011 学園祭のテーマ
本日2話目の投稿です。
それとキーワードに「ざまぁ」を追加しました。(そろそろいいかと思ったので)
翌日の昼休み。
学園祭実行委員の西河由香里が翼翔のもとへやってきた。
「取手くん。昨日の会議の内容を共有するね」
「西河さん、昨日は会議に出なくて……」
「いいの。もっと前に言っておけば良かったわけだし。……それより、各実行委員が集まって今年のテーマを決めたのね」
「ああ、毎年決めているアレか……」
翼翔たちの学校は、毎年大きなテーマを学園祭に掲げている。
各クラスの出し物も、「できれば」という但し書きがつくが、そのテーマに沿ったものが求められる。
「昨年が地域活性化で、一昨年が防災だったでしょ」
言われて翼翔は「そうだったな」と頷いた。
一年生のとき、学園祭のテーマが防災と聞いて「なんだそりゃ」と仲間たちと盛り上がった記憶がある。
結局、無理やり絡めて『防災喫茶』というわけの分からないことをやった。喫茶店をやりたい年頃なのだ。
「学校全体で緩やかなテーマを決めるのもいいよな。それに沿うかどうかはクラスごとに決めていいんだし」
「うん。それでね、今年のテーマは『塔と異世界』なんだって」
「……うん?」
「ルーターが誕生して今年で十周年なわけじゃない。文科省が協賛になって地方でもイベントとか盛んなわけだし、それに乗っかろうということみたい」
「…………」
おそらく七人目のルーターが誕生したことと無関係ではないだろう。
十周年という時期と、新たなルーター誕生が重なって、「コレはイケる!」と思ったのだろう。
「学園祭が十一月の頭でしょ。まだ一ヶ月半あるといっても、クラスの出し物は早く決めないとね」
「そ、そうだね……けど、塔と異世界かぁ……異世界? 範囲が広すぎだろ」
塔の中の世界は『異界』と呼んでいる。異世界とは、塔にいる各種ルーターたちの故郷のことだ。
由香里は「そうよねえ」と苦笑いしている。
なんにせよ、十一月に開催される学園祭に向けて、クラスの出し物を決めなければいけない。
ちなみにこれも授業の一環であるため、「出し物なし」ということはできない。
過去、クラスの出し物を『休憩室』にしてサボろうとしたクラスがあったが、実行委員が教師に呼び出されて大目玉をくらったという話が残っている。授業なのだから当然だ。
「あ~……でもうちのクラス、塔とは関係ないことをやるんじゃないかな。受験勉強も忙しいだろうし」
翼翔の言葉に、由香里はなぜか複雑そうな表情を浮かべた。
◯
「……やっぱり、鑑定では表示されないのか」
帰宅後、すぐにレプセの町へ赴いた翼翔は、町中でルーターが出している店を見て回った。
地球に戻ったとき気づいたのだが、ギフトの鑑定は、地球産のいかなる物も鑑定結果が表示されることがなかった。
名前の表示すらなし。本当に何も表示されないのである。
たしかに地球産の物はワークベンチで換金することはできない。それでも名前と0CPが表示されると思ったのだが、違っていた。
ちなみに異界産のアイテムを地球で鑑定すれば、ちゃんと鑑定結果が出る。
ならば地球以外の世界、いわゆる異世界の品はどうなのか。
それを確かめたくて、翼翔は店を見て回ったのだが、案の定というか、鑑定結果は表示されなかった。
「ルーティングしたゴミとワークベンチから出たアイテム以外は、結果が表示されない仕様なんだな」
最初に翼翔が考えた通り、これは塔の中でのみ有用なギフトのようだ。ちなみに、人を鑑定しても意味がなかった。何も表示されないのである。
「よし、気持ちを切り替えて探索に出かけるか」
鑑定があれば、高額換金できるゴミを選別できる。翼翔はカバンとポーチを持って、塔1Fへの階段を上がった。
◯
翼翔は現在、塔2Fへ行くことができない。条件を満たしていないからだ。
関係するのは、探索した回数、ワークベンチで換金した金額、もしくはゴミの数、引いたガチャの回数、武具を改造した数などである。
これらの値を合算させて、それが基準を満たせばいい。
たとえば探索だけ数十回行うとか、大量のゴミを換金しただけとか、ガチャで金の珠がいくつも排出されたとか、そういった偏った行為だけでも問題ない。
「おっ、廃工場か。ラッキー!」
塔1Fには様々な構造物が出現するが、半分は個人宅のような小さなものである。今回のように、数人のルーターがルーティング(ゴミ拾い)しても尚、高額で換金できそうなゴミが落ちてそうな場所は当たりだと言える。
「高額換金を目指すなら、早く上階へ行くしかないからな」
翼翔はまず、廃工場を遠くから眺めた。せり上がったシャッターから見える中には、人影はなし。
しばらくその場で観察するも、動くものは見えなかったので、そっと壁際まで近づいた。
「……ミュータントは排除されているようだな」
一番の懸念点がこれでなくなった。
翼翔は背を低くしながら、廃工場の中へ足を踏み入れた。
「それなりに荒らされているけど……この辺はいい感じに残っているじゃないか」
鑑定すると、34CPで換金できる錆びた銃、40CPと表示されたチェーン付きのフック、木箱の中には52CPの勲章らしきものがあった。
かなり荒らされた後だったため、数CPにしかならないものがほとんどだったが、それでもしっかりと探せば、ポツポツと見つかるくらいには、廃工場は広かった。
翼翔は、できるだけ高額表示されているものを鞄に詰め込んだ。
「おっ、これは換金アイテムのコインだな。軽くて持ち運びしやすいのに、100CPで売れるんだよな」
換金アイテムとは、12色の粘土と同じく、どの階でも出現する共通の換金素材のことで、5000CPで換金できるシャードなどがその代表格だろう。
もちろんシャードは、5Fへ行くための必要素材という側面もある。
今回見つけたコインもそう。異常気象のあとに出現する虹石も2000CPで売れるので、換金素材としての側面も持っている。
翼翔はコインを腰のポーチにしまおうとして、ふと気づいた。
「あれ? そういえば何で番号が振ってあるんだろう」
もう一度コインを鑑定すると『園貨No.34 (100CP)』と表示されている。
「コインの正式名称は、園貨なのか。……で、34番って?」
コインの裏表をじっくりと観察したが、34という数字はどこにも彫られていなかった。
つまりコインの数字は、鑑定でしか分からないことになる。
「どういうことだ? あとでだれかに聞いてみるか」
よく分からないので、翼翔は換金素材であるコイン――園貨をポーチに仕舞った。
◯
廃工場から戻った翼翔は、早速ワークベンチで換金することにした。
今回、持ち帰ったゴミは全部で62点。合計で1614CPになった。最高金額の更新である。
「――やばい! 最強だろ、鑑定」
買い取り価格を平均すると一点あたり26CPにもなる。
これが鑑定を使ってルーティングした結果だ。ちなみにポーチに入れたコインは換金していない。
ワークベンチに表示された金額を見て、翼翔は自身のルーター生活に確かな手応えを感じた。
「よし、十連ガチャで運試しを……って、保険料残さなきゃか」
前回はテンションに任せて、限界までガチャを引いてしまった。エールルに指摘されるまで保険料のことが頭からすっぽり抜けてしまっていたのだ。
塔内で死んだときのため、いつも1000CPは残しておかなければいけない。
翼翔は、ワークベンチに表示される2481CPを見て、ガチャをグッと我慢するのであった。
「異界管理センターに泣きつけば、保険料分の1000CPコインくれるらしいけど……ルーターになって数日で泣きつくのもなぁ」
また明日頑張ろうと、翼翔はその場をあとにした。
◯
「……それでは多数決の結果、クラスの出し物は琴姫さんの講演会に決まりました」
クラス会議で司会をしていた西河由香里が苦虫を噛み潰したように言うと、うわーっとクラス中が盛り上がった。
その様子をかなり引いた目で眺める翼翔と由香里。
「……結局こうなったか」
翼翔は天を仰いだ。もちろん、見慣れた天井があるわけだが。
ことの起こりはこうである。
学園祭実行委員の会議から数日後、クラスの出し物を決めるため、放課後にクラス会議が行われた。
このときまで翼翔は、クラスの雰囲気が「ウェーイ」なのをすっかり忘れていた。
五月頃からは、クラスメイトと積極的に関わらなくなっていたし、夏休み明けのクラスの雰囲気が比較的大人しかったのもある。
何の根回しもせず会議を開いてしまったため、クラスのオピニオン・リーダー(自称)江藤徹がしゃしゃり出てしまったのだ。
「塔と異世界がテーマなんだろ? だったら、No.1ルーターの琴姫を学園祭に呼ぼうぜ」
とのたまい出したのである。
No.1と言っても、ルーターの中でランキングがあるわけではなく、国内でもっとも有名かつ人気があるルーターのことである。
彼女の本名は、試楽院琴音。高貴な生まれらしく、琴姫という愛称で親しまれている。
琴姫は忙しいルーター活動の合間、積極的にルーターの好感度アップに努めているため、世間的な認知度は極めて高い。
もし学園祭に呼ぶとなっても、いちクラスが呼べるはずもない。有名アーティストや人気アイドルよりも呼ぶ難易度が高いだろう。
そのことを話して翼翔は説得したが、提案者の徹は、「それをやるのがお前だろ、なに日和ってんだよ!」ととりつく島もない。
由香里は司会であり、翼翔は板書するのが仕事なのだから発言するなというのである。
発言を封じられた翼翔が見守る中、徹が琴姫の講演を強引に推し進め、多数決を取ろうといい出したのである。
一部のウェーイ連中がノリにノッて反対できる雰囲気ではなくなってしまい、懐疑的な人たちが意見を言い出せなくなった。
そして司会を無視して徹が決を採り、このような結果になってしまった。
「じゃあ俺が体育館の一番いい時間を押さえてくるからよ、あとはちゃんとやれよ!」
徹がそう言い、話は終わったとばかりにウェーイ連中が立ち上がり、会議は終了となった。
一部のクラスメイトはドン引きである。
◯
「やっぱりこうなったわね。……まあ、ここまで酷いとは、私も想像していなかったけど」
由香里の声は疲れている。
ほとんどのクラスメイトが帰ったあと、翼翔と由香里、そして残った一部のクラスメイトともに対応策を話し合うことになった。
同情的な視線が痛い中、翼翔は気になったことを由香里に尋ねる。
「西河さん。やっぱりって、どういう意味?」
「私、江藤くんと昨年も同じクラスだったの。去年のテーマは、地域活性化だったでしょ? 『新しい地域の特産を作って販売しよう』って言い出して、あとは全部、他の人に投げたのよねぇ……あの人」
だから嫌な予感がしていたと、由香里は言った。
「聞いた事がある。あちこちに迷惑をかけて空中分解したクラスがあるって……もしかして?」
由香里は頷いた。
徹は、商店街の店主相手に大風呂敷を広げて寄付金を出させたあとは何もしなかったので、クラスメイトから顰蹙をかったらしい。
そんな妄想が実現するわけがなく、計画は途中で頓挫。
実行委員が必死に動いてなんとか体裁だけは整えたが、端から見れば、公言したことがまったく実行できていないのだから大失敗。
商店街からのクレームもクラスの実行委員に来て、そこで徹が安請け合いた諸々があとから発覚したという。
「あれは、本当にもう散々な学園祭だったかな」
そう言って由香里が困ったように微笑むと、周囲が遠い目をした。
このクラスの出し物の未来が幻視できたのだ。
「大丈夫、まかせて。なんとかするわ」
由香里がそう言う。
彼女は一見するとクラスのどこにでもいる「真面目な女子生徒」だ。
肩のあたりで切りそろえた黒髪と化粧っ気のない顔は、一般的な男子に受けるとは言い難い。
それでも、彼女にはどこか、人を惹きつけるものがあった。
「でもさ、西河さん。そんなんなら、よく実行委員を引き受けたわね」
「だって去年を知らない人がやったら、余計酷いことになると思ったから」
「真面目だ……」
それが、ここにいるクラスメイトに共通した思いだった。




