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勇者パーティを追い出された器用貧乏~パーティ事情で付与術士をやっていた剣士、万能へと至る~【Web版】  作者: 都神 樹
第十章

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333/341

331.【sideルダイン連邦】出征

 四聖暦六三〇年十月一日の早朝。

 場所はルダイン連邦の軍港都市ソナイル。


 海に浮かぶ軍船へと兵士たちが次々に乗り込んでいた。


 その近くで数名の議員と軍の高官たちが整然と並んでいる。

 彼らの黙礼をもって船隊の出立を見守っていた。


 この場に居る全員は、表情を硬くしながらも同じ意思を共有している。

 ――《魔王》の手からキョクトウを取り戻す、と。


 そんな光景を、ルダイン連邦議長であるグンナル・シュテルンが少し離れた場所から冷淡な眼差しで眺めていた。


「……遅い」


 低く呟いた彼の背後から、足音が近づく。


 振り返ると、赤い髪を海風に靡かせた愛くるしい見た目の少女が、眠たそうに目をこすりながら歩いてくる。


 彼女は【シクラメン教団:第三席】《焚灼》――ルアリ・ヴェルト。


「これでも早く来たほう」


 不機嫌そうにルアリは返すと、欠伸をひとつ噛み殺し、港の上空をじっと見上げた。


「それより。なんで転移阻害の結界、張ってるわけ? 無駄に移動する羽目になったんだけど」


「……転移阻害?」


 グンナルの瞳が細くなる。


「そのような結界は展開してない。港の防御結界は通常運用のままだ」


「ふぅん。じゃあ誰の仕業?」


 ルアリはつまらなそうに肩をすくめた。


 グンナルは短く考え、答えを切り替える。


「長距離転移に不具合が出ているなら、こちらで調べておこう。――今は出立が先決だ」


 そう言ったとき、軽い靴音が五つ、規則正しく響いた。

 そこに居たのは、赤い外套を纏った成人して間もない五人の少年少女。

 まだ幼さの残る目には仄暗い光が宿っている。


「何、コイツら」


 ルアリが露骨に眉をひそめる。


「東の大迷宮を攻略した者らだ。今回の武力派兵に、儂の〝眼〟として同行してもらう」


 少年少女は一様に無言で会釈した。


 ルアリは興味なさげに視線を滑らせ、また欠伸をした。


「相変わらずだの」


 グンナルはため息を押し殺す。


「任務の説明中くらいは真面目に聞いてほしいものだ」


「真面目に話聞いてたら疲れる。この身体、燃費悪いから。疲れなんか吹っ飛ぶほど燃える内容なら真面目にやる」


 ルアリは事も無げに返す。


 そのとき、肩章に金線の走る軍人が足早に近づいてきた。今回の航行指揮官である提督だ。


「議長閣下。全船、出征の準備が整いました」


 軍人は踵を鳴らし、胸に拳を当てて礼を取った。


「よろしい」


 グンナルは連邦議長の仮面をかぶり応じると、続けて命じる。


「この六人を旗船に乗せなさい。彼らは私の直轄だ」


「はっ。しかし――」


 軍人は言いよどみ、渋面になる。


 次の瞬間、その瞳から焦点がすっと抜け、薄い靄がかかったように虚ろになった。


「……承知いたしました」


 軍人はわずかな間をおいて、表情を引き締めると、考えを改めた。


「貴官の使命はなんだ?」


 グンナルが試すように問いかける。


 軍人の口角が、ゆっくりと吊り上がった。


「《魔王》を討ち滅ぼすことです。仲間を何人喪おうとも、キョクトウを炎の海にしようとも、必ずや本計画(・・・)を成し遂げてきます」


 その声音には、一切の迷いがなかった。


 グンナルが満足気に頷く。


『友好国を救う』という大義名分を掲げた出征の檄とは噛み合わない言葉。

 彼の口にする言葉は明らかに不適当であると言える。


 提督に付いていくかたちでルアリと五人は軍船に乗り込んだ。


 船笛が響き、錨が巻き上がる。

 旗船が回頭し、後続が列を成す。

 船列が海面を切り裂き、航跡が幾筋も伸びていく。


 数名の議員と高官はただ黙して、敬礼と共に見送った。


  ◇


 グンナルは船隊をしばし見送ると、踵を返した。


 その足で軍港から外れたとある建物へと入る。


 厚いカーテンで日を遮った一室の扉を、グンナルは静かに開けた。

 部屋の奥で長椅子に座る女が、顔を歪めて右目を押さえている。


「……無理をさせて悪かった、フィリー」


「ふふ。結局、貴方も――わたくしが居ないとダメなのね」


 苦痛に耐えながらも、フィリーは皮肉を忘れない。

 その口調はいつものように軽く、だがその背中には、細い肩を軋ませるほどの緊張が張りついていた。

 未だに、自身の中に取り込んだ邪神の魔力を御しきれずにいるのだ。


 それでも彼女は、さきほどの提督のほか、議員や高官にまで【認識改変】を施していた。


 フィリーの右目の奥では、涅い魔力の残滓が絶えず脈動していた。


 グンナルはしばし彼女を見つめ、言葉を飲み込む。

 やがて踵を返し、静かに扉を閉めた。


 重い音が響くと同時に、部屋には息を詰めたような静寂だけが残る。


 フィリーは瞳を閉じ、長い吐息を一つ洩らした。


「……さて、次はどのような混沌を見せてくれるのかしら」


 その小さな呟きは、誰の耳にも届かぬまま闇に溶けた。

 

  ◇

 

 海を切り裂きながら、連邦の軍船は着実に東へと進んでいた。


 兵士たちは持ち場に就き、索具を確認し、魔導機関の調整に追われながらも――視線の端が、ひとつの場所に吸い寄せられていた。


 甲板中央。

 そこでは、赤色の髪の少女が日光を浴びながら無防備に昼寝をしていた。


 炎を司る悪魔――《焚灼》ルアリだ。


 提督からは「彼女たちには一切の干渉をするな」と命じられている。

 そのため、誰も声をかけることはできず、兵士たちはただ、どうして子どもがこの戦船に乗っているのかと、胸の奥に小さな疑問を抱えたまま作業を続けていた。


 やがて、航行を続ける船隊の先、靄の向こうの陸影がぼんやりと現れる。

 それは、目的地――キョクトウ。


 兵たちの表情が引き締まり、甲板の空気が張りつめる。


 その時、見張り台から鋭い声が上がった。


「う、海の上に――人が!」


 視線が一斉にそちらへ向かう。


 波間の向こう、太陽の照らされた蒼い海原に、まるで水面の上に立つように、銀髪の女性――シオン・ナスタチウムが浮かんでいた。


 彼女の琥珀のような澄んだ瞳が、まっすぐに船隊を見据えている。


最後までお読みいただきありがとうございます。

次話もお読みいただけると嬉しいです。

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[一言] 悪魔ごときだもんな
やっちゃえシオン
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