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第108話 焼いた方がうまい

そして、いよいよ水針蜥蜴の肉を調理することになった。


解体場の熱気とは別に、今度は炊事場のまわりへ人が集まり始める。

大型魔物を仕留めたとなれば、素材だけで終わるはずがない。

食えるなら食う。

この村では、それもまた立派な戦果だった。


まずは、普通の肉から試した。


腿に近いところ。

筋の流れが素直で、脂は少ない。

見た目は思ったより悪くない。

少なくとも、舌ほどの拒否感はない。


マルタが下処理をする。

血を洗い、香草と塩で軽く揉んでから炙る。


焼ける匂いが立ち始めると、周囲の空気が少し変わった。

男衆がざわめきだす。


「思ったより美味そうな匂いだな」


「そういうもんさ」


「肉は焼けば裏切らない」


「名言来たな」


「事実だろう?」


焼き上がった肉を、まずは薄く切る。

恒例のように、最初の一口はレオへ回ってきた。


「どうだい?」


レオは少し噛んでから言った。


「予想よりかなりうまい」

「風味は薄めだけど、食いやすいな」


マルタも横から一切れ摘まむ。


「癖が少ないね」

「濃い味に寄せてもいいし、焼いて塩だけでもいける」


「肉としては当たりか」


「大当たりってほどじゃないけど、十分当たりだよ」


子供たちにも小さく切って配ると、反応は素直だった。


「おいしい!」


「ちゃんとお肉だ!」


「もっと変な味するかと思った!」


水針蜥蜴の肉は、あっさりしていた。

濃厚ではない。

だが、そのぶん柔らかくて食べやすい。


大型魔物の肉にしては、拍子抜けするほど素直なうまさだった。


だが、本当の目玉はそのあとだった。


マルタが本命の舌へ手を伸ばす。


「領主様、問題の舌いくよ」


「問題のって言ったな」


「だって問題児だろう」


「それは否定できねえ」


水針蜥蜴の舌は、改めて見ても長かった。


ぶ厚い筋肉の塊みたいだ。

それなのに妙に艶がある。

見た目だけなら、正直かなり嫌だ。


アリスなんて、最初はあからさまに顔をしかめていた。


「レオ様、まだちょっと嫌です」


「俺もだ」


「でも、食べるんですよね」


「村だからな」


「便利な言葉ですね」


「お前の返しも便利だな」


マルタは珍しく真剣な顔で処理を始めていた。


丁寧に薄皮を取る。

臭みを抜くために下茹でする。

香草と塩を使い、余計なぬめりを落とす。

そのあとで少し厚めに切る。


「薄すぎると負ける」

「この手は、ある程度ちゃんと舌ですって食感を残した方が勝つよ」


「何だよその理論」


すぐ横で、手際を見ていたバルドがぼやく。


「長年の勘さ」


最後は、軽く炙って仕上げた。

香ばしい匂いが立つ。

しかも普通の肉より、明らかに脂の匂いがある。

重い脂ではない。

だが、舌独特のうまそうな脂だ。


切り分けられた舌は、見た目まで変わっていた。

ちゃんとした料理になっている。

表面に軽く焼き色がつき、中にはじゅわっとした厚みが残っている。


マルタが差し出してきた小皿を、レオは少しためらってから受け取った。

そして一口。


噛んだ瞬間、表情が変わる。


「どうだい?」


「うまい」


それだけ言って、もう一切れ口へ入れる。


「かなりうまい」


周りがざわつく中、今度はガレスが取った。


「これは酒が欲しくなるな」


アリスも恐る恐る口へ運ぶ。

次の瞬間、目を丸くした。


「マルタさん、これ絶品です」

「見た目のこと、ちょっと謝りたいです」


「だろう?」


マルタが胸を張る。


「やっぱり舌は当たりなんだよ」


子供たちにも小さく切って配られる。

最初は皆、少しだけ嫌そうな顔をしていたのだが。


「おいしい!」


「やわらかい!」


「これ好き!」


その場の空気は、一気に明るくなった。


大型を仕留めた。

素材も当たりだった。

肉もいけるし、舌は絶品。


もう、村の人間たちは完全に勝った日の顔をしていた。


肉の処理が進むにつれて、もう一つ分かりやすい騒ぎが起きていた。

アカネたちとアズである。


「ぴゅい!」


「ぴ!」


「ぴぃ!」


広場の端。

解体場から少し離した場所で、三羽と一頭が妙にそわそわしていた。


最初は血の匂いに寄ってきたのかと思った。

だが、どうも違う。

マルタが焼いた肉の方へ、あからさまに視線が向いている。


解体したての生肉を少し離れたところへ置いてみても、アカネたちは近寄りはする。

だが、がつがつ飛びつくほどではない。


ところが、炙った肉を見せると反応が違った。


アカネの尾の火が、あからさまにぶわっと揺れる。

スミはその場で小さく跳ねる。

ヒイロは待ちきれないみたいに前足をじたじたさせた。


そしてアズはというと、青い目をまっすぐ焼き肉へ向けたまま、真剣な声を出した。


レオはそんなアカネたちとアズを見ながら、呆れ顔になる。


「こいつら、料理って文化を覚えたな」


「そうみたいだねえ」


マルタは妙に満足そうだった。


「魔物なのに、生じゃ食わねえのか」


「人聞きの悪いこと言うなよ」


「いや、事実だろ」


「事実だけどさ」


マルタが、試しに少しだけ焼いた肉を細かく切って差し出す。


「ぴ!」


アカネが最初に飛びついた。

くわえた瞬間、目に見えて反応が変わる。


「ぴゅい!」


その様子を見て、村の皆が笑う。


「完全にもっとくれの顔だぞ」


「新大陸って感じだな」


「意味がわかんねぇな」


「もう今さらだろ」


スミとヒイロもすぐ続いた。

そして、アズにも少しだけ回す。


アズは、最初こそ匂いを嗅いだ。

だが一口食った瞬間、明らかに目の色が変わった。


「ぴゅ!」


「お前もかよ」


「完全に気に入ったな」


しかも面白いことに、マルタが生肉を差し出すと反応が鈍い。

食わないわけではない。

だが、焼いた肉の時みたいな勢いがない。


「生は微妙な顔してるな」


「魔物なのに」


「だからその言い方やめな」

「今や村の子みたいなもんだろ」


「それはそうだけどよ」


「だったら、焼いた方がうまいって覚えたんだろうさ」


「文化だな」


アカネたちは、そのあとも肉をねだり続けた。


アカネは少しでも大きい欠片を取ろうとする。

スミは素早く横から掠め取りにくる。

ヒイロは一度くわえた肉を、少し離れたところでゆっくり食う。


そしてアズはというと、飛竜の子らしく堂々と真ん中に座り、追加が来るのを待っていた。


「一番偉そうだなぁ」


レオは、そんなアズの頭を軽く撫でる。


「まあ、飛び始めたからな」


「レオ様、甘やかしてません?」


アリスが母親みたいな顔で寄ってくる。


「半分くらいは」


「便利ですね、それ」


村人たちも、その様子を見て笑っていた。


大型を倒して素材を取り、肉を食う。

その横で火尾鶏たちと飛竜の子が、焼いた方がいい顔で肉をねだる。


普通ではない。

そしてこの村では、とうとう魔物の子まで焼いた方がうまいを覚えてしまった。


それはもう、立派に文化だった。

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