3-3
――ハルマット宿場町、セレナの湯――
ハルマット宿場町の名物の一つ、温泉施設であるセレナ温泉に着く。
入り口前から、中は客の話す声で賑わっているのが分かった。
ノアと一緒に、セレナの温泉の施設内に入る。
ロビーは木造の床に石畳の壁で出来できており、外でも分かる位に湯上りの客で賑わっていた。
辺りを見渡すと、休憩スペースでマッシュが座っている。
身体の至る所に包帯を巻いているが、マリーの回復魔術のおかげか、血色は良くしっかりとしていた。
それでもまだ傷が痛むのか、少し気怠そうな顔をしている。
「ふぅ……ん? あ、シオンさん、ノアさん! お疲れ様っす!」
マッシュがこちらに気付く。
まだ怪我が完治してないのに、相変わらず大きい声だなぁ、と若さに感心する。
「お疲れ様。マッシュ君は湯治かい?」
「はいっす! なんでも、ここの温泉は傷によく効くらしいので。効果自体はあんま実感してないっすけど」
マッシュが肩を回す。
湯に浸かるだけで傷が治るなら、回復魔術師やポーションなんていらないだろう。
「良い事だ。療養しなよ? あと半日以上はあるから」
「了解っす!俺は今から飯行くんで、失礼しますっす!」
礼儀良く元気な声で出口に歩き出す。
ジャックス盗賊団との戦いで死ななくて何よりだと安堵する。
「元気そうでしたね」
「そうだね。僕たちも早く入ろっか」
ノアと共に大衆向けの温泉に続く更衣室に入る。
ロビーの利用する客も少ないのか、更衣室にはよぼよぼと椅子に座って涼む老婆二人以外にはいなかった。
更衣室は中々広かった。
身を整える為の鏡が三つと休むための丸椅子が置いてあり、衣類や貴重品を入れる木製の小さい保管庫が並んでいた。
保管庫には錫製の鍵に、ゴム製のバンドが付けられておいた。
温泉でも無くさない様にと、親切な工夫がされている。
開いている保管庫を見つけてノアとそれぞれ一つずつに荷物や脱いだ衣類を入れていく。
そんな中、シオンは未だにルキウスの言葉が頭に残っていた。
一体ガイアに、アリシアに、紅刃の大地に何が起こったのか。
衣類を脱ぐ手がおそくなり、只々疑問が強くなってく。
「師匠、どうしたんですか?」
意識を戻せば、衣類を全て小型の保管庫に入れまだかまだかと、裸で待っていたノアがいた。
「あ、あぁごめん。早く行こっか」
急いで服を脱いで、ノアと共に温泉の方へと足を運ぶ。
温泉内はに入ると、心地の良い熱気と湿度が迎えてくれる。
温泉全体は綺麗なまでに研磨された石畳で、丁寧に敷き詰められいる。
天井は夜空が見える様に、吹き抜けが作られていた。
ハルマット宿場町の名物なだけあって、いつ来ても感動する作りだった。
そして何より湯が良い。
ここのお湯が特別にいいのか、火山方面から流れ出るお湯がいいのかは知らない。
しかし透き通った薄茶色をした湯からは、草木の優しい匂いがしていた。
不快感は一切なく無く、温度も相まって身体も心も癒される。
「わぁ、いい匂いです!」
温泉に入るなり、ノアが走りだそうとする。
「ノア、かけ湯」
危ないからと腕を掴み、愛弟子にかけ湯をする様に促す。
「あ、そうでした!」
ウキウキのノアを制止させ、から湯を桶に貯めノアにかけてあげる。
犬みたいに頭を振り、お湯を払う。
可愛いな、と思いながらも自分も一先ずかけ湯をし、温泉へと向かう。
温泉に向かうと先客が先客がいた。
金髪の子とオレンジ色の髪の女の子が二人、温泉でゆっくりと寛いでいた。
「ノアさん、お疲れ、さ、ま……きゃぁぁぁ!?」
レイナとマリーが、こちらを見るなり悲鳴を上げる。
「うわ!?ど、どうしたの二人とも?」
思わず悲鳴の理由を聞こうとすると、顔を真っ赤にした二人が上擦りながら喋る。
「し、し、シオンさん!こ、こここ、ここは女湯ですよ!?」
シオンは全て察した。
このような経験は初めてではない。
平たい胸、ハスキーで低めの声、子供の時からの染み着いた僕という一人称。
冒険者になってからは、まったく訂正することも無く過ごしたりもした。
これらの要因が完璧に合わさり、よく男に間違われてきた。
「あ、あぁ、そうだよね! ごめんね、僕、実は……女なんだよ、ほら」
手に持っていたタオルを退かして、自分の股を二人に見せる。
齢二十四になって何をしているかと恥ずかしくなるが、確認の為仕方ないと割り切る。
「え、あ……」
「お、女の人ですぅ……」
想定外の事実を見せつけられたレイナとマリーは、真っ赤な顔のまま固まっていた。
「え、そうですよ? 師匠は女性ですよ?」
ノアが至って真面目な顔で言う。
あまりにも衝撃の事実に、レイナとマリーは更に固まる。
「「え、ええぇぇぇぇ!?」」
シオン・グレイシス、十六から冒険者を始めた女は、股間を少女達に見せつけたまま再び絶叫された。
「おぉ、意外とあっついねぇ……」
「でも、気持ちいいですぅ……」
ひとしきり二人を落ち着かせた後、ゆっくりと湯に浸かっていく。
熱めの湯だったが長時間馬車に座っていた身体に効いてくる。
地質学の研究者ではないため、温泉の効能の何がどうなのかは知らない。
しかし身体から疲労が溶けて落ちていくこの感覚は、しっかりと疲弊した身体を癒していった。
「そ、その、申し訳ございません……! 勝手に男性と勘違いしてしまって……!」
レイナとマリーが謝罪する。
二人の勘違いは仕方ないと言うのに、本当に申し訳ない事をしたなと思う。
「大丈夫、本当にいいよ。よく間違われるし、言ってない僕も悪いし」
「師匠、お胸無いですよね」
本当に申し訳なさそうにする二人を横に、ノアが急に刺してきた。
取り敢えず捕まえてくすぐりの刑で撃沈させておく。
「ひゃぁ!? あは、あははははは!」
「本当に大丈夫からね?」
まったく説得力は無いだろうが、念には念をと釘を刺しておく。
「ひぃぃぃ……」
レイナとマリーが怯えて抱き合っていた。
なるべく笑顔で怖くないよと、笑顔でアピールをしておく。
「で、ですが、お二人は本当に仲が良いですね……ノアさんとはどういった経緯で師弟に?」
ふとノアとの関係を聞かれた。
くすぐりで伸びたノアを湯に浮かべて考える。
「経緯? えっとね……」
「ぷはぁ! はい! 私がスライム討伐をしていた時、助けてもらいました!」
浮かんでいたノアが勢いよく立ち上がる。
他の客に迷惑が掛かるといけないので、大人しく温泉に座らせる。
「えっとね、僕がキャメロディアで仕事してる時に、スライムに負けてる子がいてね……何でも、お腹が空いて負けたらしくてね」
「はい、あの時は駄目かと思いましたよ……」
レイナとマリーは真顔で固まってしまう。
無理もない話ではある。
「す、スライムに……?」
「うん、離すと長くなるんだけどね……」
シオンは湯に浸かったまま、二人にノアとの出会いを話し始める。
――続く




