007 再入場制限
本日2話目の投稿となります。
塔1Fでルーティング(ゴミ拾い)を終えた翼翔は、重いカバンを抱えながら入口まで戻ってきた。
といっても、これからまだ長い階段を下らなければならない。
翼翔は背後の黒い壁を見た。
次に黒い壁を利用できるのは十二時間後。これが再入場制限の壁である。
「一応、待機時間を減らすアイテムもガチャから出るんだよな」
もちろんいま出ても、1Fの再入場時間を短縮させるのはもったいない。使うならもっと上階がいい。
待機時間短縮アイテムは、金や青の珠から出てくることが確認されている。
それは待機時間をゼロや半分にでき、個人キーに登録して使う。そして回数制限があるらしい。
「塔の待機時間制限はいいんだよ。もう一つの方が問題なんだって」
このもう一つある待ち時間の方が問題だ。なにしろ、塔から地球へ戻ったあと、再び足元に渦を出せるのが十二時間後なのだ。
つまり塔から地球へと移動したあと、再び塔へ行けるのは十二時間後となる。
その間、経過時間が六倍になる関係上、塔の中では三日が過ぎてしまうのだ。
余談だが、小さなアイテムは12個のセットで出てくることが多いため、この待機時間と合わせて、このシステムを作成した者は、指が六本あるのではと考察されている。
もちろん、証拠は何もない。
「ふう……やっと階段が終わった」
肩にずっしりと、今回の収穫品がのしかかっている。
翼翔は時差ボケしないギリギリの日帰りルーティンを考えているが、他のルーターは三十時間滞在してから地球に帰還するルーティンを採用していたりする。
塔で三十時間過ごしても、地球では五時間が経過しているだけなので、時差も一時間で済むのである。
その場合、塔0Fで宿泊する必要があり、三十時間だと三回の探索が可能になる。
そういうルーターは町で部屋を借りるか、時間貸しの個室を利用したりする。
「やべー、俺も拠点ほしぃーわ。まだ2Fにも行けないルーキーだけど」
そんなことを呟きつつ、翼翔は空いているワークベンチに向かった。
◯
ワークベンチにゴミを並べる。
今回は進んだ文明のゴミが多かった。
懐中電灯らしきもの、ラジオらしきもの、薬剤とポーション、ガラスの置物、液体の入った缶などである。
ポーションは三本、いずれもカラフルな液体が入っている。
「ポーションはさすがに試さないけど……薬瓶や錠剤って飲めないかな? 中身がすげー気になる」
使用すると、能力アップの恩恵とかあるかもしれない。
逆にあのミュータントみたいになる可能性もあるのだが。
廃墟などでルーティングしたものは、基本的には使えない。
仕様が違うのか、修理して使うこともできないと言われている。
前回の廃病院は、それなりに発展した時代に建てられたものだった。
そして今回は、それよりもっと時代が進んでいるように思えた。
近未来的な大型機器があったのだ。もちろん運べないので置いてきた。
それらすべて塔1Fの廃墟の中に出現した。
あれらの建造物を使っていた者がいて、その後あそこで何がおこり、その結果として廃墟になった。
もしあの世界が崩壊し、人が死に絶え、廃墟だけが残ったのだとしたら、なぜそうなったのか興味が尽きない。
「人類が滅亡するようなら、天変地異か核戦争か……それとも異星人の侵略とかかな?」
様々な原因が予想できるし、それを研究している有識者もいる。
これは有識者の間でも、意見が分かれているらしい。
というのも、上階には地球産のものを持ち込めないため、撮影すらできない。
ひたすら記憶を思い起こしてルーターが描き起こすか、ルーティングしてきたゴミから類推するか方法がない。
塔の世界のことは、他世界のルーターに聞いても分からず、そもそも拘っている者すら少ない。
「今日俺が探索した世界がなぜ崩壊したのか……それは永遠の謎なんだろうな」
翼翔は半ば諦めた気持ちで、『買取』のボタンを押した。
「うぉおおっ……712CP! これはいったな」
今回、ほぼ限界までカバンに詰め込んで、42点のゴミを持ち帰った。
質が良かったようで、平均で17CP程度になった。
翼翔はゴミの目利きができないため、低価格のゴミも一定数混じっていた。それでもこの価格だ。
「1000CPに届かなかったのは残念だけど、いいルーティングだったな」
これまでの探索で得た全財産が723CPだ。全額ワークベンチに保管されている。
そして今回、それとほぼ同額の712CPを得たので、合計が1435CPになった。
惜しいことに、十連ガチャを引くにはあと365CP足らない。
「ガチャ一回200CPだけど、十連ガチャは1800CPなんだよな。一回分得するし、そこまで溜めたいよな」
ワークベンチのガチャシステムに十連抽選が存在して、2000CPではなく1800CPで引くことができる。
これはお得だ。できれば毎回そこまで溜めてからガチャを回したい。
「しかし、いまのところ順調だな。これもみんな先人が苦労した集大成だろうな」
初期のルーターは、マニュアルや攻略本がない状態で塔に放り出された。
初期のルーターは、周囲から話を聞きながら塔のシステムを理解したのである。
無一文だったため、まず個人キーを得るのに苦労したようだ。
地球から持ち込んだものを町で売って、1000CP貯めた。
個人キーを得てはじめて、地球産のものは塔1Fへ持ち込めないことを知った。
再びCPを集めて、町の人から服やカバンを買ったのである。
再入場制限もあったわけだし、相当大変だっただろうと想像できる。
塔の仕組みが分かっても苦難は続く。
保険料が払えない状態でミュータントに出くわし、命を落とした者がいる。
何度も死んで、保険料のためにルーティングしているだけの者はいまだいる。
ジリ貧となり、やる気を失い、国からの圧力で精神が壊れた者は引退した。
すべてに嫌気が差して、地球に戻って来なくなってしまった者もいる。
様々な理由で、生死不明のルーターが何人もいるのである。
実際、いま世界で何人のルーターが塔で活動しているのか、実数は誰も知らない。
一説には公表されているルーターの半分程度だとも言われている。
「逆に独裁国家や共産国は、ルーターの存在を民衆に隠しているって言われているよな。あ~、やだやだ」
政治的なアレコレに巻き込まれるのは遠慮したいが、翼翔の場合、ルーターということですでにその渦中にいる。
ろくな事にならないから、絶対顔バレや身分バレは絶対しないようにしようと、あらためて誓う翼翔であった。
◯
「……おっ、何か売ってるじゃん」
町で店を出しているルーターがいる。彼らは塔の高みを目指さず、低階層でルーティングしつつ、町で安定した収入を得ている者たちだ。
「いらっしゃい。自由に見ていっていいぜ」
「どうも……」
店員は機械人間だった。
一昔前のSF漫画に出てきそうな、ポンコツ機械人間っぽい外見をしている。
「オレっちの外見が気になるかい?」
「ええ……塔2Fって、ミュータントと機械人間が争っているんですよね。それって……」
「ああ、それはオレっちと全然関係ないぜ。そっちだって人間が全部一緒にされると困るだろ?」
たしかに塔には多種多様な人間がいる。それを一括りにされたら困るし、否定したくなる。
「なるほど、すみませんでした」
「いいってことよ。そもそも2Fのアレとは外見がかなり違うぜ……ってことは、塔に来たばっかかな?」
「そうです。翼翔と言います。まだ1Fをウロウロしている初心者ですけど、よろしくお願いします」
「オレっちはガッランドだ。機械人間だが、ちゃんと魂はあるんだぜ」
ガッランドは、ドンと自分の胸を叩いた。
「それで売っているのは、ガッランドさんの世界の物ですか?」
自分の世界の物を町に持ち込んで売る。これをしているルーターはかなり多い。
翼翔もいつかやってみたいと思っていた。
ただ、地球産のアイテムはすべて塔の上階へ持ち込めないので、売れ残ったものはどこかに放置するか、地球に持ち帰る必要がある。
そして一旦地球に帰ると、再入場制限のせいで次に来られるのは十二時間後になってしまう。
塔の中の時間だと三日後だ。それゆえ、中々決断できないでいた。
「正真正銘、オレっちの世界の物だ。興味あったら、手にとってじっくり見ていいぜ」
「そうですか……じゃ、遠慮なく」
翼翔が最初に手にしたのは円筒形のポット。
「それは発酵器だな。果物を入れておくと酒になる」
未成年である翼翔は「ちょっと俺には必要ないですね」と元に戻した。
翼翔は酒は飲めないし、作ったものを地球で売るにしても酒税法に引っかかる可能性がある。というか、機械人間は酒が飲めるのかと、どうでもいいことが気になった。
「これはなんですか?」
「濾光器だ。任意の波長だけをカットしたり、通したりできるぞ」
「なるほど?」
紫外線とか赤外線だけをカットするのだろうか。よく分からないので、それも元に戻した。
「これなんかどうだ? 裁線筆って言ってな、線を引いたところが切れるんだよ。ホレ、こんな感じに」
ガッランドは地面に線を書いた。少しして、その線にそって綺麗な切れ込みが地面に生まれた。
「もしかして、木とか鉄とか切れます?」
「そのくらいなら余裕だぜ」
ペンでなぞっただけで切れる。
中々便利そうな機械だと翼翔は思った。買ってみたい。あとは値段だが……。
「ちなみにおいくらですか?」
「4000CPってとこだが、ここに来たばっかみたいだし、半分の2000CPでいいぜ」
性能の通りならば、おそらく破格だろう。
地球に持ち帰れば、絶対高値で売れる。
「本当に来たばかりで、手持ちが足りません。残念ですけど」
「そうか。……オレっちはこの場所を十日間借りてて、あと四日はいるからよ、気が向いたら来てくれよな」
「はい、そうします」
そう答えたが、待機時間のせいで次に塔へ来るのは六日後。間に合わないだろう。
今回は縁がなかったと翼翔はガッランドの店をあとにしたが、翼翔は地球での金策について考えた。
他の世界の品物やガチャで出たアイテムは、日本政府や企業、好事家などが買い取ってくれる。
異界管理センターを通して売れるのだ。
ルーターが持ち帰った物は性能検査が終わったあとになるが、センター1Fに展示され、販売可能品についてはその状態で値札が貼られる。
掘り出し物目当てに、センターへ足繁く通っている人もいる。
「知り合いを多く作って、地球で販売できそうな品を買うのもいいかもしれないな」
もちろん、それをするには多くのCPが必要になるのだが。
「結局、CPか」
上階を目指すしかないと、翼翔は天井まで伸びる巨大な柱を見上げ、手をかざした。
指と指の間に、塔1Fの黒い壁が見えた。




