3-2
――ハルマット宿場町――
宿場町に着く頃には日は沈み、星々が空を覆い尽くしていた。
レイナとマリーは道中で捕まえた盗賊団の報告をしに屯所に、マッシュとアルトは負った怪我を医者に診て貰うため診療所にと、それぞれ別行動する事になった。
シオンとノアは、御者が用意してくれた宿に向かう。
木造りの部屋であまり広さが無いが、夜を過ごすには十分なベッドがあった。
部屋に着くなり、ノアがベッドに飛び乗る。
本人曰く、これが一番楽しいらしい。
「ノア、お行儀悪いよ」
「はい、ごめんなさい!」
ノアがベッドの上で、悪気も無く元気に謝罪する。
本当に謝る気があるのかどうかは怪しいが、可愛いので許すことにする。
持っていた荷物を部屋に置き、ベッドに座って一息つく。
何をしようかと考えていると、ハルマットの名所を思い出したため、提案してみる事にする。
「そうだ、ハルマットと言えばさ、火山の影響で出来た温泉が有名なんだよね。入りに行く?」
「本当ですか!? 行きます!」
元気な返事を聞き、温泉のある施設へと向かうため準備をする。
忘れ物をしやすいノアに荷物を確認させ、宿屋を後にする。
ハルマット宿場町の外は日が沈んでも尚、煩く感じる程の賑わいを見せていた。
ハルマット宿場町はアクロン宿場町と同じ様に酒場が多く、当然冒険者がよく利用している。
しかしアクロン宿場町との違い、サブウェル坑道が近い為、働く鉱夫や荷運び人も多い。
当然、鉱夫や荷運び人も、仕事終わりの一杯の為に利用しているため、行く先々で祭りの様な喧騒が響いている。
「なんか、楽しいですね!」
「そうだね。坑道が近いから、とにかく人が多いんだ、ここは。
あと、問題が起きても常駐してる憲兵や騎士団もいる。
犯罪が少ないから、皆も安心して楽しめるんだ」
ノアと温泉に向かう道すがら、明るい喧騒とは違う、厳格な佇まいをした集団がいた。
白銀の甲冑を纏い、国家の紋章を胸に付けたデュランド騎士団だった。
「先ほど冒険者から、アーゴンでジャックス盗賊団を捕まえた報告を受けた。二十人近いらしいから、運ぶための馬車を用意しろ」
号令と共に集団は準備に走る。
どうやらレイナ達の報告を受け、ジャックス盗賊団の検挙で動いているらしい。
シオンはその騎士団の中で、見知った顔を見つける。
騎士たちに指示を出しているの男だった。
「ん、あれは……」
緑色の髪を肩まで伸ばし、不健康そうな顔をした騎士がいた。
その昔、シオンとその相棒だったアリシア二人のライバル的存在である槍使いの冒険者、ルキウス・ローデンスだった。
「やっぱりルキウスだ! 久しぶりじゃん!」
「ん?お、おぉ!? お前、シオンか!? マジで久しぶりじゃないか!」
不健康そうな顔がこちらに気付き、嬉しさと驚愕が混ざった表情でこちらに近寄ってくる。
「いなくなってから何年だ? どうしてたんだよまったく……でも元気そうじゃないか」
「ルキウスこそ。てかその姿……」
「あぁ、二年前に騎士試験に受かったんだよ。すげぇだろ?」
ルキウスが胸に付けた紋章を自慢気に見せる。
当時はお互いDランク冒険者だったが、どうやらルキウスは騎士になった様だ。
「やるじゃん。部下もいっぱいいるし」
「全員が部下ってわけじゃねぇよ。取り仕切らせてはもらってるがな」
「そっか、いいじゃんいいじゃん」
懐かしい顔に出会ったせいか話が弾む。
昔は目に入るだけで口喧嘩をし、どちらが格上かの議論までしていたほどだ。
こうして見ると、お互い大人になった物だと感じる。
「お前はまだ冒険者やってるのか? それとも本格的に、錬金術師になったか?」
「冒険者だよ。こないだAランクになった」
ルキウスに向かって、金色の冒険者カードを見せつける。
「は? マジ!? うわ、マジじゃん……やるなぁ……」
ルキウスは冒険者カードを見て固まる。
当時を知る者なら、このリアクションも無理はない。
「で、そっちの子は? パーティーか?」
「あぁ、弟子だよ。ノアこっち」
気を使って大人しく待ってたノアを近寄らせる。
「はい! 師匠の弟子のノア・ピュールです!」
近寄るなりノアが元気な自己紹介をする。
よくできましたと頭を撫でてあげる。
「で、弟子ぃ? お前がか? へぇ、マジに成長したな……なんかいいな」
「なんかって何さ」
ルキウスが意表を突かれたような表情をする。
しかし、意外に思われるのも無理のない話だった。
昔のシオンの評価と言えば、アリシア以外の冒険者に興味の無い変人として扱われていた。
その為シオンが弟子をとっているなど、微塵も思っていなかっただろう。
ルキウスと話していると、後ろで動いていた騎士が近付いて来る。
どうやら準備を完了させたらしく、ルキウスに声を掛けてくる。
「あぁ、分かった。すぐ行く」
ルキウスが騎士達に手を挙げて、返事をし待機させる。
「またなシオン……あぁそうだ、ガイア達の事、聞いてるか?」
心臓が小さく跳ねた気がした。
デュランドで騎士をしていれば当然だが、どうやらルキウスはガイア達の事を何か知っているらしい。
「あんまり知らない……実は今、デュランドに仕事で向かってるんだ……紅刃の大地がCランクまで落ちたって聞いてね。半ば無理やり異動させられたよ」
「災難だな。で、それだけか?」
「それだけ?」
ルキウスが深刻な顔をし、一瞬の沈黙が二人を支配する。
「実はな……」
ルキウスが何かを言いかけ、口を開こうとした。
「ルキウス隊長、時間が差し迫っております!」
しかし、騎士団は待ってはくれないらしい。
そろそろ時間だと、待たせていた騎士が急かす。
「あ、あぁ、分かった……悪いなシオン、デュランドに行くんだろう?
すまんが、自分の目で確認しろ……またな、ちゃんと生きてろよ」
そう言い残して、ルキウスは騎士団と共に坑道へと向かっていく。
晴れない心に、不安が募っていく。
シオンはルキウスの含みのある言い方が、気になって仕方なかった。
紅刃の大地の現状を知りたかったが、どうやら自分の目で確かめる他無いようだ。
「……行こっか」
「はい!」
腑に落ちない感情を抱いたまま、ノアを連れて温泉に向かう。
――続く




