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――キャメディア帝国ミレット領、ワンダーライム――
小気味良い木製ジョッキのぶつかる音と共に、小さな宴が始まる。
軽く飲み物を煽ると、二人はステーキへと手を伸ばす。
ナイフで切る度に、ジュワっとあふれる肉汁は宝石にも引けを取らない輝きを放っていた。
「わぁ……!いただきまーす!あむっ……………」
「うーん、美味いね。良かったろ、ノア?……ノア?」
ノアがフォークを口にしたまま固まる。
どうやら肉の旨味に囚われて、思考が止まってしまった様だ。
「お、おいひぃ……!ふぉんな、ふぉいひいおにふ、はひめへはめまひた!」
ノアがリスの様に、頬一杯に肉を詰め込んでいる。
ペースが落ちることなくナイフで切ってはフォークで口に運び、満面の笑みでステーキを食していく。
ここまで嬉しそうに食べてくれると奮発した甲斐もあり、緩んだ顔で弟子の食事を見てしまう。
「お野菜も食べなよー?」
弟子を見ながらシオンも一口。
どう考えても、普段の肉とは格の違う脂の旨味に身体が歓喜の身震いをする。
そこに苦いながらもすっきりとした、金色の発酵酒を含み入れる。
肉と酒、二つが交わる満足感は回復魔法ですら味わえない至福の時だった。
「はぁぁぁ……うっま……生きててよかったぁ……」
可愛い愛弟子の食事を見ながら、肉を食べ酒を飲む。
この時ほど、シオンが人の生と言うものに感謝したことは無いだろう。
食事が進むにつれて明日の不安が吹き飛んで行き、シオンの酒が三杯目に突入する。
「ノア、おかわりいるぅ?いるならたのんでいいよぉ?」
酔いの回った高揚感と愛弟子と、食べる高級肉の幸福感で、呂律はまだ回るが微かに怪しいと自分で思いながらも、ノアに追加を進める。
「ありがとうございます!でもお肉が結構な量だったのでデザートが欲しいです!」
キラキラしている目線を受けて嬉しくなり、追加の注文を頼むため店員を呼ぶ。
「そっかぁ!すいませーん!ついかのちゅうもんいいですかぁ?」
多少迷惑そうな表情を押し殺した笑顔の店員が、注文を取るために来る。
「はい!えぇっと、そしたら……」
期待に満ちた顔で、ノアがメニューを見て店員に注文していく。
酔った高揚感でノアに注文を任せ、満足行くまで注文させる。
しばらくすると注文した品が届き、ノアは至福のデザートタイムに入る。
「お、お待たせしました!チーズケーキとフルーツシロップゼリー、アップルパイになります!」
「いやぁ、けっこうたのんだね……いやほんとうにたのんだねぇ?」
テーブルに次々と酒場のデザートが乗せられていく。
空いている食器を片付ける店員の顔が引きつってた気がしたが、気にしない事にした。
一方、頼んだ本人であるノアは気にする事なくデザート軍に目を釘付けになっていた。
我慢など知らないと言わんばかりにフォークを手に取り、チーズケーキを口に含んで至福の時間を延長していた。
「んふふぅ……おいしぃ……」
可愛い愛弟子がにやけ面で次々にデザートを平らげていく。
師匠もどうかと言われたが、甘いものが得意ではないので全部食べていいと見守る。
「あ、ありがとうございました!お会計が、金貨が一の銀貨が十です」
会計にて、店員が二人の金額に驚く。
金貨一枚以上となると、Aランク冒険者の一回の仕事で得られる金額なため無理もない。
「はいさ、これと……これで足りる?」
言われた通りの貨幣を金額分取り出し、店員の前に置く。
それだけのはずなのに、店員は面食らった表情をして金額を確認する。
恐らく、冒険者としては軽装の身形が原因だろう。
そんな客がムッコラ牛を頼み、大量のデザートを頼んだため、食い逃げ犯だと思われマークされていたのだろう。
仕方ないとは言え、モヤモヤした感情が渦巻きながらも納得する。
「ちょ、丁度いただきました!ありがとうございましたー!」
最後まで疑われながら支払を終え、店を後にする。
外はすでに日が沈み切り、星と月が街に光を届けていた。
夜のひんやりとした空気が酔いを少しだけ覚まし、心地よい風に癒される。
夜中でも街の喧騒は止まらず、相変わらずだなと変な安心感を感じた。
シオン達はすぐ傍にの宿屋に入り、借りた部屋へと向かう。
部屋は木造りでカーペットが中心に敷いてある。
そこを対称になる様にベッドが二つ置いてあり、中央の窓からは綺麗な月が見える。
満腹と酒による酔い、明日の心配からくる心労が身体を勝手にベッドへと導く。
年甲斐も無く、勢いよくベッドに身体を沈ませた。
ノアも部屋に入るなりベッドに飛び込み、うつ伏せで跳ねた後、枕を抱きしめる。
「ふはぁ……師匠、ご馳走様でしたぁ……美味しかったですぅ」
「はいはい、どういたしまして。さて、明日は朝からだし、早めに寝るよ」
「はぁい。んしょっと……」
寝る支度と言いながらノアが起き上がり、身に付けていた衣類を脱ぎ始める。
すぐさまインナー姿になり、若い肢体が露わになる。
我が愛弟子ながら、人前でそこまで恥じらいも無く脱ぐのはいささかどうなのか、と思う師匠を尻目に、ノアがベッドに潜り込み大きな欠伸をする。
「んん~、お腹いっぱいで、もう……眠い……で、すぅ……」
そのままノアとの会話は可愛らしい寝息へと変わり、ブランケットを抱きしめる様に寝ていた。
ノアが寝た後、ベッドを椅子にして窓から月夜の空を見上げる。
ふと元恋人の事を考える。
デュランドで紅刃の大地が衰退したのはいいが、それならそうとアリシアはどうなのだろうか?
無事なのか、それとも死んだのか?
後者なら自分は冷静でいれるだろうか?
酔って回らない頭に、不安が次々と襲い掛かる。
考えても仕方ないと割り切り横になるも、寝付くまで多少時間がかかる夜だった。
――続く




