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第48話 根を下ろす者たち

ハウルの商隊が村の前へ着く頃には、子供たちは完全に待ちきれなくなっていた。


「ほんとに来た!」

「前より荷が多い!」

「人もいる!」


レオが前へ出てくる。


「よく来てくれた」


「随分、早く村の顔を変えたな」


「そっちこそ、荷が増えてる」


「増やしたんだよ」


「人もか?」


「連れてきた」


そこで、ハウルは少しだけ胸を張った。


「後を継げないが、腕のいい鍛冶師」


「中央で居場所を失った錬金術師」


「それに、貴族と揉めて追い出された大工一家だ」


レオの目が、少しだけ変わる。


ただの商隊ではない。

村へ根を下ろす可能性のある人材だと、すぐに理解した目だった。


「本気だな」


「最初からそう言ったろ」


「この村、分の悪い賭けじゃない。勝てる賭けだって」

「で、どうだ」


「何がだ」


「まだ賭ける価値、あるか?」


「ある」


レオは、迷いなく答えた。

その返事に、ハウルは本当に気分が良くなった。


道は整えられていた。

畑は増え、水路は走っていた。

子供は笑っていた。

村の前には、ちゃんと迎える人間が立っていた。


それだけ揃っていれば、もう十分だ。


「よし」


そう言いながら、ハウルは連れてきた連中を見た。


鍛冶師、錬金術師、大工一家。


そして、その視線の先にあるのは、今まさに村になろうとしている土地だ。

人が足りなかった場所に、人が来る。

技術が足りなかった場所に、技術が来る。


その瞬間の空気が、広場いっぱいに満ちていた。



広場の空気は、さらに一段ざわめきを増した。


前回より多い荷。

そして何より、人がいる。


しかもただの旅人ではない。

見れば分かる。

何かしらの技を持っている顔だ。


村人たちも、それはすぐに感じ取ったらしい。

女たちは遠巻きに見ながらも目が鋭い。

男たちは警戒と期待が半分ずつ。

子供たちはもう露骨に興味津々だ。


ハウルが荷台の横で腹を叩いた。


「せっかくだ。まずは顔合わせだ」


広場の中央へ、人が集められる。

パン炉の前、今の村で一番村らしい場所だ。


「じゃあ、順番にな」


ハウルが、最初に若い鍛冶師の背を軽く押した。


「こいつはカイル」


「カイルだ」


若い男は少し不機嫌そうな顔のまま前へ出る。

だが、声はしっかりしていた。


「ぶっきらぼうだが、鍛冶師だ」


「腕はある」


「自分で言うのか」


と誰かが小さく笑う。


「ただし、鍛冶場がいる」

「ああ。あと炉だ。まともに鉄を打つなら、それがないと話にならん」


そこで初めて、鍛冶師らしい目になった。


「農具も見てやれるのか」


バルドが値踏みするような眼で、カイルを見る。


「見てやれる、じゃない。作れる」


「ほう」


「鍋の補修もできる」


「それはありがたいねぇ」


女たちの反応が早い。

鍋が直せるというのは、それだけ村にとって大きいのだ。


次に前へ出てきたのは、中年の女だった。


「イルゼだよ」


面倒くさそうに手を挙げる。

だが目つきは鋭い。

ハウルがイルゼの肩に手を置きながら、紹介を始めた。


「帝都の錬金工房で、働いてた錬金術師だ」

「ただ、つまらない連中に負けて田舎へ引っ込んでた」


「言い方」


「事実だろう」


「まあそうどさ」


イルゼは肩をすくめる。


「で、ここへ来たと。何が必要になる」


レオが確認するように、聞いた。


「当然、アトリエ」

「あと錬金釜」


「そりゃいるよな」


「ないと何も始まらない」


その言葉に、村人たちは顔を見合わせた。

錬金術という言葉自体、馴染みは薄い。

だが薬の匂いはするのだろう。


「薬も作れるのかい?」


女衆から声があがる。


「材料次第だけど、作れるよ」


「熱が出た時のやつとかは?」


「素材があれば」

「錬金術は万能じゃないよ。でも、今よりはずっとましになる」


その一言に、女たちの顔色が変わる。


病気、怪我、子供の発熱。

今までこの村では、そこが弱かった。

誰かが倒れれば、祈るか、寝かせるか、耐えるしかない時も多かった。


そこへ、薬が作れる人間が来た。

それがどれだけ大きいか、説明などいらなかった。


「最後は、こっちだ」


ハウルが大工一家を手で示す。

前へ出てきたのは、親父のドーレン。

背は高くないが、がっしりしている。

隣に息子二人、少し後ろに嫁と娘。


「ドーレンだ、大工をやってる」


「見りゃ分かる」


ガレスが笑う。


「分かるように生きてるからな」


ドーレンは、広場をぐるりと見回した。

家々を見、柵を見る。


「まずは家だな」


「家?」


若い男衆が聞き返す。


「そうだ、まずは家を建てる」


「新しい家を?」


「必要なら建てる。今ある家も直す。屋根も、壁も、床も、今よりましにする」


その言葉は、広場に想像以上の重みで落ちた。

大工が来た。

そして最初に言うのが家を建てるだ。


それはつまり、この粗末なあばら家だらけの村に、冬を越せる家の可能性が来たということだった。


「本当に、建てられるのかい?」


マルタが半信半疑の顔で問う。


「木があって、打つ人間がいて、邪魔しねえなら建つ」

「むしろ、建てるために来たんだ」


「冬までに?」


「急がせるなら急ぐ」


村人たちのざわめきが、ここで一段大きくなった。

冬までに家がましになる。

それは、ただ住み心地の話ではない。

生き残るかどうかの話だ。



その間にも、子供たちはすでに別のことを始めていた。

大工一家の子供たちの周りへ、村の子供たちが自然に集まっている。


「どこから来たの?」


「海の向こう」


「遠い?」


「遠いかも」


「へえー」


そんなふうに、もう子供なりの交流が始まっていた。

最初は少し距離がある。

けれど、それも長くは続かない。


木切れを見せ合い、荷車の上を覗き、アカネたちの話で騒ぎ、気づけばもう一緒に笑っている。


そこで、レオが一歩前へ出た。


新しい人間が来た。

なら、今度はこっちの番だ。


「こっちも紹介しておく」


村人たちが少し静かになる。

新しく来た連中も、自然とレオを見る。


「俺はレオ」

「一応、この村のまとめ役をやってる」


「一応、じゃねえだろ」


とバルドが横から突っ込む。


「そこはもう少し胸張れよ」


「そういうのは苦手だ」


「貴族のくせにか」


「貴族だからだよ」


少し笑いが起きる。

レオは続けた。


「こっちはガレス」

「俺の剣の師匠で、村の戦の柱だ」


「柱って年でもねえがな」


「で、このおっさんがバルド、男衆のまとめ役だ」


「まとめ役ってほどじゃねえが、話は通す」


「こっちのいかにもな肝っ玉母さんが、マルタ」


「炊事と女衆のまとめだよ」


「こっちの若いのが、ミハルとユル」

「狩猟班の若手だ」


「この間、鹿を仕留めました!」


ミハルが胸を張る。


「自分で言うな」


「いいじゃないですか!」


そこでもまた笑いが起きた。

最後にレオは言った。


「今の村は、まだ足りないものだらけだ」

「だから、来てくれたのは本当に大きい」

「鍛冶場も、炉も、アトリエも、錬金釜も、優先的に設置しよう」

「鍛冶も薬も、この村に必要なものだ」

「そこを後回しにはしない」


イルゼが少しだけ目を細めた。

カイルも、思ったよりちゃんと理解されていることに、わずかに顔つきが変わる。


「ドーレン、木材はそれなりに乾燥させたものがある」


「ほう」


「一度見てくれ」

「それで、家をどう回すか一緒に考えたい」


「分かった」


ドーレンは短く頷いた。

その返事は、もう様子見の旅人のものではなかった。


男衆からも女衆からも声が出る。


「冬までに家をどうにかしようって話、ずっと出てたんだ」


「ドーレン達が来てくれたおかげで、なんとかなりそうだね」


村人たちの顔が、またひとつ明るくなる。


鍛冶、薬、家。

どれも、今の村に足りなかったものばかりだ。

それが今、本当に手が届くものとして目の前に来た。


子供たちは、その間にも大工一家の子供たちと完全に打ち解け始めていた。


「アカネ見た!?」


「何それ」


「火の鳥蜥蜴!」


「鳥蜥蜴!?」


「見せてやる!」


新しい子供が村へ来る。

それだけで、広場の声色が少し変わる。


人が増えるというのは、こんなにも空気を変えるのかと、レオは少しだけ思った。


「悪くないな」


鍛冶場ができ、炉ができる。

アトリエが立ち、薬ができる。

家が建つ。


まだ何も完成していない。

それでも、そこへ向かう線はもう引かれた。

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