2-5
――レヴァンス山道、アーゴン森林――
「よぉし、こんなもんか……」
捕まえた盗賊全員を文字通りお縄にし、治療されてるマッシュ達の所へ足を運ぶ。
「どう、大丈夫そう?」
馬車の中を覗き込むとマッシュとアルトが鎧を脱ぎ、マリーに包帯を巻かれていた。
出血で消えかけた意識はポーションで持ち直したらしく、なんとか一命は取り留めた様だ。
「あぁ、シオンさん……すんません……頑張るって意気込んだくせに、倒れちゃって……」
「いいよいいよ。今回の盗賊は中々強かったし。僕も結構追い詰められたし」
落ち込むマッシュを励ます。
マッシュは自分の未熟さを憂いているのか、小声で謝り俯いてしまう。
その横でわき腹に大怪我を負ったアルトがこちらを見る。
「アルト君も大丈夫だったかい?結構深そうだけど?」
「いえ、結構酷いですが、何とか……その、ありがとうございます……
その、俺もすいませんでした……強そうに見えないとか言ったのに、助けてもらって……」
思ったよりも素直な感謝と謝罪がアルトの口から流れ出る。
どうやら認めてくれたらしい。
「いいよ、若いってそう言うもんさ……レイナちゃんの方に行ってくるね」
「はい、了解っす……」
マッシュ達の馬車を降りて、レイナが乗っている方の馬車へ向かう。
馬車にはカーテンが敷かれており、ゆっくりと開けて覗き見る。
「レイナちゃん、大丈夫?」
馬車の中ではレイナが下着姿で包帯を巻いていた。
二人に比べると小さい切り傷と浅く刺さった矢が一ヶ所だけとまだ軽傷で、マリーが男組の治療が終わるまでの応急処置をしていたのだろう。
「きゃぁ!? し、シオンさん……!? と、閉じてください……!」
急にカーテンを開けた為、レイナが顔を紅くして服で体を隠す。
冷静に考え、服を脱いでいる可能性があるのに易々とカーテンを開け、ましてや開きっぱなしとは何事かと思考を巡らせる。
「あ、あぁ! ごめん、ごめんね……終わったら言ってね」
ささっとカーテンを閉じて馬車の外で待つ事に。
年頃の女の子相手に本当に何をしているのかと反省する。
「はい、レイナさんも大丈夫です。炎症にならない様に明日の朝付け替えましょうか」
「ありがとうございます、マリーさん」
マリーによるレイナの治療が終了する。
魔力切れもポーションで補い、事なきを得た。
ポーションは錬金術師が素材を調合して醸造した液状の薬だ。
基本的には薬草や木の実などの植物から作るが、中には魔物の素材からの醸造が必要な物まである。
飲めば体内の魔力に反応して効能が現れる為、疑似的な支援魔術をすぐ受ける事が出来る。
冒険者にとって、非常に便利な代物だった。
「シオンさんとノアさんも、ありがとうございました……助けていただけなければ、今頃どうなっていたか……」
マッシュ達と同じ様に頭を下げて礼を言われる。
「いいよいいよ。相手はなんか本気だったし……」
「そうですよね……でも何故よりによって今日なんでしょうか……?」
レイナからの疑問に思わずシオンも考え込む。
「商人を運んでいるとは言え、その……大声では言えませんが、あの商人二人は商会に入っていない、いわゆるはぐれ商人です……有名人と言うわけでもないですし、御者さんからも何も聞かされてません……」
「そうなんだよね。それが分かんないんだ」
実際、馬車強盗程度なら八人~十人で実行するのが多い。
それをこのような危険地帯に、わざわざ二十人越えの待ち伏せなど聞いた事が無い。
明らかに計画的な実行だと思うが、この馬車に目ぼしい物があるとは思えない。
謎が多く残る中、御者からの声が聞こえる。
「皆さん、ご無事ですかい?いやぁ特にあんた。若いのに助かったよシオンさん」
御者から称賛として、腕を数回叩かれる。
地味に痛くて少し不快だった。
「あぁ……いえ、どうも」
「謙遜しなさんな、流石はデイビスさんお墨付きのAランクだ……他の冒険者も頑張っていたが、やっぱ格が違うね。うち専属の用心棒なんてどうだい?」
「遠慮しときます」
御者からの誘いをやんわりと即答する。
自分の生き方を探すために冒険者になったのに、縛られた生き方をするのは癪だ。
「そうか、惜しいな……さてこんな被害だ、もたもたしてられんから、そろそろ出発しようと思う。
あっちの男冒険者二人が大丈夫なら出発するよ」
マリーがレイナの身体の無事を確認し終えると、こちらを向いて返事をする。
「はぁい、もう少しお待ちくださぁい」
「うむ、分かった」
しかし、シオンには何かが引っ掛かった。
「すいません、僕達は盗賊の調査をしてもいいですか?」
「おう、あんまり時間はかけんなよ?」
御者に言い残して待ってもらい、もう少し盗賊の調査をすることにした。
馬車から離れて、木に縛り付けられた下っ端から、何かしらの情報が無いかを探る
手始めに身なりや装備を見る。
団服はシオン達との戦闘でボロボロになっている箇所があるが、それでもどこかに清潔感があった。
武器は手入れが行き届いており、腰にはポーションや包帯などの新品の治療道具も携帯していた。
ポーションや治療道具は使用した痕跡も無く、直前に準備したように見えた。
やはり今回の馬車襲撃は、計画的なものだろうかと勘繰る。
ただし根拠は一切無い。
そんじょそこらの盗賊なら、偶々だろうと断言もできるだろう。
だが、そこは大陸一の盗賊団。
その様な衝動的な襲撃をするとは思えなかった。
試しに縛り付けた下っ端から、ジャックス盗賊団の情報を聞こうとする。
「おーい、ちょっとお話いいかい?」
武装錬成で鎌を作り、下っ端の首に押し当てる。
盗賊団は一瞬だけ竦むが、すぐさまシオンを睨んでくる。
「話すことは無い……元よりあの馬車を襲えと、マーニ様に言われただけだ……それ以上は知らん……」
下っ端はそれ以上は言わず、鎌の刃を引けと言わんばかりの目力でこちらを見る。
どうやら覚悟は決まっているらしい。
「……あっそ」
覚悟を決めた盗賊相手に、これ以上聞けることは無いと判断し、鎌を回収して盗賊達から離れる。
シオンが馬車に戻ろうとすると、ノアが盗賊を木の枝で突いていた。
「何遊んでるのさ……行くよー」
「はい、了解です!」
馬車に戻ると、マッシュとアルトの医療が終わったのか、森の中で穏やかな空気が流れていた。
馬車の周辺はマリーが魔除けの結界を張っているようで、魔物が近付かない様にしてくれていたのだろう。
「お待たせー、大丈夫そう?」
「はい、皆さんのお怪我治りましたぁ。アルト君は寝ちゃいましたけど」
馬車の方を見ると、馬車の座席でアルトが横になっていた。
活躍を考えれば無理もない。
マッシュとレイナの二人を守り、あれだけの大怪我を負ったのだから。
「まぁ仕方ないさ、寝かせておこう。移動中は僕も少し警戒してあげるよ」
「はぁい、ありがとうございますぅ」
マリーと話していると、後ろから御者が来る。
「おうシオンさん、もういいかい?」
「あ、お待たせしました御者さん、大丈夫です」
「はいよ。それじゃ再出発と向かいましょうか!」
御者の声に反応して、それぞれが馬車に乗り込む。
御者が手綱を引き、馬が嘶き馬車が再び動き出した。
太陽の日が橙色に染まりかける中、次の目的地である宿場町であるハルマットに向かう。
頼むから宿場町まではゆっくりさせてくれ、とシオンは願うばかりだった。
――続く




