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――キャメディア帝国ミレット領、ワンダーライム――
「師匠、師匠!朝ですよ朝!起きてくださーい!」
朝日と共に元気な声が頭に響き、無邪気な強さで身体を揺すられる。
酒が抜け切ってない気怠い体を起こして、思い瞼を擦る。
「ん……おはよ……」
「おはようございます!師匠は朝が弱いので、朝ごはんは何処かで買ってから馬車に向かいましょうか?」
師匠を思った優しい提案に眠気を堪えながら無言で頷く。
すでに身支度を済ませていたノアに引かれながら、宿屋の洗い場を借り、顔を洗い身支度をする。
弟子に顔を拭いてもらった辺りから、これってお年寄りの介護だよなぁと内心思いつつ、促される様に進めていき宿を後にする。
眠たい気持ちを必死に抑え、馬車との待ち合わせ場所に着く。
朝食がまだと言う事もあり、ノアにソーセージサンドを買いに行かせる。
待合場所には二台の馬車が準備されていた。
他の乗客は既に乗り込んで待機しており、御者達は馬達の様子を見ている。
馬車はそれぞれ布で覆われたタイプになっていた。
荷物があっても六人程乗れそうな大きさがある。
シオン達が近付くと、顎髭を生やした御者がこちらに気付いて話しかけてくる。
「よぉ、あんたらがデイビスさんの言ってた客かい?一応証明がてらに冒険者カード見せてくれるかい?」
「はぁい、どうぞぉ……」
ポーチから冒険者カードを取り出して御者に渡す。
受け取った御者が、手元の羊皮紙と見比べ確認する。
「冒険者、シオン・グレイシスさん……だね?そっちの子は?」
「付添いの弟子です。大丈夫ですか?」
ノアがニコニコの笑顔で大人しくシオンに擦り寄る。
御者はノアの冒険者カードも確認する
納得し冒険者カードをシオンとノアに返す。
「いいよ、乗りなさい」
「ありがとうございます」
御者から冒険者カードを受け取り、馬車に乗り込む。
馬車内は野営道具が席の半分を占めていた。
テントやランプは必需品の為、あればあるだけ嬉しかった。
荷物の手前には、男女の若い冒険者二人が座っていた。
冒険者達は恐らく護衛として雇われているのだろうが、何処か緊張している様だった。
「へぇ、護衛依頼かい?精が出るね」
「はい!よろしく、お願いします!」
剣士装備の若い男冒険者が、勢いよく立ち上がり挨拶をする。
遅れて魔術師の女の子も、慌てて立ち上がり頭を下げる。
どちらも新米冒険者の様だ。
茶色の短髪をした男の子は、剣も防具も見るからに安物で、多少頼りなさを感じる。
大人しく真面目そうな雰囲気をした、金髪眼鏡の女の子も同様だった。
安物のローブを羽織り、削りの荒い杖を持っていた。
身なりからDランク相当と予想できた。
さらに、緊張の度合いから初めての護衛依頼なのが容易に想像できる。
普通なら頼り無い二人が護衛となっては、不満や不服をぶつけるだろう
しかしシオンは違った。
逆に若い冒険者に対してどれ程のものか、期待を膨らませていた。
「よぉし、全員乗ったので出発しますねぇ! これから二日と半日程のデュランド行きです! よろしくお願いいたしますぅ!」
御者の掛け声と共に馬が嘶き、馬車が動き出す。
横ではノアが二日も?と驚いた顔をしていた。
敢えて無視を決め込み、ソーセージサンドを貰って食べることにした。
揺れる馬車の中、壮大なドレウス山岳が見えてくる。
馬車は山岳を並走する形で、休憩地点であるアクロン宿場町を目指し進んでいた。
馬車内は思いの外、和やかだった。
ノアが買ってきてくれたソーセージサンドを食べながら、シオンは若い冒険者達とまったりした雑談をする。
「君達、冒険者?名前は?」
「俺はマッシュです!剣士してます!」
「私はレイナです。氷魔術師です」
やはり二人は、少し緊張していた。
マッシュは拳を膝の上で強く握りしめ、レイナは杖を抱きしめる様に強く握っていた。
「マッシュ君に、レイナちゃんね。ランクは?」
シオンからその姿だけで不安に駆られ、ランクを聞く。
二人に緊張感が走る。
「えっと、俺らDランクっす……やっぱ、不満っすかね?」
マッシュが申し訳なさそうにランクを言う。
レイナも気まずそうに俯く。
恐らくどちらも不満を言われると思っているのだろう。
「そんな事無いよ。同じパーティーでやってるの?」
気まずさを振り払うように話題を変える。
「は、はいっす!とは言っても、組んだのは最近っすけどね。
向こうの馬車には即席パーティーのヒーラーと槍使いが乗ってます。
俺達と同じ新人すけど、頼りになるんすよ!」
マッシュ達の期待が、微かに不安側へと傾く。
新人冒険者だけパーティーというのは、言うほど珍しくはない。
しかし、護衛任務となれば話が変わる。
新米冒険者だけだと、実力不足と連携不足から、魔物や盗賊による護衛失敗になるケースもある。
ゆえに、Dランク以下の冒険者による護衛任務は、最低一人はCランク以上の冒険者が付いた方がいいとされている。
「そうかぁ……向こうの馬車は、確か商人が荷運びしてるらしいけど……大丈夫かい?」
意地悪な質問に対して、若い二人は苦い顔にする。
二人は顔を強張らせ、不安の表情を浮かべる。
「う、うっす、大丈夫っす! こう見えても俺、ゴブリン退治にも参加した事あるんで!」
重荷を跳ね返すかの様な、溌溂とした声でマッシュが答える。
参加したなら活躍のほどはあったのか、と問い詰めたかった。
しかし、それで自信を無くし護衛任務に支障が出るのは嫌だろうと思い、胸の内に秘める事にした。
「へぇ頼もしいや。なら護衛は君達に全部任せるよ」
「はい、任せてくださいっす!そういや貴方は……」
「僕はシオン。こっちはノアで、お互い冒険者してるよ」
「えぇ、そうなんですか!?ノアさん、は武器を持ってたので分かったっすけど……し、失礼っすけど、ランクは……?」
正直に言うか迷った。
Aランクであるシオンに頼ってしまえば、彼らの為にならないと考えたからだ。
食べ終わったソーセージサンドの入っていた紙の袋を潰しながら考える。
かと言って、誤魔化す理由も無いかと思い、正直に話す事にする。
「最近Aランクになったよ。こっちはCランクだね」
ソーセージサンドをゆっくりとリスの様に食べる愛弟子の頭を撫でる。
当の本人は照れる事なく、我関せずと言わんばかりに咀嚼を繰り返している。
相当ソーセージサンドが気に入ってるらしい。
「え、Aランク!?マジっすか!?」
「Aランク……凄いです……そ、その、私達、至らない所が多いですが……」
マッシュもレイナも驚いた顔で見合わせ、若さから来る羨望で目を光らせる。
レイナに関しては緊張のあまり、声が上ずり拳が白くなる程杖を握りしめる力が強くなる。
だからこそ身分は隠した方がいいかと思ったが、言ってしまったものは仕方ないと割り切る。
シオンは緊張を和らげる様に二人を宥める。
「いいよいいよ、そんなに緊張しないで。僕は余程ヤバくない限り出しゃばらないし、余計な事は言わないから」
若い冒険者二人は各々の反応を示す。
マッシュは少し落ち着いたものの、Aランクが目の前にいると興奮が治まらないようで質問攻めをしてきた。
一方でレイナは、恐らくシオンの励ましをAランクからの圧と受け取ってしまったのか、更に萎縮して辛そうな顔をしていた。
次からは口を開く際には、もっと気を付けておこうと心に決めた。
――続く




