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第50話 村に火を増やす日

鍛冶場とアトリエの建設は、村が本格的に職人を抱える村へ変わる最初の一歩だった。

場所は、村の中央から少し外した位置に決まった。


理由は単純だ。

火を使う、煙も出る。

鍛冶場もアトリエも、どちらもそれなりの作業音が出る。


だから、家々に近すぎず、だが水路や広場から離れすぎない場所。

そのちょうど中間あたりで、ドーレンが地面へしゃがみ込み、木板と炭で図面を引いていた。


「まず、鍛冶場はこっちだ」


親父の炭が、板の上へ迷いなく線を走らせる。

レオの目がそれを追う。


「風抜けを作る」


「風抜け?」


「炉の熱がこもりすぎると、人間が先にへばる」


「なるほど」


ドーレンはさらに線を足した。


「打つ場所は広めに取る」


「なんでだ」


「鉄を振るうからだ」


「それだけか?」


「それだけで十分だ。狭い鍛冶場は指を落とす」


その一言に、聞いていた村人たちが少し真面目な顔になる。


「炉の前、金床の位置、炭置き場、打った鉄を冷ます場所」

「全部、動線で決まる。適当に置くと、今度は人間同士がぶつかる」


「なるほどな」


バルドが感心したように頷いた。


「作業場ってのは広けりゃいいってもんでもないが、狭いのはもっと駄目だ」


次に、ドーレンは鍛冶場から少し離れた位置へ炭を走らせた。

イルゼは図面を覗き込みながら、すぐに口を挟んだ。


「釜の位置は壁際すぎない方がいい」


「理由は?」


「熱と薬品の匂いがこもる」


「なるほど」


「あと、作業台は二つ欲しい」


「二つ?」


「調合と乾燥は分けたい」


「贅沢だな」


「贅沢じゃない、死にたくないだけだよ」


その返しに、小さく笑いが起きた。


「薬草刻む台と、煮出しや蒸留を扱う台は分ける」

「一つにすると混ざる。混ざると失敗する。失敗すると下手すりゃ人が死ぬ」


「分かりやすいな」


「分かりやすく言ってるんだよ」

「錬金術師は、分からないまま触られるのが一番困るからね」


そして、問題は炉と釜の芯だった。


ただの薪炉でも鍛冶はできる。

ただの火でも薬は煮られる。


だが、この村にはそれ以上のものがある。

火尾鶏から取れた赤い魔石だ。


パン炉の核に使った分を除いても、まだ残りがある。

量は多くない。

だからこそ、使い道は慎重に選ぶ必要があった。


カイルとイルゼが顔を見合わせる。

どちらも、自分の領分へ多く欲しいのは当然だ。

だが、今の二人はもう中央で椅子取りをしていた頃の人間ではない。

村の中で、必要なものを分け合う感覚がある。


「錬金釜には、一部でいい」


イルゼが先に言った。


「一部でいいのか?」


エルマーが聞き返す。


「いらない。むしろ強すぎると扱いづらい」

「煮出しや蒸留は、火力が暴れない方がいい」

「だから、魔石の一部を釜の芯に使う。それで十分だ」


カイルもすぐに続けた。


「鍛冶場へはそれなりにまわせ」


「お前さんは豪気だな」


火の魔石を手の中で遊ばせながら、エルマーが笑う。


「炉は熱量がいる」


「だろうな」


「でも、全部はいらん」

「炉床と炭の組み方で補える」


「なるほど」


その言葉に、テオドールがすぐまとめる。


「では、赤い魔石の一部を錬金釜へ」

「残った本体の三分の二程度を鍛冶場の炉へ」

「残余は予備」


そこで話はまとまった。


鍛冶場も欲しい、アトリエも欲しい。

なら、両方を生かす形で分ける。


それが今の村のやり方だった。


建設が始まる前に、エルマーは新入り組をパン炉の前へ連れてきた。


「まず、こいつを見ろ」


指した先には、村の中心で今も静かに熱を抱え続けるパン炉がある。


カイルがしゃがみ込み、炉の縁を見た。

イルゼも興味深そうに近づく。

ドーレンは構造そのものを見ていた。


「中身、どうなってる」


ドーレンが不思議そうな顔でエルマーに尋ねた。


魔法狂いはそこで、少しだけ得意げに腕を組んだ。


「これから作る鍛冶場の炉も、錬金釜も、基本はこれと同じだ」


「同じ?」


とカイル。


「熱の芯を作る」

「火を燃やし続けるんじゃなく、熱を抱え続けさせる」


「つまり、火じゃなく熱を設備に持たせるわけかい」


イルゼが納得したような声を出した。


「そうだ」


「それはいいね」


「だろ?」


エルマーは炉の縁を軽く叩いた。


「普通の炉は、薪をくべるたびに火が暴れる」

「強くなったり弱くなったりする」

「だがこれは違う」

「芯が熱を抱える。だから火が絶えない」

「鍛冶場の炉も、錬金釜も、そこを狙う」


カイルの目が変わった。

イルゼも同じだ。

職人の目になっている。


ただの便利な炉じゃない。

仕事の質そのものを変える設備だと、二人にはすぐ分かったのだ。


ドーレンは、そんな二人より少し引いた位置でパン炉全体を見ていた。


「つまり、建屋は炉や釜を生かす形で作れってことだな」


「そうなる」


そこで広場にまた小さな笑いが起きた。


話が具体的になったことで、村人たちの理解も早かった。


「鍛冶場ができれば、農具を鉄にできる」

「鍋も直せる」

「針も、刃物も、今よりずっとましになる」

「壊れたら終わりじゃなくなるねぇ」


「錬金釜があれば、薬が作れる」

「うちは前、熱が出たら祈るしかなかったからね」


ドーレンも、図面板を持ち上げながら言う。


「家はすぐに取り掛かる」

「鍛冶場もアトリエも要る」

「だが、住むとこが抜けてたら冬で詰む」

「冬前に仕上げるぞ」


そこまで聞いて、村人たちは本当に建てる段階に入ったと理解したらしい。


ただ生き延びるだけではない。

設備を作り、家を建てる。

村を広げる。


そういう話が、ようやく現実になってきた。


その日の夕方、パン炉の前でレオは改めて全体を見渡した。


鍛冶場の位置、アトリエの位置。

新しい家の予定地。

乾燥させた木材の山。

そして、赤い魔石の使い道。


どれも、巨猿と火尾鶏を倒した先に手に入ったものだ。

ただ倒して終わりではない。

ちゃんと村を育てる資源になっている。


カイルはまだパン炉を見ていた。

イルゼは鍋の熱を手のひらで感じている。

ドーレンは図面の修正を頭の中で続けている顔だ。


来たばかりの人間が、帰るかどうかじゃなく、どう作るかを考え始める。

それだけで、村の伸びしろは分かる。


パン炉の熱は静かに続いている。

次は、その熱を村の別の場所へ増やしていく番だ。

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