3-1
――サブウェル坑道――
盗賊との戦闘以降は何事も無く、シオン達を乗せた馬車はアーゴン森林を抜ける。
魔物や猛獣の呻く様な鳴き声も止み、馬車の中は安心感に包まれる。
「おぅい、通らせてくれんか?」
「はいよ! おーい! 馬車が通るから、道を開けてやんな!」
サブウェル坑道の明るく舗装された道まで入ると、鉱夫達の作業する声が聞こえてきた。
危険な区域から安全区域に入り、人の声が聞こえた時は、何にも代え難い安心感がある。
「もうそろそろハルマットだね……疲れたぁ……」
盗賊団を相手にした上、長時間の馬車移動は疲れが溜まる。
特に怪我を負った者にとっては、砂利や石が多い道の揺れが身体に響き、かなり辛いだろう。
「わぁ、真っ暗なのに、ここら辺は明るいですね!」
ノアが馬車の隙間から顔を出し、外の様子を見ていた。
落ちない様に、ノアの服を引っ張り支える。
「危ないよ。まぁここら辺は鉱夫達が夜中まで仕事しているからね。魔道具が設置されてかなり明るいし、この明るさを嫌って夜行性の魔物や猛獣が寄り付かないんだ。
しかも盗賊達も鉱石を盗もうにも、鉱夫は採掘作業とかで鍛えられてて強いし、近くには冒険者がよく泊まる宿場町がある。
おまけに北側には、各地にデュランド騎士団が配備されているからね。
盗賊も悪さしにくいんだ」
「へぇ、キャメロディアは治安あんまりよく無かったですしね」
ノアが感心したように話を聞いている。
ハルマット宿場町はレヴァンス山道が近いにも関わらず、犯罪件数や魔物による被害が少ない。
これはデュランド王国の政策の賜物だった。
防壁や砦などの防衛施設や、衛兵が駐屯所が北側の各地に配備されているからだ。
防衛意識の高さはウラノエス大陸でも随一で、国家予算の大半は防衛費と聞いた事もある。
それを象徴するのが、規律と秩序に準ずるデュランド騎士団だ。
デュランド騎士団は王都デュランドの中でもより優れた者を、国を守る騎士として王が選定した軍隊組織である。
騎士は本来なら下級貴族や領主がなる、身分の高い役職だ。
しかしデュランドは違う。
盗賊や魔物による被害は、貴族だけの組織では片づけきれなかった。
よってデュランド王国は忠誠心があり、国を守れるほどの実力者を毎年選抜している。
もちろん、誰でもなれる訳では無い。
前提として犯罪歴が無く、五年以上の兵士、または冒険者経験を物である事が必要だ。
おまけに騎士団の入団試験はかなり厳しく、年に五人ほどしか選ばれれば上出来なほどだった。
試験が甘くないのは、流石は規律と秩序の国デュランドと言ったところだろう。
「キャメロディアには悪い人が結構いましたからね。北側って安心なんですね!」
「いや、そうとも限らないね。犯罪が少ないとは言え、こっちは南側に比べると危険区域が多いんだ。
ヤバい魔物もうようよいるし、なんなら敵対魔族も多いし」
「はぇぇぇ……師匠、なんでそんなに詳しんですか!?」
ノアが尊敬の眼差しでシオンを見る。
この子はAランク冒険者である僕を何だと思ってるんだ、と内心で思ってしまった。
普通に尊敬の眼差しを向けられたのは嬉しかったので、何も言わずに頭を撫でる。
「魔族もですか……?」
レイナが心配そうな声で呟く様に不安を垂らす。
「心配かい? 大丈夫だよ、街にいるのは剛矮種とか獣人種みたいに人間に友好的な種族ばっかりだから。
耳長種だったり鬼角種の中立派は、人間社会から離れてそれぞれの住処で生活してるね。それに話せば分かるから大丈夫だよ」
「そうなんですね……」
レイナを諭す様に説明する。
人間にとって、ほとんどの魔族は敵対関係にある。
特に巨人種や竜人種などは、絶対的な敵対種族だ。
敵対種族達は種族ごとに強い思想を持ち、完全に人間と相容れない社会を作っている。
それに加え、人間を遥かに凌駕する力を持っているため、酷い場合には、人間に戦争を仕掛けたりもすることもある。
敵対種族は人間には脅威の為、レイナが不安に思うのも無理はない。
一方で、全てが全て敵対的なわけではない。
魔術を得意とし美しい美貌を持つ耳長種や、人相が悪く武力に長けた鬼角種などの中立派もいる。
価値観こそ人間に近いが、それでもの思想に乖離があるため、極力人間と関わりを持たないようにしている種族達だ。
そして人間に友好的なの種族も存在する。
力の強い小人である剛矮種や、動物特有の身体能力と特性を持った獣人種などだ。
この二種族に関しては思想の乖離も無く、人間社会に完全に溶け込んでいる。
ドワーフは採掘や鍛冶仕事で、ビーステッドは狩りや農業を生業とし、人間と共生している。
「……とまぁ、こんなところだね」
レイナに説明していると、真面目な顔をしたノアが元気に手を挙げる。
「はい師匠! 魔物と魔族の違いって何ですか!?」
シオンは思わず頭を抱える。
ノアには弟子にして一年以上、三回目の同じ質問が飛んできた。
本当にノアは馬鹿だなぁ、と思うも純粋な笑顔を前に何も言えず、優しく頭を撫でてあげる。
傍から見ていたエレナは困惑していた。
「えっとね、そうだな……レイナちゃんは分かる?」
冒険者としての知識を調べるのも兼ねて、レイナに質問してみる。
名前を呼ばれて少し驚くも、すぐさま姿勢を正して答え始める。
「は、はい。魔物と魔族の違いは大まかに言うと、人間と意思疎通が取れるか、ですよね?」
百点に近い答えが返ってくる。
弟子もこうだったらいいのに。
「ほぼ正解、いいね。ノアには改めて説明するよ?」
ノアが姿勢を正して座り直す。
「魔物ってのは、瘴気の影響で生態や性質が変化した動物とかの総称だね。
水を纏るスライム、昨日闘ってたグレムリンとか、瘴気に犯された魔獣種とかね。
だから本能的で野性的、意思疎通が取れないんだ。
一方で魔族ってのは、魔物が瘴気の影響によって人間の形を成してきて、人間と意思疎通を取れるほど知能が発達したやつだね。
さっき言った亜人種だったりが該当する」
「なるほどぉ……そうなんですね!」
ノアが純粋な笑顔で、感嘆の声を上げる。
可愛さに騙されそうになるが、ノアにこの説明をするのは、これで四回目になる。
本当にこの子は、と思うと無性に可愛く感じ頭を撫でる。
撫でられた方も嬉しそうにしてる為、止めどなく撫でてあげる。
「えぇ……?」
再び困惑の視線をした二人から見られる。
その視線には、これが盗賊を倒してくれたAランクの姿か、と言ったものが含まれている気がした。
――続く




