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003 ワークベンチでガチャを引く

 取手(とって)翼(つばさ)が塔1Fから持ち帰ったものはゴミである。ガラクタと言い換えてもいい。

 地球に持ち帰っても二束三文にしかならない。というか、ほぼ売れない。


 初期の頃は異界産ということで、もてはやされた時期もあったが、実際ゴミばかりなので、すぐに見向きもされなくなった。

 ではこのルーティングしたものをどうするのか。ワークベンチに放り込むのである。


 ワークベンチの作業台に乗せ、『買取』のボタンを押せばまとめて換金してくれる。

「さて、いくらになるかな……」


 注目の買い取りの結果は……134CPだった。


「マジかぁ……17点も持ち帰ったのに、渋いなぁ」

 散々荒らされた後だったとはいえ、1点あたり8CPにも届かない。


「苦労してこれか。上階になると買取価格の平均も上がるらしいけど……それより探索し尽くされた場所は駄目ってことだろうな」


 一般的に、より上の階のゴミほど高く買い取ってもらえる。

 だが、いまの翼翔はまだルーキー。2Fへ行く権利を有していない。


「初ルーティングだし、今回はしょうがない。気持ちを切り替えてガチャを引くか。俺にはこいつあるし……」

 ポケットから異界管理センターで貰った1000CPコインを取り出した。


 翼翔がセンターで貰ったコインは三枚。

 一枚は個人キー作成に、もう一枚は保険に使用したので、あと一枚だけ残っていた。


「ガチャは一回200CPだから、これで五回引けるな」

 この一枚は再保険加入用だ。だから本来は残しておくべきもの。


 だが後生大事に仕舞っておくよりも、いま自分に投資すべきだと翼翔は考えていた。

 ガチャを投資と考えて良いのか謎であるが。


「色は上から金、青、黄、白の四つだったよな」


 昨今のゲームガチャでは、幾重にもレア度が分かれている。

 SRやSSRは当たり前、それどころかSSSRやUR(ウルトラレア)、さらにはLR(レジェンドレア)などとインフレが進んでいる。


 だがこの世界のガチャは単純だ。たった四種類(四色)しかない。

 したがって、下から白のC(コモン)、黃のUC(アンコモン)、青のR(レア)、金のSR(スーパーレア)と分類している。


 そして排出率だが、十年間の地道な集計によると、白が全体の半分ほど。

 SRの金になると、全体の二十分の一程度しか出ない。


「――さあ、やるぞ! レア(青)以上、お願い!」


 翼翔は一度だけ祈ったあと、『CP抽選』のボタンを押した。

 派手な演出はなく、ワークベンチの排出口に白い珠が転がり出てきた。


「あ~……コモンか、残念!」

 初ガチャは白い珠だった。初回はSR以上確定などという優しい仕様ではない。


 珠に目を近づけると、アイテムの中身が読み取れる。

「……消毒液ね。上階で怪我したときに使えるし、悪くないかな」


 ガチャの珠は、砕くとアイテムに変わる。これも地球の技術では再現できないオーパーツである。

 翼翔は、珠のままポケットに入れた。


 二回目はUC(アンコモン)の手袋だった。これは防具ではなく服に分類されるため、防御性能はお察しだ。

 素手よりはマシだが、正直、使いたいとも思わない。


 珠をポケットに入れ、翼翔は三回目を引いた……が、またもやCだった。

 定番と言われるレーションの12個セット。


「う~ん、悪くはないんだけど……なんかこう、ビギナーズラック的なものが来ないの?」

 ボタンを押す前に拝んでみたが、四回目に出てきたのは、白の掌銃(しょうじゅう)。


「おっ、武器……しかも銃か、これは俺が使おう」

 白い珠を指で握ると、すぐに砕けて小さな銃が現れた。


 ガチャから出た武器や防具はバインドされているため、本人しか使えない。

 これは地球に持ち帰っても同じだ。


 手のひらより小さいそれは、飛び道具ではあるが、オモチャのような頼りなさを感じる。

 それでもこれは武器なので、見た目よりは威力がある。腐っても武器だ。


 ただ、装填してある六発しか撃てないので、いまはあまり現実的でない。

「銃の弾って、ワークベンチで買えるけど、高いんだよなぁ。……そしてガチャはあと一回か」


 貰ったCPでガチャをしているのがいけないのか、それとも物欲センサーが悪さをしているのか、ビギナーズラックさんがいまだ仕事をしていない。


「最後一回、頼む!」

出たのは青の珠。


「おおっ、レア来た!」

 すぐに覗いて見れば、傷薬とあった。


「傷薬、これ知ってる! 切り傷が治るやつだ」

 最後にビギナーズラックさんがちゃんと仕事をしてくれた。


 塔0Fのガチャはあまり期待できないらしいが、その中でもこれなら当たりの方だろう。

 もっとも、塔の中だと傷薬はかなり微妙だ。どの町にもギフトで得た治療師がいて、200~500CPも出せば大抵の怪我は治してくれる。


 つまりここでの傷薬は、コモン相当の扱いで正しい。

 だが地球に持ち帰れば、価値が出る。


「明日、異界管理センターに持ち込んでみよう」

 いくらになるのか楽しみだと翼翔は微笑んだ。


          ◯


 ガチャを引き終わって、本日の成果である134CPだけが残った。

 これがいまの翼翔の全財産となる。


 ちなみに個人キーでワークベンチから引き出せるコインの最小単位は10CP。

「これはそのままにして、町を見て回るか」


 通りを歩くと、ベコベコになった巨大看板を担(かつ)いでいる毛むくじゃらの人とすれ違った。

 ものすごい膂力(りょりょく)だが、翼翔はあれがいくらになるのか気になった。


「ほんと多種多様な人がいるなぁ……」

 大型犬がリュックを背負って、二足歩行している。だれかのペットではなく、あれもれっきとしたルーターである。


 他にも、宇宙人としか思えない人や、ゲームに出てくるモンスターにしか見えない人などもいる。

 そしてやはり、同族と連れ立って歩いている人はいない。


 地球人のルーターは、翼翔を入れて35人。

 塔0Fには121の町あるため、全員が別の町に拠点を構えている。他の種族も同様ならば、同族とつるむのは非効率的だ。


 ここにいる人たちはなぜ、この薄暮(はくぼ)の塔に呼ばれたのか。

 そしてなぜ塔には、上階を目指すシステムがあるのか。


 この10年、様々なルーターが聞いて回ったが、真実を知っている者はだれもいなかった。

 理由は知らなくても、ルーターはひたすら塔を上っていく。この世界はそういうものなのだろう。


          ◯


 町を散策中、翼翔は貸し部屋の広告看板を見つけた。

 貸し部屋とは、町にあるアパートのようなものだ。看板には100日で8000CPと書いてある。


 バカ高い値段だが、需要は高いらしく『残り二部屋』と追加で書いてあった。

 二十部屋くらいはありそうなので、あの値段にしては入居率はいい方だと思う。


 どの町にも管理組合が存在していて、結構な金額を支払うものの、組合から空いている土地を借りることができる。

 土地を借りたあと、自分の星から資材を運んで、家を建てればいいわけだ。


 管理組合の下には自警団がある。ただし、町の治安は様々。

 それらの運営費は、土地を借りている人が払うCPで成り立っている。


 そういう意味では、一部屋8000CPも高くはない……いや高い。

 ただ部屋を借りておけば、地球から持ち込んだ品を置いておけるし、自由に寝泊まりもできる。


 いまは塔1Fに弾かれないよう、地球産の物は一切持ち込んでいないが、部屋を借りれば、その制限がなくなるのだ。


「CPに余裕ができたら、俺も部屋を借りたいな」

 おそらく、すべてのルーターがそう思っていることだろう。


 ここでは何をするにもCPが必要。

 つまり、探索してルーティング(ゴミ拾い)を繰り返すことが唯一の正解なのである。


          ◯


「……よし、地球に帰ってきたぞ」

 壁の時計の針は、午後四時四十分を差していた。


「六倍の速さで時間が流れるから……向こうに四時間いた計算になるのか」

 不思議なことに、地球と薄暮の塔では、時間の流れる速さが違う。


 そして向こうにいる時間が長いと、地球に戻ってきたとき六倍の速さで老けるかといえば、それも違う。

 とあるルーターが向こうで三十年過ごして、久しぶりに地球へ帰還したことがある。


 外見はちょっと歳を取った程度……五年分ほどしか老けていなかった。

 この不思議現象をいまだ、地球の科学者は解明できていない。


 哲学者が、精神と時のうんちゃらと言っていたが、結局現象を説明しているだけだった。

「六倍の時間が確保できるなら、試験前はあっちで勉強するって手もあるよな。やらないけど」


 試験勉強は、時間があるかどうかではない。

 やる気があるかどうかなのだ。だから時間だけあっても、おそらく意味はない。


 なんにせよ翼翔は、初のルーティングを終えて無事地球に帰還を果たしたのである。


          ◯


 翌日、翼翔は傷薬をカバンに入れたまま登校した。

 空いている時間にスマートフォンでニュースを確認する。


  ――日本で七人目のルーターが誕生!


 昨日の今日で、しっかりとニュースになっていた。

 ニュースのコメント欄を見ると、また一つ野望に近づいたとか、やはり日本は未来に生きている、これでまた日本が豊かになる、などがあった。


 多くは好意的な意見だが、そうでないのもある。

 ルーターが一人もいない国へ派遣すべきだとか、またルーターに税金が投入されるのかという意見だ。


 ネガキャンしているのは他国の工作員という人もいるが、真相は分からない。

 少なくとも、否定的に捉える人間が一定数いることが確認できた。


 翼翔はそのまま、『ルーターズサイト』へアクセスした。

 これは、異界探索者つまり、ルーターしかアクセスできない専用サイトである。


 昨日、管理センターでIDと仮パスワードを発行してもらった。

 ここには企業や研究機関、国の施設などが求めるアイテムと、その買取価格が表示される。


 ざっと見たが、翼翔が聞いたことのないアイテム名ばかりが並んでいた。

 ガチャのレア以上で手に入るのだろう。もしかすると、塔5Fのガチャから出るのかもしれない。


 募集している数は一個のこともあれば、二個や三個、中にはあるだけというものもある。

 そういったアイテムには結構な額――七桁の金額が書かれているので、金があるところにはあるのだと気付かされる。


「俺が貰った初心者セット……マジか」

 1000CPコインは10万円で買い取りが出ていた。昨日三枚もらったので、それだけで三十万円だ。


 服のセットと靴がそれぞれ三万五千円、ナイフは四万円、カバンは七万円で買い取るらしい。

 水筒は中々出ないのか、十八万円の買取価格になっていた。


 初心者セットの中身はすべて、塔0Fのガチャから出る。しかもコモンである白のアイテムだ。

 それなのに、この金額で買い取ってくれるのだ。


 この買い取り価格からすると、昨日貰った初心者セットは七十万円近くすることになる。

 そしてたった七人のルーターのために、管理センターの維持費や職員の給与が発生している。


 コメントで税金のことを言っている人が多いのも頷ける。


 翼翔はここで傷薬の買取価格を調べた。

 そこに表示されている金額はなんと二十五万円。


 ――ガタッ!


 思わず立ち上がり、小さく拳を握って、あふれる喜びを押し殺した。

 たった五回のガチャで二十五万円もの大金を引き当てたのだ。


 もちろん、毎回そううまく行かないことも分かっている。

 それでもこの結果を考えれば、自分の未来は明るいのではないか。


「二十五万……」

 翼翔は歓喜に打ち震えるのであった。



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― 新着の感想 ―
最高レアのSRの排出率が5%……随分と良心的なうんえーだ。
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