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――アクロン宿場町――
夕日が沈みかけた頃、ドレウス山岳の麓にあるアクロン宿場町に到着する。
アクロン宿場町は、ウラノエス大陸の北と南を登山せずに渡れるレヴァンス山道の入り口である。
レヴァンス山道自体が早くても丸一日、悪天候や魔物の影響が出れば長くて三日もかかる。
その為この場所にあるアクロン宿場町は多くの人が利用している。
アクロン宿場町には何軒もの宿屋が並んでいる。
宿場町は、冒険者や商人も多く利用する。
宿屋や飲食店のまえでは、客引きの為にセールスポイントを大々的にアピールしている。
声を大々的に張っているため、とにかく活気に満ち溢れていた。
御者に用意してもらった宿に入り、受付を済ませ部屋に向かう
部屋に入ると荷物を置き、流れる様に少しかび臭いベッドに腰掛ける。
安物のマットとはいえ、馬車で揺られた身体にとっては癒しだった。
部屋に入るなりノアは儀式であるベッドダイブをする。元気だね。
「師匠、お腹が空きましたぁ……早くご飯食べに行きましょうよ!」
ノアが足をバタつかせ、夕食をせがむ。
「はいはい、行こうか」
我慢の限界そうなノアと二人、宿を出て料理店を探す。
しばらく歩くと、やたら人の多い大きな店を見つける。
看板にはギッドと看板が掲げられており、店内はかなり賑わっていた。
店から立ち込める肉や魚の脂の焼ける匂いが、二人の腹の音を鳴らした。
「師匠、ここにしましょう!」
「そうだね」
匂いに誘われシオン達は料理屋ギッドに入る。
店内は外からの賑わい通り繁盛しており、忙しそうに店員達が料理を運んでいる。
料理の香ばしい匂いは、より一層食欲をそそられ、味には期待できそうだった。
扉の前で立っていると、女性の店員が近付いて来て、厨房近くの席に案内される。
席に着くなり壁に掛けられたメニューを見る。
クリームスープに、ポークソテーにチキングリル、様々なパンと、店の大きさに似合うラインナップが揃っていた。
「へぇ、流石だね。どれにしようかなぁ……うん?」
美味しそうなメニューの中、ポテトボールと書かれた不思議なメニューを見つける。
「ポテトボール……? なんだあれ……?」
「ねぇ師匠、私、あれ気になります!頼んでみましょうよ!」
「えぇ頼むの? まぁいいよ。すいませーん、注文お願いします」
忙しそうに動いていた店員を捕まえ、注文を頼む。
「すいません、クリームスープとポークソテーを二つずつ。あとポテトボールを一つお願いします」
店員が注文を受けると厨房に消えていく。
厨房から香ばしい油の匂いが漂い始め、油が弾ける音に期待で胸が膨らむ。
しばらく時間が経つと料理が運ばれてくる。
「お待たせしましたぁ!こちらシチューにポークソテーです!」
テーブルに上品な湯気が上っている料理が届く。
クリームスープは大き目の具材がゴロゴロとしており、クリームの匂いもふんわりと香ってくる。
ポークソテーも、綺麗な焼き目をした豚肉の上には、みじん切りの玉ねぎが入ったソースがかかっていた。
二つとも食欲をそそられる中、ノアの方にはもう一つ、追加の皿が来る。
皿に乗っていたのは、こんがりと綺麗に油で揚がった、拳二つ分ほどの球体だった。
「お待たせしました!こちら、ポテトボールです!ごゆっくりどうぞ!」
「凄いね……まじでボールじゃん……」
あまりの存在感に少し狼狽えてしまう。
「なんか、凄い良い匂いがします……いただきます!」
ノアがフォークを手に取りポテトボールを割る。
ポテトボールは綺麗な音を立てて表面が割れ、ほくほくの中身が顔を覗かせる。
「わぁ、すごぉい……! では、あむ……!」
ノアがポテトボールを口に運ぶ。
サクサクと小気味良い音を立て、ノアは噛み締めたまま固まってしまう。
「……ノア?」
「……むふふぅ……おいひぃ……」
ノアから幸福に満ちた満面の笑みが出る。
相当気に入ったのか、次々と口に運んでいく。
気付けばノアはリスの様にポテトボールを口に詰めて、美味しそうに食べていた。
「そんなにいいの? 一口ちょうだいよ?」
「ふぁい、ほうほ!」
幸せな顔のまま、一口サイズに切ったポテトボールをシオンに近付ける。
「ん、あーん……」
ポテトボールを食すと、潰したジャガイモのホクホク感と、挽いた肉と玉ねぎの旨味が口の中に広がる。
サクサクの衣にはスパイスが混ぜられており、ジャガイモの素朴な味と調和してかなり美味しい。
奇怪な見た目とは裏腹に、かなりの幸福度を持った料理だった。
「本当だ、これ美味しいね」
「もいひいへふほね?」
「落ち着いて、よく噛んで食べな?」
出された料理を平らげ、ノアが食後のデザートに入る。
よく食べるなぁ、と感心していると、後ろの方で護衛の冒険者達の姿を見つけた。
冒険者達は狼狽えている様子で、御者と憲兵と話していた。
シオンは気になり、デザートに夢中になっているノアを置いて冒険者達に近寄る。
「そ、それってマジっすか……?」
「本当だ……最近は特に被害が酷くてな……」
四人と話していた初老の憲兵が困った声を出すと、御者は頭を抱えていた。
冒険者達達も浮かない顔をしていた。
「どうかしたの?」
「あぁ、シオンさん……その……明日から入る山道なんですけど……最近盗賊団がうろついてるらしくて……」
あまり良くない知らせだった。
盗賊団の情報は、キャメロディア帝国でも有名で、シオンもに心当たりがある。
「ジャックス盗賊団の事?」
憲兵が深く頷く。
ジャックス盗賊団とは近年ウラノエス大陸で悪事の限りを尽くしている指名手配組織で、金目の物なら冒険者や商人、果ては一般人からも奪い取る。
さらに人身売買や密輸を平然と行い、悪徳貴族と繋がっている、などと言った良くない噂を山ほど聞く。
団員の実力はピンキリなのだが、高い統率力を持っている。
追加で、被害を抑える為捕まった団員はすぐに見捨てる、厄介な程容赦無い損切の早さを見せる。
これらの要因から、今ではどの国でも頭を抱える悩みの種になっている。
「そうかぁ……なら、もし出てきたら君達の出番だね。期待してるよ」
若い冒険者四人を励ます様に言いマッシュの肩を叩く。
無謀に戦わせたい訳では無く、シオンには考えがあった。
山道で常に見張りをして、通行人を待ち伏せる。
これは下っ端の仕事であり、実力は大したことが無い。
Dランクの冒険者でも苦戦は免れないだろうが、負けることは無いだろうと思ったからだ。
そんなシオンの軽い期待とは裏腹に、四人は各々、不安そうな表情で佇んでいた。
冷静に考えれば、Dランクである彼らにとって、これは初の護衛任務。
Aランクである先輩からの圧と捉えてもおかしくはない。
特にマッシュは、何かを堪える様に拳を強く握りしめる。
「そ、そっすよね……俺、頑張るっす!」
馬車ではあれだけ明るいマッシュの声が震えていた。
昼間にはあれだけちゃんと考えて喋る様反省したはずなのに、今日は本当に余計な事ばかり言うなと心底後悔する。
「あぁ、ごめん……余計な事言って……」
「い、いえ、そんな事無いっすよ! で、でも、俺頑張ります! 無理はしないんで!ぜひ見守っててくださいっす!」
震えそうな声を抑え、マッシュが普段の明るさに戻る。
若い冒険者達や御者も、不安は残っているものの、ひとまず安心したらしくその日は解散となった。
宿屋で夜を明かす。
麓の宿場町は日が昇っても空気が冷たい。
それでも不快感は一切無く、心地いい良い朝を迎えた。
そんな心地良さでも、朝に弱い体質は変わらない。
眠気でぼやけた視界のままノアに起こしてもらい、朝食を軽く摂った後、すぐに馬車へ向かう。
馬車周辺では御者が馬の様子を見ており、冒険者達は馬車に食材や水などを載せていく。
御者がこちらに気付き挨拶を交わす。
「おう、おはようさん。山道は一日かかるし道もあまり良くない。若くても腰をやらない様にな」
「はい……了解でぇす……」
「師匠、段差ありますからね!」
眠気に耐えながらノアの元気な声に導かれ、馬車内へと乗り込む。
準備をしていた槍使いとヒーラーは、前日同席していなかったのもあり、本当にAランクなのか?
と懐疑的な態度をマッシュに示していた。
マッシュも愛想笑いで濁して準備に戻っていく。
三十分ほど時間が経ち、御者が掛け声を上げる。
「それでは準備が出来ました!今からレヴァンス山道に入ります!揺れが酷い所があるためご注意ください!それでは出発致します!」
大声にも反応する事無く、再びノアを抱き枕にし、眠りにつく。
同席するマッシュとレイナは、呆れつつも山道に入るにあたって覚悟の準備をする。
揺れる馬車は静かな混沌を予測させ、レヴァンス山道を進んで行った。
――続く




