らしい。


 それを真正面からうけたマッシュは激昂する。

 剣を握る力はより一層強くなり、歯を強く食いしばる。


「この……クソ野郎どもがぁ!」


 マッシュの不意打ち気味の斬撃を皮切りに、盗賊団との乱戦が始まる。


 マッシュとアルトで盗賊団を捌き、レイナの雷魔術の音が森に響く。


「たく、威勢がいいな、冒険者とか言うのは……まかいいさ、頭に血が昇っちまったが、このカス野郎以外は金目の物を置いてったら許してやるよ。お前は絶対に殺す」


 理不尽なマーニの殺意を直線に向けられる。

 マーニがナイフを突き付けると、周りの団員も続く様に構える。


 馬車を逃がしてあげれるような隙間は一切無く、どうやっても見逃してもらえないらしい。


「うーん参ったね……」


「何が参っただよ、取り敢えず死にな!」


 マーニによる鋭い踏み込みがシオンを襲う。

 見切って躱すも、マーニのナイフ捌きはシオンの身軽さを持ってしてギリギリだった。


「うぉ、相当やるね」


「ちっ、すばっしこいクソだな……!」


 マーニが悪態をつくきながら、ナイフを遊ばせる。

 

 応戦しようにも、手を出した瞬間に商人達を人質に取られるだろう。


 最善はマッシュ達が助けに来てくれるのを待つ事だ。

 護衛である彼らがこちらに来れば、盗賊達も無視は出来ない。


 微かな希望を込め、マッシュ達の方を見る。


「くっそ、アルト……大丈夫か……!」


「はぁ、はぁ、悪い、やられた……」


「ふ、二人とも……申し訳ございません……魔力が……」


 マッシュ達の方では盗賊が八人程倒れていた。

 囲まれた状況でよくやっている。


 だがそれ以上にマッシュ達が辛い状況になっていた。


 マッシュは腕に矢が突き刺さり、武器である剣を上手く動かせないでいる。

 レイナも魔力が切れかけ、足に矢を受けてしまいその場に倒れ込んでいた。


 やはり予想外なこの人数と、視覚外の射手に手を焼いている様だ。


 一番問題なのはアルトだった。

 わき腹から血が滲み出し、肩に矢を受けている。

 槍の石突を地面に刺し、それを支えにしていないと立って入れない程だった。

 

 何より、そんな重傷でも二人を守ろうと前に立っている。 

 盗賊がその気になれば、いつでもアルトを殺せるだろう。

 

「あぁ、どうしたもんか……」


 動けない状態、商人達を庇いながら悩む。


 そんな中、後ろから服を引かれる。

 振返ると、師匠を期待の眼差しで見る、可愛い弟子の姿があった。


「師匠、私が商人さん達を守るので、師匠はあの人たちをやっつけてください!」


 愛弟子から思わぬ提案が飛び出す。

 思わずそれに対し、いたずらっぽい笑顔を返してしまう。


「……出来るの?」


「お任せあれ!」


 ノアが胸を張り、謎の自信に満ち溢れた返事をする。


 少し迷ったが、人数が人数。

 ここまで囲まれ、無事で帰してもらえるとは思ってない。


 迷いは遅れを生み惨事に繋がる。

 冒険者の鉄則だ。


 皆を守る為仕方ないかと腹を括り、ノアに笑顔で返す。


「まったく……分かったよ、任せたよノア」


「はい!」


 愛弟子の笑顔を後ろに、決断が付いた足を前に出す。



――イメージするは……




―――続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。